第31話 気付き

 半ばあきれている彼女に、私は困った表情で返す。


(しょうがないでしょう。予想していなかったんだから)


(私は予想していたわ。だから対策だってしっかりとしているわ)



 その言葉に私ははっとする。すごいじゃん、センドラー。


(──ふぅ。右ポケットに、メモがあるから、それをもとに確認しなさい)


 センドラーの言葉通り右ポケットに手を入れると、そこには一枚のメモ用紙があった。


 私は、こんなものを入れた記憶なんてないのに──。


(あんたが昼寝をしていたスキに、私が変わったの。主要な取引商社や土地情報などをピックアップしておいたの)


(あ、ありがとうセンドラー)


 意気揚々にそのメモ用紙を開く。そこに記載されているのはラストピアと取引がある商社や個人名のリストだ。

 それも、どれも怪しいうわさがあるという評判の。


 そしてこれをライナにも見せる。


「これがラストピアで怪しいと評判のリストよ」


「すごいですセンドラー様。これをもとに確認すればいいんですね」


 ライナもはっと表情も明るくなる。


 私達はそのメモを元に資料などを調べる。

 そして何度も確認していると一つの事実に気が付く。


「あれっ、この商社だけ名前が載ってないわ」


 すると隣にいたライナがそれに気づく。


「あっ、この商社知ってます」


「どんな商社なの?」


「デヴィルズ商社。スラム街でも評判が悪いいわくつきの商社です。不法労働のあっせんとか、違法な薬物の売買とかいろいろ悪いうわさが流れていて、貧困層の中でもかかわらない方がいいと言われているんです」


「へぇ、いわくつきの商社っってことね」


 これはいい情報を得た。これならいけそう。

 それからも、しばらく資料を当たる。


 結論から言うと、他にも、全く見られない商社や商人もいて、それらはいずれもいわくつきの奴らだ。

 奴隷商人や、魔王軍たちとの取引がある連中だっていた。


 ──が。


「ふぁ~~あ。うぅ……眠い」


 止まらないあくび。流石に、疲労も極限状態になってきている。

 ライナに至ってはうとうとし始めていた。


 センドラーもそれに気づいて話しかけてくる。


(さすがに眠くなってきたわね)


(当たり前じゃない)



(もういいでしょう。あまり長居は無用よ。見回りの人が来ちゃうし、そろそろ引いた方がいいわ)


 確かにね。この宮殿では、深夜三時ごろに兵士たちによる巡回がある。


 機密があるこの部屋までは来ないと思うけれど、万が一ってこともあるし。

 それに、この資料の隠し先だって見つけなければいけない。


「ライナ、ここはいったん帰りましょう」


「ふぁい。わかりました~~」


 明らかに眠そうな声。ここまで頑張ってくれて、ありがとうね)




 鍵をかけ、元の部屋の位置に戻す。



 そして足音を立てないように移動し、部屋に戻って寝た。


 ベッドについた後、布団をかぶりながら考える。取りあえず資料が意図的に紛失されているのは理解できた。

 後は、その場所を探し当てるだけ。

 果たして、その場所は見つかるのだろうか。


 残り時間は少ないけれど。絶対に頑張ろう。

 絶対に、センドラーを犯罪者になんてさせない。

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