第30話 深夜、眠気と戦いながら──
次の日から、私は動き始めた。
「とりあえず、まずはこの資料からね」
通常業務をこなしながら、周囲に怪しまれずに行わなければいけない以上時間がかかる。
しかし時間がない以上、あまり悠長にやっていられない。
そのためライナの協力してもらい、いろいろな資料を集めてもらったのだが──。
「本当なの?」
「そうですセンドラー様。資料の一部が、欠損しているんです」
ライナは困り果てた表情で話しかける。
理由を簡潔に言うと、資料がなくなっているのだ。
具体的には、いらなくなったり、余剰になったと言われている剣や弓矢などの武器の売買記録。
国民達から宮殿で雇用する人物に関する資料。財源確保のため、国有地の売却を行った時の、売却先に関する資料。
それに関する資料の一部が、なくなっていうのだ。そしてそれらの記録をしている書物には一つの共通点があった。
「センドラー様、これ──」
ライナが不思議そうな表情をしてその部分に指をさす。
「うん。絶対破いてるよね」
書物のところどころ、資料のページが明らかに誰かに食いちぎられたような跡をしているのだ。
私は口をへの形にして考える。
(誰かが意図的に破いてどこかへやったのねぇ)
(じゃあ、捨てちゃたってこと? もう焼いたとか)
(いいえ。それは考えにくいわぁ。書類には保管義務があるの。一枚ならともかく、これだけの数の紛失、いつかはバレると思うのぉ。そしたらエンゲルスに少なからず責任が降りかかるわぁ)
(だから隠すってことね。ほとぼりが冷めたら元に戻せるように)
(まあ、それでも、なりふり構わず証拠を消したいっていうんならあり得るけどぉ。流石に自分たちに責任が降りかかるのは嫌がるはずよ)
センドラーは腕を組んで話しかけてくる。
(なんでわかるの?)
(自己保身にたけたやつらだから)
つまり、私がやることは一つ。紛失した書類を把握すること。
それから、書類の隠し場所を見つけること。
途方もつかないけど、しらみつぶしにあたってくしかないか。
そして二人で話し合った内容をライナにも伝える。
ライナは、どこか肩を落として言葉を返す。
「そ、そんな途方もない作業を、誰にも見つからずにですか?」
「確かに、ちょっと部屋の資料をあさるだけならともかくこの宮殿全部でそんなことをやったら目立っちゃうわ」
「はい、下手をしたら見つかりますよね」
ライナの言葉通りだ、私は腕を組んで考えこむ。
資料を捨てるということはエンゲルスたちもそれだけ私達のことを警戒しているのだろう。
なので下手に動き回るのはまずい。
するとセンドラー、肩に手を置き話しかけてくる。
(いい考えがあるわ秋乃)
(考え? 教えて)
(ちょっときついかもしれないけどぉ──。みんなが寝静まった後にやればいいと思うわぁ。ライナにも協力を頼んで)
(──それしかないかぁ。ほとんど徹夜同然になりそう)
その言葉に思わず頭を掻きうなだれる。こうなるとほとんど寝れずに朝を迎えるから、次の日がきつい。しかし時間がない以上それしかない。
私は申し訳なさそうにライナに頼み込む。
「ごめんねライナ、頼みがあるんだけどいい?」
「な、何なりと。センドラー様」
そして私達は行動に出ることとなった。待ってろエンゲルス達、このままじゃ終わらないんだから。
みんなの仕事が終わり、宮殿内の電気が消えたころ。
資料室で私達は動いていた。
夜も遅く、時間的に日付が変わったあたり。
「あっ、ここも無くなっています。センドラー様」
本来こういった国家の金の管理の書類は重要機密のため、厳重な鍵を掛けられている。
なので、こっそりと鍵の場所を記憶しておいて、中に入って資料を見ているのだ。
「ふぁ~~あ、やっぱり眠い」
仕事が終わって、夕食とシャワーを終えほとんど寝ずにここに来た。
一時間ほど仮眠をとったものの、それだけではやはりきついようだ。
ランプの光のそばに本棚にある資料を近づけて、無くなったような跡がないかを探す。
予想通り、時折破いた跡などが発見される。
時々眠気が襲い掛かり、あくびをしたり目をこすったり。
ライナも、時々あくびをしている。やはり眠そうだ。迷惑をかけちゃったな……。
私はライナの肩をツンツンと叩き、話しかける。
「ごめんねライナ、こんな夜遅くまで」
「ふぁ~~あ、大丈夫です。この位、平気ですから──」
「こんどこのお礼にライナの願い、聞いてあげるから」
私は両手を合わせてライナに話す。当然だ、こんな夜遅く、下手をしたら徹夜になるまでライナに手伝わせているんだから。
するとライナ、目をキラキラと輝かせながら言葉を返してきた。
「じゃあ、センドラー様とあんなことやこんなことをしたいです」
「──常識的な範囲内にしてね」
(当たり前じゃないのぉ)
一戦を越えることだけは、絶対にないようにしよう。
そして作業を再開。どことなくライナが元気を取り戻したように見える。
しばらくたち、現状報告を聞く。
「今までにないくらい抜き取られています」
「ありがとう」
しかしそれだけではまだ不十分だ。
抜き取られている資料がどんなものか判断しなければならない。
(もう、しょうがないわねあんたは──)
やれやれと言った感じでセンドラーが話しかけてきた。
半ばあきれている彼女に、私は困った表情で返す。
(しょうがないでしょう。予想していなかったんだから)
(私は予想していたわ。だから対策だってしっかりとしているわ)
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