第96話 テレパシー
扉の向こうでは、すでに会議が始まっていた。中にいる、色々な人たちの声が耳に入る。
扉の外で、ソニータの呼びかけを待つ。
その間、扉に耳を当て、会議の様子を聞く。
話しているのは、声からしてブルムだ。
自信満々な声で、会議室でバルティカとの協定について話している。
「皆様、バルティカと協定を結べば、我が国に多大なる利益をもたらします。この機を逃がさないわけにはいきません」
「大丈夫です。私がバルティカの人達と話し合いました。私達が損をする事は、万が一にもあり得ません。すべて私に、お任せください!」
周囲からも、おおぉ……。など特に反論をする人もいない。賛同する声や、「いいんじゃないか」などという太鼓持ちのような言葉の数々。
このままいけば、確実に決まってしまうだろう。
バルティカとの条約が──。
そんなとき、ソニータの声が聞こえた。
「皆さん。待ってください」
ソニータの突然の言葉に、周囲がシーンと静まり返った。
そして、ソニータの声が聞こえだす。
「バルティカには、不安要素があります」
その言葉に、ブルムが反論した。半ば本気にしていないような、冗談交じりの口調で。
「なんだそれ。言ってみろよ。その証拠をよ!」
「それを説明するのは、私ではありません」
「じゃあ、誰がするんだよ」
ブルムが、余裕ぶった声で言葉を返して来る。
もう、自分が勝ったと言わんばかりの余裕ぶりだ。
「お前も知っている事だろう。こいつだ──」
そんなソニータの声が聞こえた後、ピッと指をはじく音が耳に入った。
「時間ね」
(ええ──)
そう言って隣のセンドラー―に視線を向けると、こくりとうなづいた。
みんなが私に力を貸してくれた。
後は、私だけ。私がブルムを追い詰めて、悪事を暴く。
ペタン──、フォッシュ──、カルノさん、コンラート。
みんなの想い、無駄にはしない。
さあ、行こう──。
そう決意して、私はとびらを開けた。
キィィィィィィ──。
扉を開けた先は、広くて豪華な絵画が飾られている会議室。
高級そうな机を取り囲むように、この国の貴族の要人たちが椅子に座り込んでいた。
上座にはソニータがいて、右側の真ん中あたりには、私を見て唖然としているブルムの姿があった。
口を開けて、ポカンとしている。私がここに来ることを、想定していなかったというのがわかる。
他の貴族たちも、私を見るなり左右をキョロキョロし始めたり、ひそひそ話をしはじめたり、明らかにこの場の空気が動揺していた。
「セ、セ、セ、センドラー?? お前──何しに来た!」
動揺して、体を震わせながら私を指さすブルム。
私は、腰に手を当てて言い返す。
「何って、今の流れでわからないの? あんたがバルティカにまんまと騙されそうになっていたから、それを説明してあげようとしただけよ」
「フッ、俺の足を引っ張ろうとしたんだろうが、そうはいかないぞ」
ブルムは、余裕ぶった表情で言葉を返す。
まるで、自分が騙されているとは考えていないかのように。
その鼻、すぐにへし折ってやるんだから。そして私は じっと貴族の人たちの方を見る。瞬間、センドラーと人格を交代。
(ありがとう。後は、私に任せて──)
(信じてるわ)
ここからは理詰めの言い争いになる可能性が高い。
それならば、私よりセンドラーの方が有利だ。
「お待たせ。私が、全部説明するわ」
私達が登場したことで、この場が大きくざわめきだす。
「あれ、センドラーじゃないか」
「ラストピアに左遷されたはずだろ。何でいるんだよ」
「しかもソニータ側だろ。絶対何かあるって」
参加者が周囲の人たちとひそひそ話をしている。
そして、体をびくびくさせてセンドラーを指さしている人物が約一名。
「センドラー……なぜ貴様がここにいる……」
「何故って、 あんたがあまりにも私への敵対心を拗らせて、大事なものを見落としているから、それを教えに来たのよ。ブルム」
すると、私達の脳裏に、とある人物の声がよぎる。
「大丈夫か、センドラー。こっちはOKだ」
「こっちも、行けそう。ちょっと待ってて、カルノさん」
そう、カルノさんだ。
彼は、私といったん別れた後、作戦を成功させるために、単独で動いていたのだ。
そして、テレパシーに関する術式で私達と交信。
向こうもうまくいっていたようで、どこかご機嫌だった。
「じゃあ、こっちの映像、流すけど準備はいい?」
「あ──いいよ」
そして、センドラーが左手を部屋の壁に向かってかざす。
「準備OK」
センドラーの言葉とともに、センドラーのかざした左手が、白く光始める。その光は光りながら壁に向かって進み、壁も同じように一瞬だけ真っ白に光った。
そして、奥にある壁に、映像が映し出された。
「誰だあれ」
「あーカルノさんだろ。でも何であんな所にいるんだ?
再びざわめきだすこの場。
「何で、壁なんかにあいつが写っているんだよ」
予想もしなかったことが次々と起こり、騒然となるこの場。映像には、一見ではわからない、大きな部屋にいるカルノさんの姿。
私には、ベルティカの王室だというのが一目でわかる。
これも、カルノさんの術式だ。特別な、テレパスに関する術式によって、この場の映像を、送り付けることができるらしい。
バルティカの政府内に既に忍び込んでいて、そこから映像を送りつけて持っているのだ。カルノさんは、私達をいったん別れた後、活動をしていたのだ。
捏造と噓を積み重ねていた証拠を突き付けるために──。
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