第97話 無事、解決

 捏造と噓を積み重ねていた証拠を突き付けるために──。





「大丈夫。こっちも、全部説明した。これだ、見てみろ」


 カルノさんが映像越しに書類を突き付けてくる。


 騒然となるこの場。そして、そこには偽りのバルティカの国の財政を記した帳簿。

 そして、悲惨な状況になっている現実の財政状況を記された帳簿。


 赤字だらけで、マイナスになっているものが大量に羅列されている。

 どれだけ嘘を塗り固めているかが、そこに記されていた。


 その内容を、私が口で説明し始める。


 バルティカは、以前から慢性的な財政難に悩まされていた。


 腐敗した貴族たちの、税金の浪費。

 内戦や国境付近での争い──。


 また、内陸国であるため海運が使用できず、物資の移動コストも馬車に頼りきりでそれも負担になっていた。



 それらが重なり、バルティカは財政難を迎えていたものの、周辺国へのメンツもあり打ち明けることができなかった。


 結果、議会などで公表している数字は全て操作された偽りの数字となり、「粉飾決算」をしていたのだった。


 しかし、あくまで帳簿上の数字を嘘で塗り固めただけあって、本質的な問題は解決せず、どこかで利益を得る必要があった。



 そのために、リムランドと手を組んだのだ。そして、出世欲が人一倍強くて、理にあざといやつを味方につけ、ウソの数字を垂らし込んでだまし込む。


 そんな馬鹿な奴なら盲目になり、自分たちの嘘を隠し通せるから──。


「そして、無能なあんたはバルティカの策略に気が付かずまんまと騙されてたって訳よ」


 壁には、カルノさんが証拠の書類を、バルティカの国王に突き付けている姿。

 二人がうなだれている姿が、そこにあった。


「おいブルム、どういうことだよこれ」


「まんまと、騙されてるじゃねぇかよ。バルティカなんかに。責任取れ責任!」


 この場がざわざわとざわめきだす。

 動揺する貴族たち。


 当然のことだ、今まで自信満々に語っていたことが、実は手のひらに踊らされ、騙されたのだから。


 大国のメンツというものがある以上、格下の国に騙されていたとなれば屈辱以外の何物でもない。


「待ってください、これは……」


「待ってじゃねぇよ。見損なったぞお前」


 ブルム自体も、ちょっとは頭が回るみたいだが、この場を見るに、周囲の人望はまるでなかったのだろう。


 私やソニータへの罵倒ぶりを見れば想像はついていたが──。

 それでも今までは、ヘイグへのゴマすり具合や策略などで、力でいうことを言わせてきたが、その力も今全くダメだったというのがわかった。


 もう、こいつは終わったと言っていいだろう。

 けど、まだ終わらせない。こいつには、まだ問い詰めなきゃいけないことがあるからだ。



 センドラーがギッとブルムをにらみつける。


 ただならぬプレッシャーがセンドラーから感じ始め、押し潰されそうになる。その気迫に、私も思わず一歩引いてしまう。


 ブルムは、センドラーを見つめながらブルブルと体を震わせている。


 そして、センドラーと現実から逃げるかのように後ずさった。


 1歩、1歩。しかし、それに合わせるようにセンドラーもその分ブルムに近づく。

 現実からは逃げられない、逃がさない。


 そう、言っているかのように。


「ブルム。選びなさい──」


「ひっ……ひっ……」


 あまりの眼力に怯えるあまり、まともに受け答えも出来なくなっているブルムの前にセンドラーは、両手に人差し指を胸の場所で立てて、見せつける。


「1つは、この場で自分の無能さと罪をさらけ出し、私に心から謝罪すること。そしてその後で、しかるべき罰を受ける。まあ、出世は絶望的、元の領地へ帰って大人しく畑でも耕すことになるでしょうかね。もう1つは──」


 センドラーは右手を閉じて、左手の人差し指を突き付けた。


「開き直って、自分を最後まで正当化し続けること。当然、もう私はかばわない。間違いなくここからは追放。恐らく裁判になるわね。ここから北の地シベリナで、寒い中永遠に強制労働──。そして寒さに震えて死ぬ。さあ、選びなさい」


 腰を抜かしたブルムはしばらくの間、あうあうと口を動かしていて何もしゃべらない。

 そして、しばらく時間が経つと──。



「ひ、ひぃぃぃぃ~~」


 泣きじゃくりながら何度も地面を頭でたたき、土下座してきた。


 さっきまでの勢いは、全くない。周りの貴族たちも、どうすればいいかわからずオロオロとしている。

 ヘイグは、腕を組んで座ったままだが──。


 あまりにも強いヘイグはまだしも、ブルムの方は、終わったといっても過言ではない。

 小国だと高をくくっていたバルティカに、まんまと騙されていたのだから。


 周囲も、彼の力量を買ったり、信頼関係を築いたわけでもない。

 利益によって、つながっていただけ。そして、ブルムにそれができなくなれば、彼らはただ離れていく。


 まあ、後は領地でひっそりと暮らすことになるだろう。どちらにせよ、もうキャリアを積むことはできないだろう。放心状態のブルムを見ながら、私は話しかける。


(よくやったじゃない)


(私だけのおかげじゃないわ。私は、最後の背中を押しただけ)


 謙遜しているのを見て、センドラーも変わったのだろうと感じる。

 表情が、どこか柔らかくなった。


(それもそうね)

 

 ここで成果を誇るのはやめよう。みんなで、つかんだ勝利なのだから。

 ともかく、これにて事態は解決。

 あとは、後処理と──ソニータとの話だけだ。

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