第39話 ライナの本音

 ハイドとの一戦から数日後──。


 場所は、私達の部屋。



「じゃあ、行ってくるニャ」


 ミットがかしこまったスーツを着て部屋の入口に立っている。

 緊張しているのか、気を付けのポーズでピンとたっている。


 理由は簡単。今日はミットが問題がない人物か判断するため、人事担当の人と面会を行ってくる日だ。

 もっとも、周囲に根回しは済んでいる。担当者も、特に問題もなく大丈夫だと言ってくれた。


 それでも、彼女だけ特別扱いするわけにはいかない。

 なので形だけ、形式上ミットが面会に行くというものだ。


「行ってらっしゃい。帰ってきたら、結果の方教えてね」


「分かったニャ。行ってくるニャ」


 そしてミットはドアを閉めて、その場所へと去っていく。

 彼女なら、大丈夫だと思う。


 悪い子じゃないし、最近は文字の勉強だってしている。

 前はどこかやさぐれている様子もあったけれど、今は少しずつだけど、心を開いてきてくれている。


 きっと、私達の力になってくれるだろう。

 そう考えていると、後ろからライナが話しかけてきた。


「センドラー様♡」


 小柄で黒髪でツインテール、ライナだ。胸のあたりで両手を重ね、うっとりとした表情で話しかけてくる。いつもより甘ったるい、私に求愛をしているような声色。


 それはもう、両目がハートマークで出来ているくらいに──。

 センドラーは、すでにかなり警戒している眼付き。


「な、なに?」


 するとライナは隣にあるタンスへと歩いていって、一番下の棚を開ける。そしてすぐに右手で棚を占めると、左手をパーにして、私に何かを見せつけてきた。


「これ、なんだか覚えていますか?」


「これ? え~~と」


 ライナが見せつけてきたのは小さい入れ物に入っている人差し指位の、干からびた緑の雑草。


 私はその草をじーっと見て思い出す。すると、背後のセンドラーが話しかけてきた。


(これ、以前のデートで買ったやつじゃない?)


 その言葉で思い出す。


「確か、以前のデートで──闇市で買ったやつよね」


「はい! それで、どんなものかは分かりますか?」


「どんなもの? 確か──怪しいおじさんだかおばさんだか言っていた……隠し事をしたり嘘をついたりすることができなくなるってやつ」


「正解。流石はセンドラー様ですぅ」


 そう言いながらライナは満面の笑みを浮かべ、その薬草を手に取った。


「私、センドラー様に、言いたいことがあって──、けれど、伝えられなくて──」


 顔を真っ赤にして、もじもじとしながらしゃべるライナ。


 ……なんとなくライナがやりたいことがわかった。センドラーの方も、かなりけげんな表情をして、私に話しかけてきた。


(絶対に、防ぎなさい!)


(──わかってる)


 私は引き攣った作り笑いを浮かべながらライナに話しかける。


「ライナちゃん?」


「な、何でしょう……」


「私はライナの気持ち、よくわかってる。だからそんなもの使わなくたって──」


「いいえ、使います。使って、センドラー様の愛を勝ち取るんですっ!!」


「まっ──」


 しかし、私の引き留めもむなしくセンドラーは私の静止を聞かずにその薬草を飲み込んでしまった。


 ああ、遅かったか……。後ろのセンドラーも、額に手を当てあきれ果てた。


 ライナは、遠くを見るかのように虚ろな目で顔をほうっとさせている。


 真っ赤顔、私をじーっと見ていた。


 そして数十秒ほどたつと、ライナが口を開き始める。


「私、センドラー様のことが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで。心の底から愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて。これって赤い糸につながれた運命ですよね。これはもう、結婚して夫婦になるしかないですよね」


 そしてライナは私のところに詰め寄り、ちょうど胸の位置に顔が当たり私を見上げてくる。

 うっとりとした表情で、目にハートマークを浮かべながらじっと──。


 ほ、本当に正直になっちゃった。以前、デートの後にライナはラブレターを送ったことがあった。

 しかし、今回感じたライナの愛はその時以上のものだ。


(秋乃ぉ。すぐに突き飛ばしなさい、いろいろと危ないわよ。身の危険を感じるわ)


 センドラーが気迫の表情で後ろから叫んでくる。確かに、今のライナなら一線を越えることも辞さない覚悟があると感じる。


 私が戸惑っている間にも、ライナはどんどん私に迫ってくる。



「ずっと一緒に泊まって寝食を共にしましょう お風呂も、トイレも、何ならベッドも一緒に──そして二人で大人の階段を登るんですっ。ここが天国かってくらいの気持ちになりましょう」


「そ、そこまで私の事好きなの?」


「当たり前ですよ。私はセンドラー様のすべてが好き。 きりっとした表情が好きです強い正義感が好きです天使の様な優しい笑顔が好きです私を救ってくれた心が好きです。私の嫁になってください!」


 そしてライナは私の両手をぎゅっと握る。予想もしなかった強いアタックに私は言葉を失ってしまう。


「でもほら。私女性だから……」



「じゃあ私センドラー様の嫁になります。センドラー様と夫婦になって、私がすべてを満たします。私がセンドラー様の子供を産みますっ。二人で愛の結晶をはぐくみましょう。子供を作って最高の家庭を作りましょう!」


「い、いやいやいろいろとおかしいでしょ。正気に戻ってライナちゃん」


 顔をほんのりと赤くし、恍惚な表情を浮かべながらぺろりと唇を嘗め回す。


「これが私の正気です。受け取って下さい。私の気持ちを──」


 そしてライナは私に顔を近づけてきた

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