第40話 私のこと、バレてたの?

「これが私の正気です。受け取って下さい。私の気持ちを──」


 そしてライナは私に顔を近づけてきた

 そうささやきながら、桃色の唾液でぬれきった唇が私の唇に触れる。柔らかく、ふんわりとした触感の唇。


 強引にキスをしてきたのだ。さすがにこれ以上はまずい。


 ──と理性では理解していたが、両腕を彼女の手ががしっとつかんでいて全く動くことができない。


 そして彼女は、するりと私の首になめらかで細い腕を、蛇のように絡み付ける。


「センドラー様ぁ~~」


 その瞬間私の口の中に暖かく柔らかいものが入ってきた。まるで私の口の中をむさぼるようにいろいろな場所に触れてくる。すぐに理解した、これはライナの唇なのだと。大人のキスをしているのだと。


 ライナの甘い唾液が私の口の中に入り、身も心もライナに染まってしまいそうな気持ちに思わずなってしまう。


 とろける様な舌が私の口の中で絡み合う。抵抗しようとするが、舌が絡み合うたびに私の力が吸い取られるような感覚に襲われ、されるがままになってしまった。



 私の体が暖かくほてり始める。ライナのとろとろの舌を感じているうちに私の中にこのまま身を任せたい、委ねたいという感情が芽生え始める。


 時間にして数十秒ほど、しかし私にとっては永遠ともいえる時間が続く。


 一端ライナは私から唇を離す。


「じゃあ作りましょう。イブとイブ。私と一緒に愛の結晶を~~」


 そしてライナは後ろにあるベッドに私を押し倒す。押し倒された私、そしてライナはゆっくりと服を脱ぎ始める──。


(変わりなさい!)


 背後にいるセンドラーが叫ぶ。

 その時の気迫のこもった目、溢れんばかりの殺気に私は固まってしまう。そして私は自分の体から突き飛ばされるように離脱。ベッドの下に転がる。


 ドン!!


 センドラーはすぐにライナに向かって回し蹴りを見舞う。

 ライナはそのまま意識を失いその場に倒れこんだ。


 そのままうつぶせになり、ピクリとも動かない。

 どうやら気絶しているようだ。


「ふぅ。危なかったわぁ──」


 センドラーは大きくため息をついて額に手を当てる。

 疲れを見せているよう。


 それからライナを姫様抱っこで抱きかかえベッドへ。掛布団をかけて寝かせると、ため息をつく。



「もう、あの装置に触れるのはやめましょう。国会での使用と同じように絶対に使わない使ってはいけない決まりよ。わかったわね」


 それはそうね。さすがに私でも貞操の危機を感じたし──。


「そ、そうね──。って国会でも使用禁止なの?」



「当然じゃない。隠し事ができなくなる装置なんて使ったら国が崩壊するわ」


「……そ、そうよね」


 私は半ば呆れながら言葉を返す。確か規則にあったわね。

 わかるわ。こんなものを持ち込んだら社会が崩壊するわ。


 そしてセンドラーは寝込んでいるライナに視線を向けた。


「とりあえず、ライナなんだけど──」


(気を付けるってことね。最後の一線を越えないようにってこと……)


 センドラーの警戒の言葉。私も理解できる。


 あのハートマークがついた目。ライナ、完全に私になついている。彼女のペースにのまれたら、確実に夜、快楽に任せて戻れない関係になってしまうわ。


「当然よ。友達として接するのは認めるけど、それはわきまえなさい」


(わかってる。そこはきちんとけじめるつけるから)


 センドラーの忠告。すぐに

 そしてこの場に沈黙が流れたその時──。


「う、うぅ……」


 ベッドからかすれたような声が聞こえ、私達は会話をやめる。


 ライナが目を覚ましたのだ。目をこすりながらこっちを見る。


(センドラー、変わろうか?)


(いい、あなたに代わったら彼女に流されてどんな目に合うかわかったもんじゃないわぁ)


「ラ、ライナちゃん。ごめんねぇ~~やりすぎちゃったぁ──。痛い所はない?」



 センドラーは引き攣ったような作り笑顔で言葉を返す。彼女なりに精一杯接しようとしているのだろう。

 ライナは意外にもかしこまったような表情になり、ぺこりと頭を下げた。


「……先ほどはすみませんでした。つい本能むき出しになってしまって──」


「ああ、私びっくりしちゃった──。今回は許すけど、これからは気を付けてね。」


「わかりました。いつかあなたにも認めてもらえるように頑張ります。もう一人のセンドラー様♡」


(えっっっっっ──)


 その言葉に私もセンドラーも驚愕して言葉を失ってしまう。

 もう一人のセンドラーという言葉──。このことをしっているのは私達以外にいないはず。




 センドラーは一瞬だけ意表を突かれたように顔を引きつらせるが、すぐにア顔を作り直す。

 そして動揺を隠せないまま言葉を返した。


「ホ、ホホホ──。何を言っているの。私は二人もいないわぁ、熱でもあるんじゃないのぉ」


 しかしライナの表情は変わらない。今までにないくらい、迷いなど感じていないにっこりとした自信満々な笑顔。


 そしてその笑顔のまま言葉を返して来る。


「いいえ。私にはわかりますよ。センドラー様は二人いるって、私が大好きな優しいセンドラー様と、私を警戒している強いセンドラー様。ですよね? さっきと言葉のイントネーションが違いますよ。隠しても駄目です」

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