第61話 本当に? あの人たち

「ありましたね、センドラー様」


 ライナがそうつぶやいて、スッと書類を取り出した。


 取り出した書類を、一枚ずつ床に置き、その内容を確認。


 その内容を見ていくごとに、私達は表情を失っていく。

 そしてそこにはコボルトたちの財政に関する状況と、これからの予定が事細かに記されていたのだ。


 私達は思わずその内容を見る。


 財政状況が、破綻寸前あること。そしてそれを何とかしようと、リムランドのブルムやバルティカとつながりの深いベルクソンが資金の援助を彼らに要求した。


 これといった産業もなく、貸し付けたとしても返せるあてなどないコボルトたち。

 ブルムたちは彼らに資金を貸し付ける条件として、自分たちのために動くことを要求した。


 そして今回、マリスネスへの買収工作のため、彼らへの難民としてこの地に移動。

 味方になると思わせといて国民となり、この国の参政権を入手する。


 それから、ペタン達を裏切ってオオカミたちについて、彼らに取り入るようにとの流れが記載されていたのだった。


 一言で言うと、彼らがペタン達にすり寄ったのは、味方のふりをして実はペタン達に最後の一撃を加えるためだった。


 そして、それに対してようやく事実を知ったのだ。証拠付きで──。



 そしてセンドラーが親指を立て、にっこりとほほ笑んだ。


「私の読みは、当たっていたわ」


「大変な事に、なってたんだニャ」


「やっぱりねぇ。予想通りだったわぁ」


 自信に満ちた表情で、ピッと指をはじきながら言う。


「どういうことですか? センドラー様」


 そしてセンドラーは彼女自身が感じていた違和感を話し始める。


 センドラーがコボルトたちに対して感じていた違和感はこんな感じだ。


 彼らが元居た場所から、ここまで何百人も連れてくるというのは簡単な事ではない。


 歩いて数か月はかかるはず。いくら命からがらと言われたって、その費用を全員分賄うとなると膨大なものになるはずだ。


 各地で食料を買いそろえたり、移動の物資を人数分購入したり。

 めぼしい産業があるわけでもない彼らにそれらの費用は重くのしかかるはず。


 となると、考えられる手段の一つはならず者だと言われるのを覚悟で各地で略奪をしたりして物資を確保すること。


 しかし、子供たちにここに逃げる間、どうやって生活をしていたかを聞いたが、彼らはそんなことは一言も言わなかった。


 物を盗んだり、略奪などをしたりしていないか詳しく聞いてもそんなことは、絶対にしないと強く反発された。


 まあ、ウェイガンをちょっと見ればわかるけど、彼がそんなことをするようにはとても見えない。


 となればもう一つ考える手段。それはウェイガン達に出資先がいるということだ。


 そして、他の借り入れの契約書からその流れが見えて来た。

 彼らの側近のベルクソン。彼は自分の妻の人脈を通してバルティカやリムランドから多額の資金を借り入れていたとのことだった。



 そして、資金を貸し出す条件の一つとして、ブルムやバルティカの意向に従って行動することとなっている。


 当然だ。彼らにしてみれば、多額の金を担保なしでコボルトたちに貸し付けていたのだから──。

 もしコボルトたちが金を変なことに使えば、そのまま貸し付けた資金は焦げ付いてしまい、そのまま損失となってしまう。


 この世界でもなければ生きていけない金を与える代わりに、彼らに首輪につけ、使える駒として使おうとしたのだろう。



 やはりといった感じだ。

 その書類たちセンドラーたちが取り囲み、深刻そうな表情になっている。


「これは一大事よぉ」


「そ、そうだニャ」


「けれど、何とか敵の狙いを見つけられましたね」


 ライナの言う通り、証拠を突き付けることができた。

 なんとか契約を阻止することができそうだ。



(良かったね。センドラー)


「ええ、みんな」


 センドラーが眠そうに目をこすりながら話しかける。

 確かに、日付を越えてからしばらくたっている。


 考えてみれば明日は重要な条約の調印式。何かあった時のことを考えると頭が回る状態にしておきたい。


「センドラー様。眠そうですね、ふぁ~~あ」


 ライナも、眠そうにあくびをしている。


「とりあえず、今日はもう遅いし、寝ましょう」


「わかりましたニャ」


 そして私達はこの部屋を片付け、寝室へ。

 一緒のベッドに入り、星空を見ながら布団に入ったセンドラーに話しかけた。


(ちょっといいかな?)


(あの人達、本当に悪い人たちだったのかな……)


(まだ答えは出せないけど。生き残るっそういうことよぉ。綺麗ごとを貫いて死ぬか、汚い手を使ってでも、悪と手をつないででも生き残るか──)


(そうよね……)


 周囲が敵になっている中で、生き残るということは、そういうことだ。


 窓から外の景色を見ながら、私は両手を頭の下に置き、考える。

 複雑な気分だ。私だって、今までいろんな人と接してきた。だからその人と話したり、コミュニケーションをすればその人なりがわかる。


 ウェイガンもベルクソンも、悪いことをする人ではない。だから彼らを信じることができた。

 だから今もこのことが、信じられない。


 書類の内容を見たときは、驚いて思考がフリーズしてしまった。

 生き残るために、仕方なくやったのだろうか。


(命の危機に、手段なんて選んでいられないわぁ。犯罪行為に手を染めないだけでも、大したものよぉ)



(そう……)


 確かに大ごとにはなったけれど……。

 いくら私が考えたところで、本当の答えは分からない。


 まずは、明日だ。センドラーと話し合ってやることはすでに決まっていた。


 ペタンにこのことを伝える。そして、この先のことを一緒に考える。

 彼らの想い、絶対に踏みにじらせはしない──。

 そう強く心に決め、夢の中へと入って行った。

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