第38話 ハイドとの決着

 ハイドは、たくさんの女の人をはべらかせ、自分のことを自慢。

 街一番の冒険者だとか、俺が最強だとか。

 時々女の子の胸や尻を触っている。


 女の子たちは、引き攣った笑いでごまかしている。仕事柄、逆らえないんだろうな……。

 待っててね、今助けるから──。


 センドラーはライナとの打ち合わせが終わると、ワインを口に入れながらちらちらとハイドの方へ視線を向ける。


 ハイドのことを誘っているような、目を細めた微笑。



 そして数十秒後、ぱったりとセンドラーとハイドの視線が合った。

 ハイドは一瞬驚いた表情をした後、浮かべるにやりとした笑み。



 そして優雅にワインを飲んでいるセンドラーの方を向いて話しかけた。


「おう、オワコンバカ女がこんなところに何しに来たんだよ。まぐれで強い魔物でも倒したのかよぉ。借金あんだろ、早く返済しろよ」


 私達の姿を見ても余裕の笑みを見せるハイド。自分が裁かれるなんて、考えても見ないのだろう。

 後で吠えずら書かせてやるんだから。


 次にライナがハイドの方へ振り向いて言葉を返す。


「ハイド様。そんなふうに言わないでくさい。私達は今、とても幸せな日を迎えているんですから──」


 ライナの言葉を聞いても、ハイドは余裕そうにしている。よほど自分が裁かれないと自信があるのだろう。


 その余裕、すぐに消し飛ばしてやるんだから。


「なんだよハッピーな日って。教えてくれよ、元仲間なんだからよ」


 軽はずみなハイドの言葉。センドラーがワイングラスを机に置いてそっと言葉を返した。



「あんたが失脚する日よ」


「失脚って、つまらない冗談言うやつだな。それはお前のことだろ!!」


 ハイドは隣の女と肩を組み、余裕の表情で笑う。やっぱり理解していないみたい、自分の今の状況を。


 待っていなさい。

 ライナが余裕な笑みを浮かべ、しゃべり始める。


「確か、あのスラム街を根城にしている商会でしたねセンドラー様。確か──」


「そうそう、どこかにいるおバカさんが隠し資産をてんこ盛りに抱えている場所よ。けどそれもおしまい、もう差し押さえは完了しているわ。そこの資産の移動記録から、魔王軍とのつながりも把握できる。もうハイドとかいうバカは袋のネズミ。逮捕を待つだけだわ」


 そう、ミットからすでに話は聞いていた。取引をしていた商社の存在を。


 そして私はその商会にこの間、エンゲルスとの話を終えた後に行ってハイドの入金差し止めをするように説得したのだ。

 多少センドラーのきつい言葉もあったけれど、何とか対応してくれた。


 ちょっと嫌な顔をしていたけど、私が慌てて人格を変わり「こういうことをしなくても、生活が出来るようにするから、私を信じてほしい」と言葉を返した。


 商人の人は「信じてるよ、姉ちゃん」とどこか安心して言葉を返してくれた。

 そして、差し止めすることを決めてくれたのだ。


 これも、ミットが私のことを信じてくれたからできたようなものだ。


 そして当のハイド、その言葉を聞いて表情を失い、手に持っていたワイングラスを落としてしまった。


 慌てて対応する女の子たち。

 そんな姿は目に暮れず、しばらくの間視線をきょろきょろとさせた後一瞬で目の色を変え、隣にいたミットに迫る。


「ミット。お前が教えたのか!!」


 ミットは激高するハイドに一瞬ひるんでしまうが、すぐに強い目つきで言葉を返し始めた。


「そ、そうだニャ──」


 その瞬間、ハイドの目つきが変わった。一気に感情を爆発させ、机をドンと叩いて怒鳴り散らす。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! お前に一体いくら金を出したと思っている。俺様の奴隷の分際で、いっちょ前な事を言うんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「確かにハイドには感謝しているニャ。けどハイドは金を出すばかりだったニャ。それを利用して悪いことをしようとしていたニャ。このままハイドについていったら、私は犯罪者になっていたニャ」


「ふざけるな。お前、ぶっ殺してやる!」


 そのままミットの顔を殴り飛ばす。ミットは一メートルほど体を吹き飛ばさせ倒れこんだ。

 そしてハイドは大きく叫び声を上げ、暴れはじめた。


 周囲の机をひっくり返すと、机の上にあったワイングラスや皿がガッシャンと割れる。さらに周囲の女の子をひっぱたく。


 周囲にある机も


 お前、ただでさえ破産するってのに。この店の物を壊して、弁償額がすごいことになるぞ──。


 周囲の店員が慌ててハイドを止めようとして彼を押さえつけようとする。しかし彼は店員を殴り蹴り、それを跳ね除けた。


 そして私をじっと見つめる。


「返せ──、返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ。俺の金ぇぇぇぇぇ」


「『俺の』じゃなくて『俺たちの』金なんですけどね──」


 ライナの言う通り、これは本来パーティー全員で分けるもので、こいつが独り占めしていい代物じゃない。


 それをわからないうちは、こいつにパーティーを組む資格なんてないと私は思う。


(秋乃。あんたに花は持たせるわぁ。このうぬぼれ屋さんに、現実というものを見せつけてやりなさい──)


(当然!)


 そして私はセンドラーと人格を交代。

 私は自身の剣を召喚。そのままハイドと対峙する。


 ハイドは私を殺気満々な目つきでにらみつけてくる。二人が戦うというのは、この場にいる誰もが理解しているだろう。



 時間にして数十秒ほど、互いににらみ合う。


「この野郎──! 始末してやる!!」


 ハイドは一気に私に向かって切りかかってくる。店の中ということであまり身動きが取れないが、彼は気が立っているせいか単純な攻撃しかしてこない。


 私はその攻撃をするりと回避していく。

 ハイドはそれに負けずに何度も私に突っ込んでくる。


 そのたびに他の机にあるワイングラスや皿が地面に落ち、割れてしまう。


「この野郎──、ぶっ殺してやる!」


 騒然とする店内。そろそろ勝負を決めてあげないと、ハイドは損害賠償でえらいことになってしまう。


 そして私は彼が振りかざした


 壁にたたきつけられる。私はすぐに倒れこんだハイドの元へ小走りで向かう。


 ハイドは大きなダメージを受け、せき込みながら何とか立ち上がろうとする。その瞬間私は彼の喉元に剣を突き付けた。


「これでおしまいよ。おとなしく捕まりなさい」


 ハイドはようやくあきらめたようで、小さく縮こまってしまう。


「私は政府の人間としていろいろな人を見てきたからひとこと言わせてもらうわ。ランクが高い冒険者だからってからって何をやってもいいと思ったら大間違いよ。あんたは、リーダーの器じゃない。あなたに心からついてくれる人なんて存在しないわ」



「クッソ……。クッソォォォォォォォォォォォォ──」


 ハイドは拳を地面に何度も叩きつけ、悔し涙を流しその場に倒れこんだ。

 その姿を見てミットは私のそばにより、身体を震わせながらぎゅっと服のすそを掴む。


「あ、ありがとう……ニャ」


 私はミットの頭を優しくなでる。


「それはこっちのセリフだよ。私を信じてくれて、ありがとうね」


 そうだ、ミットの協力が無ければ私達はどうすることも出来なかった。

 敵の家を訪れる事も、こうしてハイドを追い詰めることも──。



 だから、感謝の気持ちがやまない。これからも、一緒に暮らそうね。


 そしてライナが最後に締めの一言。


「今回は、正義が勝ってよかったですね──」


「──そうだね」


 私は自信満々に言葉を返す。




 この後、ハイドは捕まった。そして取り調べや調査の結果、数々の悪行が発見される。

 冒険者ギルドは直ちにハイドの冒険者資格を剝奪。

 もう少ししたら裁判が始まるそうだ。


 この店の破壊した者の損害賠償も併せて、この後どうするつもりなのだろうか……。


 他の仲間達も、余罪が追及された。魔王軍との癒着。それだけでなく違法な取引など──。


 全員まとめて刑の重い軽いはあるものの、処罰されるそうだ。

 もっとも、ここからは司法の出番なので、私が出る幕はもうないわけだが──。


 これで何とかこの事件は一件落着だ。

 ここから始まるんだ。センドラーを、この国を、破滅から救うのは。


 大変な事もいろいろあるだろうけれど、頑張っていこう。


 そして私は、今日も政務に出る──。


 このラストピアでセンドラーのために、国民達のために。

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