第124話 また、一騒動
ライナの表情がぱっと明るくなる。
「はい、これからもよろしくお願いします!」
そう言ってライナは腕をぎゅっとつかんできた。腕全体からライナの柔らかい体が全体に伝わってくる。
いつもライナの事見てあげなかったし、今日くらいはいいだろう。
そう考えて、ライナの髪をもう一度撫でた。
柑橘系の、甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐってくるいい香りだ。
こっちまで、気持ちが和んでくる。
ライナの甘酸っぱい香りにうっとりとしていると、後ろから誰かが抱きついてきた。
すぐに後ろを振り向く。
「ミット。何?」
ピンクのくせ毛がチャーミングの子。
最初は、私とケンカをしていたり、対立したりしていたけど、分かり合うことができた。そして、今では私に味方してくれている。
ミットは、私を物欲しそうな表情で私のことをじっと見ている。
「我も、撫でてほしいニャ」
「ミットも、甘えん坊さんなんだねぇ」
ミットもそうだ。私がいない間、いつも政務や雑務をこなしてくれた。私と一緒にいるようになってから、言葉を理解できるようになってできることがかなり増えたのだ。
元々自頭は良かったようで、どんどん仕事を覚えていって成長している。
でも、ミットもライナもあまり構ってあげられていない。
最近、リムランドのことで頭がいっぱいでそれどころじゃなかったからだ。
二人とも、しっかりと私に貢献してくれている。
今日くらいは、構ってあげよう。
それに二人が喜んでいる姿を見ていると、私も嬉しい気分になる。
「ミットも、いつもありがとう。これからも、すっごい期待してるからよろしくね」
「わかりましたニャ。これからも頑張るニャ」
ミットは、拳を握って宣言する。二人の活躍のおかげで、私はリムランドの今起きていることに集中できる。
しっかりと感謝して、大切にしなきゃ。
そして、私はミットの頭をわしゃわしゃと優しくなでた。ミットは頭を私の方に寄せてくる。とても、喜んでいるのがわかる。
「はい、これからもよろしくね」
「任せてニャ。センドラーの力になるから、よろしくニャ」
二人から、いっぱい元気をもらった。そうだ、くじけている場合じゃない。
私には、待っている人がいる。
貧しくて、恵まれない人たちのために、戦わなきゃいけない。
確かに現状。うまくいくことばかりではないしどうしようがないかもしれない。
それでも、私にできる最善のことをする。
少しだけ、気持ちが前を向くことができた。
これからも、みんなのために頑張っていこう。
数日後、リムランドの平和を大きく揺るがす出来事が起こった。
それは、朝食をとった後、議会に行くために書類の整理をしていたところだ。
「ライナ、書類の準備できた?」
「はい、大丈夫です!」
ライナが元気よく返事をしたその時。
コンコンと扉を誰かがノックする。ミットとライナが着替えなどをしていないことを確認して返事をした。
「なんですか、今開けます」
そして扉まで歩いてドアを開ける。
そこにいたのは一人の騎士の甲冑を着た人。急いでここまで来たのか、ぜえはぁと息が上がっているのがわかる。
「どしたの? そんなに急いで」
キョトンとした態度で聞くと、兵士の人が呼吸を整えた後答えた。
「また、街で暴動が起こってます」
「本当に? 何があったの?」
思わず立ち上がって言葉を返す。先日に続き頻発してしまっているようだ。
しかし、それには必ず原因というものがある。今回は何が原因なのだろうか。
「亜人達が街を我が物にするためにやっていることだという噂が流れています。みんな、それを信じ込んでしまって街で混乱が広がっています。そして、一部で暴力行為が起こっています」
「本当に?」
その言葉に、私はぎょっとした。
とりあえず、詳しく聞いてみよう。
「変な噂とか、流れてない」
「ああ、確かありましたね。手を取り合って人間たちの社会をひっくり返すとか、そういう主張をしているという噂が流れているんです」
兵士の人はそう言いながら、困り果てている様子だ。
「何それ?」
「そう言いたいんですが、本当に広がっていて、信じ込んでいる人がそれなに要るんです。嘘──ですよね?」
「当然でしょ。なるほどね。なんとなく理解したわ」
話を聞いて、一瞬で嘘だということを理解した。
第一亜人だっていろんな場所から来た人の寄せ集めみたいな感じで、決して一枚岩となっているわけではない。一つにまとまるというのはあり得ないと言ってもいい。どう考えても嘘八百だ。
「で、街はどうなっているの?」
「噂を信じた人による亜人達への暴行や敗訴運動が起こっております。規模が大きくなり始めていて、このままでは収拾がつかなくなりそうです」
「本当に?」
突然の知らせに耳を疑いたくなる。
しかし、この前私は見ていた。人間と亜人が殴り合いになっているのを。
この前も起きていたのだから、今起こっても全く不思議ではない。どうしてこうなっているかはわからないけれど、やることは一つしかない。
「ライナ、行きましょ」
「分かりました」
ライナは、明るい表情で敬礼した。私を慕ってくれるだけじゃなく、こうしていざとなった時しっかり協力してくれている。
それが、とても嬉しい。
扉にいる兵士の人に向かって、元気よく親指を立てる。
「分かったわ。報告ありがと、今すぐ街へ行くわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます