第83話 和解した結果

 そしてルートンたちがこの場を去っていく。


 部屋のドアが閉まる。


 そして、足音が遠くなり、彼らがこの場を去って行ったことを確認。

 大きく、ため息をついた。


「はぁ~~っ。やっと終わった~~~~っ」


「何とか、乗り越えましたね」


 さっきまでギリギリの状況が続いていて、張り詰めた空気が漂っていた。

 やっとそれが終わり、私達に安堵の時が訪れたのだ。


「フォッシュ、みんな。ありがとうね、助かったわ──」


 みんな今までの緊張が抜け、その場にへたり込んでしまった。それくらい、張り詰めていたのだ。

 ペタンは、大きく息を吐いて苦笑いをして言葉を返す。


「確かに、危機一髪だったな」


「そうよ。機密書類をゴミ箱なんかに放ったやつのせいで、大変だったんだから」


「まあ、2人のおかげで何とか乗り切ったんですけどね」


 ライナの言う通りだ。ペタンとガルフ。彼らの交渉がこじれたままだったら、打つ手が無かった。2人が自分たちの感情を抑え、力を合わせることを決めたから、この結果になったのだ。彼らのおかげでもある。

 けれど、2人だってはじめっからうまくいってたわけじゃ無かった。


「聞いたわ。あんた達も、決裂寸前だったんですって」


 ペタンは外の景色に視線を移して言葉を返す。


「ああ。けどフォッシュが本当に大切なものを思い出させてくれた」


「いいえ。私は何もしていません。思い出したのは、二人なんですから──」


 フォッシュは、自分の行いを誇ることもなくもなくそう言う。

 そういう所が、彼女のいい所だと思った。


 私は、フォッシュの方を向いてフッと笑みを浮かべた。


「でも、それをつなぎ合わせたのだってすごいよ」


「いいえ……そんな」


 右手を振って否定しようとするが、断じてそんなことはない。


 2人とも自分たちの国民や配下の人たち部族の人たちのことをとても考えていると思う。

 しかし、強い想いのあまりすれ違ったり仲違いをしてしまうと大きくこじれてしまうことは想像できる。


 何とかしようと心の中ではわかってても絶対感情が邪魔をしてしまい、うまくいかなかっただろう。

 そして、そんな2人に大切なものを気付かせることだって、決して楽な事ではないはずだ。


 私は、そのことを伝えた。


「そ、そうなんですか?」


「そうよ。あなた、すごいことやってるんだから、もっと誇ってもいいと思う」


「──ありがとうございます」


 何とか、危機は脱することができた。ガルフやペタン、フォッシュの力を借りて──。


 けれど、これでことが収まったわけではない。まだまだ危機は続く。

 また、みんなで力を合わせて頑張っていこう。



 そしてこの場が落ち着いた直後──。







 そして、私は一端部屋を出て、別の場所に向かった。

 一階の来客室。

 コンコンとノックをして扉を開ける。


「何だ、センドラーじゃないか」


「話があるんです、カルノさん」


 黒いソファーに座っていた人物。


 黒髪で長身。眼鏡をかけていて落ち着きのある印象の人物。

 カルノさんだ。


 彼はルートン調査団だが、住んでいる国はバルティカだったため、ここで別れとなったのだ。


 そして帰りの馬車を手配中で、ここにいるということ。


 カルノさんは与えられた紅茶を飲み干して、机に置く。

 それから誠実そうな表情で、話しかけてきた。


「どうにか、疑いは晴れましたね」


「ええ……。でも、聞きたいことがあるんだけどいい?」


「何でしょうか──」


「ルートンに何か言ってましたよね。ガルフさんが釈明をした後──」


 話は、ルートンが突きつけた手引書を、ガルフさんが釈明をした時だ。

 あの時は逼迫した状況で特に気にとめていなかったが、今冷静に思い出すと、彼がの言葉があったように思える。


 それでも、ルートンはガルフの言葉を嘘だと主張し、押し切ることだってできた。

 それをしなかったのは──。


「カルノさんが、ルートンたちに何か吹きかけていたからですよね……」


 あの時、彼がルートンの耳元で何かを囁いていた。

 その瞬間、ニヤリとした笑みをしたルートンの表情が変わったのを見た。


 そこから、カルノさんが何か重要な事を知っているのではないかという推測に、すぐにたどり着いた。


 カルノさんは与えられていたコーヒーを飲み干して、ゆっくりと机に置いた。

 そして、大きく息を吐いて──。


「申し訳ありません。今の私からは、何も言う権利がないんです」


 がっかりそうな表情で答えた。

 私は、思わず一歩前に出て、言葉を返す。


「そういう契約なの?」


 カルノさんは、何も言わずにコクリとうなづいた。

 どうやらそうらしい。確かに、機密を知られたくない──などで契約内容に黙秘義務を記している場合というのは存在する。


 カルノさんに対しても、そういったことをしていたのだ。


(何か、怪しい雰囲気が漂うわね……)



 センドラーの言葉通りだ。何か、そこに大きな秘密があるのだろうか……。


 色々とさぐってみれば、重要そうな情報が出て来るかもしれない。

 ひょっとしたら、私達の問題を解決する突破口にだってなるかもしれない。


 でも、今はまだそんな確証はない。



 彼は、リムランドやマリスネスと一体何があったのか。


 謎は、膨らむばかりだ……。

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