第27話 屋敷の中へと


(秋乃ぉ。私に策があるわ。だから変わってくれない?)


(わかったわ。センドラー)



 そして私はセンドラーと人格を交代する。センドラーなら、こういう場面でもなんとかしてくれそうな予感がする。



「ライナ。いい作戦があるから、今から言うことをしっかり聞くのよぉ」


「分かりました、センドラー様」


 そしてセンドラーは作戦の説明を始める。私も、センドラーの後ろで話を聞く。


「──ということよ。理解できた?」


「わかりました。任せてください、センドラー様」



 まずは、ライナが先頭になって屋敷の玄関へ。センドラーは玄関の陰に隠れる。


 ライナは不安そうな表情になり、少しの間オロオロする。やはり一人だと怖いのだろうか。

 しかし数秒ほどすると、顔をぶんぶんと降る。その不安な感情を遮るかのように。


 コンコン──。


 そして家の扉をノックする。数秒ほどすると扉の先から低くて、鈍い声が返ってきた。


「誰だ?」


「私です」


 ここまではセンドラーの作戦通り。誰といわず、「私」とだけ言う。

 理由はある。こういった身分が高い人の家は、安全上たとえ呼び出しても、出て来るのは使用人や妻の人だ。


 そして、こういう人物は愛人を抱えていたりする。

 だから出てくる人物は、だれかわからなくてもとりあえずドアを開けてくれるか猛省は十分あるということだ。


 キィィィと玄関が開く。そこにいるのは豪華な服装をした若い女の人。

 ライナを見るなり、疑問を抱く。


「あの……、どちらさまですか? こんな時間、何の用でしょう」


 その瞬間、陰に隠れていたセンドラーが飛び出して玄関に迫る。


「ごめんね。用があるのは私よ──」


「セ、センドラー??」


 お姉さんは慌ててドアを閉めようとする。しかしセンドラーは一歩早く玄関の扉に足を入れ、それをさせない。


「今の反応でわかったわ。奥にハーゲンとかエンゲルスそのあたりが話し合ってるんでしょう。合わせなさい!!」


「え……、それは──」


 うろたえている女性。明らかに動揺しているのがわかる。それを見たセンドラー。柔らかい表情へと変える。


「お願い。無理にとは言わないわ。まずは交渉してみてくれない? 私が呼んでいるって──」


 口調も優しいものに変わる。女性もそれを見るとどこかホッとした態度になった。


「……分かりました」


 女の人は怯えながら再び奥へ戻っていった。恐らく人を呼びに行ったのだろう。

 それを見て感じたのだが、センドラーはああいう駆け引きがうまいと感じる。ただ厳しく攻撃するだけでなく、相手の感情を読みながら、相手がまいっている時には優しく接し、言葉を引き出している。


 私の様に、単純に叫ぶだけとは違う。



 そして、奥で女の人が説明したためか、どこかざわついているのがわかる。


 それから一、二分ほどすると、こっちに向かって誰かがずかずかとした足音が聞こえてきた。


「センドラー? 何しに来たんだよ、帰れ!!」


 長身で黒い髪、ツンツン頭で目つきが悪い男の人

 あれはたしか財務担当のハーゲンだ。ハーゲンは玄関の横を掴みながら叫ぶ。


「あんたぁ?  小物が来たところで私は納得しないわ。いるんでしょう、ハイドとエンゲルスが」


「いない。不法侵入だぞ。出ていけ!!」


「今言ったでしょう。あなたが目的じゃないの。ハイドを出しなさいよ!!」


 ハーゲンの言葉などセンドラーは気にも留めない。ひたすら強気に要求を突きつける。

 実際にはハイドがいる証拠は全くない。けれどあたかも彼がここにいるのを分かっているかのように、強気に出ているのはさすがだと感じる。


「いないものはいない。さっさと帰って寝ろ!!」


 その言葉にセンドラーは大きく苛立ったのか、大きく舌打ちをした。


「……分かったわよ」


 ハーゲンはその素振りに一瞬だけ気が緩んだ表情になる。センドラーはその瞬間を見逃さなかった。


「甘いわぁ!!」


 ハーゲンの気が緩んだその瞬間、センドラーは思いっきり玄関の扉を押して閉める。

 ハーゲンはその行動を予測できず、引いたドアに手を挟んでしまう。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 慌ててドアを強く押して玄関の外へ。

 手からは血が出ている。挟まれた手を痛がりながら抑えているハーゲンを、センドラーは蔑んだ眼で一瞬だけ見つめる。


「では、上がらせてもらうわぁ」


 そしてセンドラーはずけずけと中へと入って行く。ライナはその姿に言葉を失っている。私も、正直引いている。


 ──が、うかうかしてはいられない。私もライナも、センドラーの後を追うように部屋の奥へ。


 センドラーは廊下を奥へ行く。物音の方向へと進んでいくと、扉を開け、大きな部屋へとたどり着いた。

 高価そうな金銀の飾り物や、絵画などが、趣味が悪いくらいに、高そうなものが飾られている。

 自分の地位や豪華さなどを表わしているような雰囲気の部屋。



「噂通り、最低で薄汚いゴミ野郎ねぇ」


「ずいぶん、言ってくれるじゃねぇか」


 まるでごみを見るような、目の前の物を蔑んだ眼。その先に、エンゲルスの取り巻き目つきが悪い男ウィズリーと黒い短髪でスーツの男、ハイドの部下のディールスがいた。


「帰れ、ここはお前が来ていい所なんかじゃない。勝手に俺様の家に上がりやがって、また議会で問題になるぞ。この問題児!!」


 ウィズリーの言葉を、センドラーは全く聞かない。


「下っ端のあんたじゃ話にならないわ。エンゲルスに変わりなさい」


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