第95話 さあ、行こう──
センドラーは交代するなり、いきなりソニータをにらみつけて言い放つ。
「そんなんだからあなたは上手くいかないのよ」
「どういうことだ!」
センドラーの強気で挑発的な物言いに、ソニータが強く反発する。
こうやって正論で殴りつけるようなやり方。
センドラーの良い所でもあり、悪い所でもある。
今は、どっちに転ぶのだろうか。
「簡単よ。いざというときに勝利への執念ではなく、自分の感情を優先させてしまう。そんな未熟だから、部下の裏切りも見抜けない。利用される。そして──見捨てられるのよ!」
正論でソニータを、殴りつける。
ソニータは、返す言葉が無いのだろう。うつむいて黙りこくってしまった。
「確かに、私は未熟……かもしれない。私は、どうすればいいのだ」
椅子に座りながら、肘をついて両手で顔を覆う。相当、精神的にショックを受けているというのがわかる。
センドラーは、腕を組みながら大きくため息をつくと、ソニータに手を差し伸べてきた。
「手を組みましょう。2人なら、ブルムを倒せるわ」
ソニータは、差し出された手を目の前にどう対応すればいいかわからないのかオロオロとしている。
無理もない。ここにいた時は、対立しあっていた仲なのだから。
それでも。センドラーは訴え続ける。
「全くもう……こんな時に意地を張ってる場合じゃないでしょ」
「それは、わかっている。しかし……」
ソニータの態度はまだ煮え切らない。業を煮やしたのか、センドラーは右手を上げ──。
パシィィィィィン──。
軽くソニータの頬をひっぱたく。いきなりの行動にカッとなるソニータ。
「な、何をするいきなり」
私も、唖然とする。いくら何でも……手を組まなきゃいけないってのに。
(それは、まずいんじゃないの?)
(ソニータなら、この位平気よ。だって、まかりなりにも国王なんだもの)
センドラーは、自信たっぷりに言葉を返して来る。
確かに、そうだ。
「いい加減しなさい。思い出して、あなたにとって一番大事なものは何? 自分の気持ちを満足させることなの?」
「そ、それは……」
戸惑うソニータ。でも、最後には人々を救いたいという選択を取る。 それが、国家元首というもの
徐々に表情に強さが戻っていく。
「私にここまで言われて、それでもじぶんの意地を通すことをえらぶの?」
その言葉に、ソニータの表情がはっとなる。
私にもわかる。ソニータの心が変わっていくことに。
もちろん、わだかまりのようなものがあるのだろう。
それでも、答えを出す最後の一押しをしたのは、国王としての意地。そして、国民を守るため、という使命感──だろうか。小さな声で、言葉を返した。
ソニータは、コクリとうなづいて言葉を発した。
「わかった。私は、こんな所で操り人形になるなんてまっぴらごめんだ。手を組んでやる」
良かった。思わずフッと笑みがこぼれた。
センドラーの表情にも、安堵の色がこぼれる。
ひと悶着こそあったものの、何とか協力体制ができた。
後は、力を合わせてブルムを倒すだけだ。
「それで、私はどうすればいいのだ?」
「証拠は、すでにそろっているの。だから、明日のバルティカとの重要会議に、私を招き入れてちょうだい。しっかりと、私が説明するわ」
「……わかった。今回ばかりは、手を組もう」
「ありがとう。あなたからその言葉を聞けて、心の底から嬉しいわ」
センドラーの表情に、フッとした笑みがこぼれる。
「絶対、出来るのだな?」
センドラーは真剣な表情で、コクリとうなづいて、言葉を返した。
「だから、私はここに来たのよ」
「お前の言葉は、信じる。だが、自分の立場──理解しているのか?」
ソニータの言葉の意味は、分かる。
私は、リムランドではすべての権限を剥奪され、追放されたただの人。
何かを主張したところで、権限はない。
それでも、やらなきゃいけないことはある。
「大丈夫。ブルムは、私のことを心の底から恨んでいる。私が挑発をすれば、アイツは必ず追い出さずに乗ってくる。それに、私は毅然と反論する。それだけよ」
その言葉にソニータは顔を手で覆い、少しの間黙り込んでしまった。
かつては国王の座をかけて争った身。そんな私と手を組むことに、抵抗があるのだろう。
けれど、私にはわかる。
ソニータは、最後には自分のプライドよりも、国のことを考えると──。
そして、重い口が開いた。
「わかった。私に、力を貸してくれ──」
その言葉に、私の口からフッと笑みがこぼれた。
そして、ソニータの両手をぎゅっとつかむ。
「──ありがとう」
こうして私達は一時的にだが、手を組むこととなった。
色々乗り越えてここまで来た。これで、準備はOK。後は、ブルムたちを追い詰めるだけ。
さあ、行こう──。
翌日。
カルノさんやコンラートと打ち合わせをして、最後の準備が終わる。
その後、ライナをホテルに置いてから、要人たちがいる会議室へと向かった。
「センドラー様、私──信じてますから。頑張ってください」
「大丈夫。絶対に、負けないから」
ぶりっ子のポーズで、ライナは応援の言葉をくれた。私は、会議室の方へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます