第84話 リムランド。対抗策

 ブルム視点。リムランド王国。

 その中でも中央政府にあたる場所。


 パルテラス宮殿。

 この王国の権威を象徴するかのような国一番の大きさと豪華さを持つ白亜の建造物。


 その中で、一番上の階。窓からは、王都を見下せる場所に俺はいた。


「では、会議を始めよう」


 会議室の上座の部分から、そう女の声が聞こえる。




 豪華な飾りに雄大な景色を描いた絵画。

 金銀で作られた豪華な家具。


 そんな部屋に集まる、リムランドの重要人物たち。


 ここはリムランドでも有力な貴族と国王、政務をとる者のみが入ることをを許可される会議室。


 そんな会議室の机の上座。


 そこにいるのは長身で銀色のストレートな長髪をしている女

 グレーナー=フォン=ソニータ。センドラーの姉であり、彼女の家であり、この国の王家。グレーナー家の新しい当主、国王である。


 当主と言っても、まだ若く、そこまで影響力がない。

 絶対的な権力を持っていないので、実質的な権力は俺達大御所の貴族や各大臣などが握っていて今のこの国では、その中で権力争いや政局争いが当たり前の様に行われているのだ。


 渡された書類を片手に、書類に視線を向けながら内容を話していく。


「バルティカと手を組み、重要な金属が手に入る鉱山を手に入れ、一部を併合させるという計画は、失敗に終わりそうだ」


「ブルム、お前ダメじゃねぇか」


「これじゃあ、お前。無能だと言ってるような物じゃねぇか」


 他の貴族たちからそんな言葉が聞こえる。

 嘲笑の様な、見下すような声。


 そう言っているのは俺と対立関係にあるやつばかり。

 権力争いが激しいリムランドの中では、足の引っ張り合いが日常茶飯事だ。


 誰かが失敗をしたり、うまくいかないことがあるとそいつを蹴落とすために、全力でたたいて攻撃をするということが日常的に行われている。


 もちろん、俺も気に入らないやつをそれで散々蹴落として失脚させた。


 中には罪を擦り付けられたり、俺が裏工作を仕掛けて蹴落とした奴もいるのは公然の秘密。


 だからこんなふうに批判の声が来るのは想定済みだ。


 こういう時大事なことは、守りに入ったり、受けに回らないこと。

 隙を作るとこいつらは、自分たちのペースに入ろうとどんどん付け入ってくる。


 だから失敗や負けを絶対に認めてはいけないのだ。


 まずカバンから書類を取り出して机に言うて立ち上がる。

 自信満々な表情のまま俺は言葉を返し始めた。


「わかりました。ソニータ様。私が話しましょう。まだ、計画は終わっていません」


「わかった。それで、どうするつもりだ? すでに多額の出費を出しているのだぞ」


「どうするも、一つしかありません。確かに、一度目の策は失敗した。しかし、ここで折れてはならない。さらにマリスネスと手を組み、あの鉱山や、周辺の土地を手に入れ、我が国の利益とするのです」


 あの鉱山から取れる銀。埋蔵量が世界でも類を見ない量を誇っている。

 更に質もいい。


 それだけではなく、周辺の山からも石炭が出るのではないかと現地へ行った人物から噂になっている。


 俺様の出世争い、そしてセンドラーへの復讐のために絶対にここで引くわけにはいかない。


 強気な態度と、自信満々な態度は崩さない。絶対に、敗北を認めてはいけないのだ。


「つったってよぉ、お前失敗したじゃねぇかよ。この恥さらし!」


「そうだよ。いい加減その席譲れよ。無能!」


 他の奴がヤジを飛ばして来るが気にも留めない。

 ソニータは指を組んで言葉を返して来る。


「言葉は乱暴だが、その通りだブルム。貴様は一度失敗し、バルティカと対立関係になりかけてしまっている。おまけに──センドラーの奴が相手に、いるそうじゃないか」


「まぐれですよまぐれ。この俺様が本気を出せばあんな小娘と小国、ひとひねりですぜ!」


「それに、私達の配下であるラストピア。そしてそこにいるセンドラーにやられたままだというのは、威厳にかかわります」


「確かに、それはそうだ」


 ソニータが、コクリとうなづく。

 こいつも、若造なりにそれは分かっている。


 我らリムランドは強い軍事力を背景に周辺の小国たちに不当ともいえる条約を課して、それなりの利益を一方的に得ている。

 大国であるリムランドが失態を重ねれば、小国たちはリムランドに必ず歯向かってくるだろう。


 軍事力で押さえつけるにしても、周辺の街道を塞いでその国の物流を完全に遮断にさせてわからせるにしても、それなりに手間と費用が掛かる。


 だから、大国としての威厳はできる限り保っておきたい。

 ソニータも、それくらいは理解しているだろう。


 だからこう言ってリムランドの威厳を盾にすれば、ホイホイ乗ってくれる


「ですので、ここからの逆転劇の策。その書類と資料をお持ちしました。おい、早く配れ! メイド」


 そして、それを使用人のメイドに配らせる。黒髪のメイド女は言われてようやくあせあせとしながら資料を他にやつらのテーブルに置いた。

 全く、とろいメイドだ。


 ソニータや他の貴族たちに配ったのは、資料。


 ここから挽回するのにかかる費用。それから、計画が成功して、鉱山にある資源をマリスネスと分け合った時の利益。


 そしてそのための寝返り工作や費用だ。


 まあ、捏造だらけの数字なのだが……。

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