第60話  夜、秘密の調査

 そして私達はマリスネスに到着。


 到着後、ペタンに一言、「オオカミの奴らとか、いろいろ調べたいことがある」といって、夜にいろいろな怪しい奴の部屋を調べる。

 いろいろ調べたが、なかなか見つからない。


 状況が動いたのは最終日の前日。

 私はベルクソンの政務室へと侵入。昨日までは彼が夜遅くまで政務をとっていたらしく、今日しか捜査できなかったのだ。


「じゃあ、やっとつかんだチャンス。行くわよ!」


「はい、センドラー様!」


 そしてライナとミットと一緒に操作をしようとしたその時。


 フラッ──。


 突然、目の前の視界がぐにゃあぁと歪み始める。

 そして真っ白になった後、ふらりと両足の力が抜け、その場にへたり込んでしまう。

 すぐにライナとミットがこっちに寄ってきた。


「センドラー様?」


「大丈夫かニャ?」


 体育座りのような格好で座り込みながら、何があったのかを理解。

 最近、働き過ぎた。そのツケが、今回ってきたのだ。


 思えばここ最近、夜遅くまで仕事仕事の毎日だった。

 マリスネスやバルティカに行っていた時の分のカバー。


 それをしながら職務の合間を縫い、マリスネスへのサポートをしている。

 いろいろな政務をしながらだと、毎日深夜まで仕事が終わらない


 なので昼間はコーヒーなどのカフェイン漬けになりながら強引に体を起こし職務をこなす日々。

 そんな無理が、今になってたたったのだ。



 膝をついて倒れていると、右からライナ左からミットが私の腕をつかむ。


「センドラー様。大丈夫ですか?」


「ちょっと、休んだ方がいいニャ」


 ミットの言葉、本当は優しくて、私のために言っているのがわかる。

 けれど、明日はマリスネスへの出国の日。そのために証拠を探し出さないといけない。


 だから今だけは、無理をしてでもがんばらないと──。

 深呼吸をして何とか立ち上がろうとしたその時。




 サス、サスッ──。



 誰かが私の背中を優しくさする。思わず背後を向く。

 センドラーだった。優しい微笑を浮かべながら話しかける。


(──もう、一人で毎日頑張って)


(だって、頑張らなきゃ……)


(倒れたら意味ないでしょ。わたしに変わりなさい──。あなたは休んで)


 センドラーの言葉。今の私の心に、とても染みる。

 反論するすべはなかった。


(ありがとう。私は休ませてもらうわ)


 そしてすぐに人格を交代。辛いかもしれないけれど、頑張って。

 交代したセンドラー。手をグーパーしてため息をつく。


(脚は筋肉痛、瞼は重いし、あくびは止まらない。こんな状態でよくがんばってたわねぇ)


 センドラーはため息をついて私に向かって愚痴っている。


(しょ、しょうがないじゃない)


(まあ、お疲れ様。後は私がやるわ)



 そして、センドラーは立ち上がりお尻をパンパンと払いライナとミットに向けた。


「看病ありがとう。私はもう大丈夫。さあ、行きましょう」


 ライナは、何かを察したのかしばし無言になった後、センドラーを見てニッコリ笑い、言葉を返す。


「……了解です。絶対証拠を見つけましょうね。強い方のセンドラー様!」


 やっぱり気付かれたか。

 センドラーもピクリと眉が動き、若干顔が引きつったのがわかる。

 ミットは、何のことがわからず、二人の顔をただ見ていた。


 そして捜査を再開。


 戸棚の中や、机の下などをくまなく探していく。

 私とは違いパッと見るだけではなく、トントンと叩いたり、前後左右から見たり、変な仕掛けが無いようによく見ている。




 座席の後ろにあるタンス。そこの左隅の引き出しをがらりと開ける。

 そこは私も開けたが何もなかった。どうでもいいノートが一つあるだけ。


 しかし、センドラーは棚の中身を疑っているような表情でじーっと見る。


「あれ? この引き出し」


「どうしたんですか? センドラー様」


 センドラーは棚の底をツンツン触りながら言葉を返す。


「ずいぶんと板が分厚いわね、これ」


 そしてコンコンとそこの板を軽くたたく。


「空洞?」


(やけに分厚いと思ったら叩いても板の底は全く反応していないわぁ。これってまさか──)


(空洞?)


 私の言葉を聞いたセンドラー。すぐにライナとミットを手招きして呼び寄せる。


「ライナ、ミット、手伝って」


「はいニャ」


「わかりました」


 そしてセンドラーはライナ、ミットと一緒に戸棚から引き出しを取り出す。

 中の書類を床に置いて、引き出しをいろいろな角度から見てみる。


「センドラー様。そこに穴があるニャ」


「──本当ねぇ。これ、まさか……」


 センドラー、指を顎に当てながら考えていると、部屋の中を歩きだす。

 そしてペン入れに視線を入れると、その中に手を入れ、一つの物に視線を送る。


「これ……何に使うのかしら」


 センドラーが取り出したのは、ペン入れの中にあるペンのほかに一つだけ銀でできた長細い棒。


「──わからないですね、センドラー様」


「……これ、まさか」


 センドラー、銀の棒を見てボソッとつぶやく。

 その長い棒を引き出しの小さな穴に入れる。


 そして長い棒のそこを指の腹でポンと押す。

 すると、引き出しの板は二重底になっていたようで、上の部分にあった板が持ち上がる形になった。



 上にある底の下に、一つの書類の束がある。

 ごくりと息を呑む。


「ありましたね、センドラー様」

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