第85話 捏造

 バレはしないから、別に問題はない。どうせ、馬鹿どもにはわかりはしないのだ。


 理由は簡単。この女、国王の席の居心地がいいのか、あまり外に出たり実際に国民に出向いたりしない。国王の椅子に座って、書類を見たり側近たちから話を聞くのがせいぜい。


 実際に街を見て自分で国のことを見たり、感じたりということをしない。

 だから 数値を改ざんし、周囲へコネを回せば俺様の言いなりも同然だ。


「どうか、この私めの計画に追加融資と兵力を下さい。必ずや、計画を成功させ、ソニータ様とこのリムランドの利益になるでしょう」



 ソニータはその言葉に心を動かされたのか椅子から前のめるになって言葉を返す。


「それさえあれば、ボルド村の鉱山は手に入れられるのだな?」


「大丈夫です。それだけあれば、センドラーやマリスネスなどひとひねりです。ですから、この案件は、どうか私にお任せ下さい」


 そう言って私は頭を下げる。


「わかったブルム。君の案を受け入れよう。この案件は、すべて君に任せる」


 下げた頭の中で、思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。


 これで、俺様の評価はさらに上がる。おまけにセンドラーは極寒の地へ左遷決定。

 素晴らしいことこの上ない。



 そして、表情を元に戻して顔を上げ、ソニータに言葉を返す。


「ありがとうございますソニータ様。このブルム。必ずや鉱山を手に入れ、我が国の利益としますことを約束します」


「よろしく頼むぞ」


 ソニータの言葉に俺はぺこりと頭を下げた。

 敵対する奴らはぶつぶつと俺に何か言っている。


 まあ、結果を出して黙らせればいいだろう。


 待っていろセンドラー、必ずや、貴様に吠えずらをかかせてやる!






 会議が終わった後、俺はソニータの政務室へと移動した。

 そこにいたのはソニータともう1人の人物。


 俺がばっとソファーに座り込むと、ソニータがねぎらいの言葉をかけてくれた。


「先ほどの会議はお疲れ様だ。評判、良くなかったな」


「ですねぇ。まあ、馬鹿どもにはわからんのですよ。俺様のすばらしさは」


「そうか。いい自身だ。気に入ったぞ」


 話に入ったのはソニータの隣でソファーに深々と偉そうに座っているやつ。


 彼女の最側近であるヘイグだ。


 長身で筋骨隆々。王国でもかなりのベテランな人物だ。歳は……60を超えている。俺がここに来たのはこんな女のねぎらい目的ではない。

 こいつと、話を付けることだ。


「それで、バルティカとの協力関係だったな」


 その言葉に俺は思わず身を乗り出して言葉を返す。


「はい。これがその資料です」


 そしてカバンからヘイグ様用のバルティカと手を組んだ時に受ける恩恵をアピールする資料だ。

 どれだけの利益を得て、どれだけの重要な資源を独占できるかが記されている。

 もちろん、数字を盛ってはいるのだが。


 ヘイグは興味津々そうに資料をしばらく見た後、資料を返して来た。


「わかった。話は通しておくよ」


「へへっ、ありがとうございます」


 私は感謝を込めてぺこりと頭を下げた。

 ヘイグは、先代国王の最側近で実質的なナンバー2。そして、ソニータもその影響力を自らの権力争いに組み込もうと急接近をして蜜月な関係を作っている。互いに己の利益のために共闘体制を作っていると言った感じだ。


 政府への影響力で言えばある意味ではソニータよりも上だろう。


 大ベテランの上、長年政府にいたせいで人脈もある。俺がこいつに資料を見せたのはそれが理由だ。


 ヘイグに取り入って、政府内のヘイグ派の人間たちの支持を取り付けること。


 こういった裏工作や根回し、ロビー活動が物を言う。それに比べれば、さっきまでの会議などこういった活動に最後に行う結果を皆に周知するための儀式にすぎない。

 さっきの会議でいた口ばっかりの貴族たちにはそれがわからんのだろう。あいつらがどれだけ騒ごうと、内部の人間に賛成派を多数作ってしまえば問題なく通る。


 そしてセンドラーはラストピアからも追放。俺はさらに出世というわけだ。


「ということで貴族や人の手配、頼むぞソニータ」


「……了解です」


 ソニータが軽く頭を下げた。このことからも、ソニータがヘイグに頭が上がらないというのがわかる。


 先代国王の側近というのは、ソニータにとっても厄介な存在だ。政府内に一定の勢力があり、自らの力を示すのに必要不可欠な一方、彼自身が権威となっていて、ソニータ自身の権威の邪魔になってしまうのだ。


 こうして表向きでは協力関係にあるが、ヘイグはソニータのことを、自分がいなければ政府に権力を維持できない未熟者と見下しているし、ソニータ自身も彼を目の上のたん瘤だと理解している。


 先代国王の最側近ということで、ソニータからすれば彼は自分に権威がいかなくなる存在。


 互いに、信頼し合っていない二人。


 これは、利用できる──。

 こいつらを利用すれば、俺はもっと出世できる。それこそ、裏で王国のすべてを支配できるくらいに……。


 とりあえず、さらなる出資のめどはついた。どれだけセンドラーが抵抗しようと所詮貴様らは小国。俺達が金を出せばどうすることもなく屈するしかないのだ。 


 そして、ヘイグは去って行った。後は、力で押し潰すだけだ。

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