第26話 そして本拠地へ


「ありがとう。あなたのこと信じさせてもらうわ」


「ありがとうだニャ……」


 ミットが顔を赤くして、どこか嬉しそうにしているのがわかる。

 そしてきっぱりとした表情になり、さらに話を進める。


「昨日ハイドの奴、この店の女の子とプライベートで話していたニャ。センドラーが来たことも、話題になっていたニャ」


「なるほど。そこで、私達のことをかぎつけたってことね」


(警戒心が強くて逃げ死が早い。まるでネズミねぇ)


 私もセンドラーも呆れてしまう。しかしそれだけではまだ不十分だ。


「じゃあ、ハイド達がいそうな場所ってわかる? 絶対とかじゃなくていいから」


 そう、どこに行ったかだ。

 ミットは下を向いて腕を組みながら考えこむ。


「個人的にはハーゲンの家が怪しいニャ。私がパーティーにいたときは、よくそこで話をしていたニャ」


 確実な証拠ではない。行った所で空振りになる可能性も十分にある。それでも──。


「いい情報じゃないですか、センドラー様」


 隣にいたライナも、思わず反応する。

 確かにそうだ。確実にそうである保証はないけれど、それ以外に頼りになる情報はない。ここに来る可能性がない以上、その場所にいくしかない。


「じゃあ、その場所に案内してくれる?」


「まかせるニャ」


 そして歩きながらミットは、どうして自分が私のところに来たかしゃべり始めた。


「やっぱり、ミットはスパイとして私達の元に来たんだ」


「──そうだニャ。この前、センドラーとクエストを終えた後、ハイドに言われたんだニャ。 お前は頭が悪くてクソだけど、忠誠度はある。それを利用して、センドラー達のそばに居させる、って」


 仲間なのにクソって……。やっぱりひどいやつね、アイツは──。


「それで、センドラーの場にいて、見張ってほしい。怪しい動きがあったら、こっちに教えてほしいって」


 やっぱりか。警戒しておいて正解だった。


「私達の味方になってくれて、本当にありがとう」


「──礼をしたいのは、こっちの方だニャ。センドラーがあそこで叱ってくれなかったら、私はハイドについていって、いろんな悪いことばかりしていたニャ。戻れないところまで、落ちていったと思うニャ」


 ミットは申し訳なさそうな表情で自分の気持ちを伝えてくる。

 私は、彼女の勇気に頭が上がらない。


「こっちこそ、きついこと言ってごめんね。これからは、もっと優しく言うから」


「大丈夫だニャ。きつく言ってくれたからこそ、私は自分の間違いに気付くことができたんだニャ」


「わかったわ。これからはミットのこと、信じさせてもらうわ」


 そして私達はぎゅっと手を握った。

 大変な事もあるけれど、これからもよろしくね。


(余韻に浸っているのもいいけど、早くハイド達のところへ行きましょう)



 センドラーの言う通りだ。こうしている間にもハイド達はハーゲンの家で何かをしているかもしれない。

 すぐに私は席を立つ。


「すいません。お会計お願いします」



 そして支払い。長居していただけあって結構な額になってしまった。痛い出費。





 私達は繁華街を離れ、住宅街の方へと足を運ぶ。

 すでに夜も遅く鳴り、住宅だけがこの辺りを照らす人気もまばらな暗い道。


 上流階級の人が住んでいるエリアだけあって治安もよい。

 そしてそんな場所に私達は辿り着いた。



「ありがとうね、私達に居場所を教えてくれて」


「どういたましてニャ。じゃあ一緒に乗り込んでいくニャ」


 私とミットが意気揚々と話していると、頭の中でセンドラーが話しかけてくる。


(けれど、彼女はここで返した方がいいと思うわぁ)


(えー、なんでよ。これから一緒に乗り込もうって雰囲気だったじゃん)


 不満げに顔をふくらます私に、センドラーが意気揚々と答える。


(いまミットと一緒に豪邸に乗り込んだら、ミットが私達についてくれたことがばれてしまうわぁ。ここは、彼女が私達に味方したことは、奴らにわからないようにした方がいいわぁ)


(う~~ん。それもそうね、ありがとうセンドラー)



 確かに、考えてみればそうだわ。エンゲルスやハイドはミットは自分たちの味方であり、私達のスパイという認識なのだ。



 流石はセンドラー。こういう駆け引き的なことは本当に頼りになる。

 それなら、やることは一つ。


 私は両手を合わせてミットに頼み込む。そして、センドラーが言ったことを二人に伝えた。


「本当にごめんね。けど相手に情報を渡したくないの。いいかな?」


 その言葉に二人とも、はっと驚き──。


「それもそうだニャ。わかったニャ」


「さすがはセンドラー様。名案だと思います」


 喜んで賛成してくれるミット。


 けど、考えたのは私じゃないんだけどね。センドラーの奴、私と違って、こういう駆け引き的なことは、本当にうまいと思う。彼女の言葉には、今後も耳を傾けよう。


「じゃあ、私は帰るニャ。二人とも、無事でいてくれニャ」



 ミットの、どこか残念そうな表情。私達の役に立てないというのが、残念なのだろうか。

 ミットには、また今度一緒に戦ってもらおう。それまで、待っててね。



 そんな事を考えながら、視線を豪邸に戻す。

 どうすればいいかと塀の上から顔を出し、家の中を観察。



 すると頭の中でセンドラーが話しかけてくる。


(秋乃ぉ。私に策があるわ。だから変わってくれない?)

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