第23話 いざ、夜の街へ
ミットの説得の翌日。私達はさっそく動き始めた。
仕事を夕方までに終え、ライナと部屋で合流。
「お疲れ様です、センドラー様」
「こっちこそお疲れさま。じゃあ着替えましょう」
私達はすぐに着替えをした。
センドラーだとわからないように、サングラスをかけたり、黒髪のかつらをかけたりする。服装も、一般人が来ているような黒や茶色を基調とした質素なシャツやズボンに変更。
「ライナ、これでいいかな?」
「大丈夫ですセンドラー様。これならセンドラー様だと誰にもわかりません」
「ありがとう。それじゃあ街に出ましょう」
そして私たち二人は街へと繰り出す。
今日は、一般人にまぎれて捜査をする日だ。
気が付けば日が沈みかけたころ。私とライナは行動を開始。
訪れたのは、街の南側にある繁華街。
着いた頃には日が沈んで完全に夜。しかしこのエリアは日が沈んだ後でも街のネオンや店の光が煌びやかに眩しい。
そして仕事を終えた人々が夜の楽しさを求め、にぎわいごった返している。
このエリアは繁華街でもナイトクラブやバー、キャバクラなどの店がひしめいている場所として知られていた。
周囲を見回すと、宮殿でも見かける人物が街を歩いて、クラブやバーなどの店へはいっているのを見る。
この辺りは身分が高い人がお忍びで店に行ったりする場所でもあるのだ。
そしてそんな街を歩いてしばらくたつと。
繁華街の大通りから狭い裏通りへ、薄暗い道を進むと、明かりが全くない建物へ。
「確か、この場所みたいね」
「そのようですね、センドラー様」
明かりがついていないので、何も知らない一般人はまず入ってこない。
暗い入り口に入ると、地下へと続く階段。
ランプでほんのりと照らされた薄暗い道。気を付けながら階段を降りると一人の人物がいた。
その後ろにある、黒くて濃厚感のある扉。
その前に一人の人物がたっていた。
「おや、道に迷いですかな? ここは一般の方が来る場所ではありませんぞ」
黒いフードを被った。小太りの男性。怪しげな雰囲気を顔しだしている。
私は、ポケットから自分の身分証明書を見せた。変装しているから、わからないようだ。
「おや、センドラー様でしたか。珍しいですねぇ。どうしてそんなご変装を?」
フードの男性はそれを見るなりにやりと笑って言葉を返してきた。
「ごめんね。今日はいろいろ飲みたくて。この服装は、ちょっと試してみたかっただけ。深い意味はないわ」
「そうですか。では後ろにいる黒髪の子は?」
「彼女はライナ。友人よ、責任を持っての連れ添いなら大丈夫でしょう?」
ここから先にあるのは
ここは貴族の人たちや、裕福な実業家や要人など、特権階級の人たちが集まるクラブ。
入るには、自らの身分を証明する書類が必要で、付き添いの人以外の一般人は入ることができない。
規約はしっかり頭に入れている。
「そうですね、分かりました。センドラー様他一名の入店を許可します!」
そして私達は扉を開け、店の中に入って行く。
チリンチリンと扉についていた鈴が鳴ると、中にいる人の視線がこの場に集まってくる。
話しかけてきたのは、店の人らしき人。
胸元が大きく開いたドレス、金髪でサイドテールに結ばれている女の人だ。
まるでモデルの様に長身で、一目見ただけで生唾をごくりと飲んでしまうくらいの美人だと感じる。
この人はコンパニオンといい、コンパニオンさんと酒を飲んでいろいろ話して楽しむのがこの店の特徴だ。
「いらっしゃいませ。初めて見ますね。今空いている席をご案内します」
私は彼女の声を聴きながら周囲を見回す。当然、今日は夜のお店で遊ぶことが目的ではない。
そして薄暗いこの部屋。一番奥にある席にその姿はあった。
腰までかかった黒髪のロングヘアー
まずはエンゲルスの発見。そう、この店は彼女がお忍びで時折の身に訪れている店なのだ。
優雅にワイングラスのワインを飲んでいるエンゲルス。
その周りには、まるでハーレムのごとく、女の子たちをはべらかせていた。
「ハハハ。そういうことなのだよ」
「そ、そうなんですか? 素晴らしいですね。エンゲルス様!!」
この場面を国民達がみたら、彼らはどう考えるのだろうか。そんなことを考えながらちらちらと視線を傾けていると、入口の扉を誰かが開ける。
チリンチリン──。
そして、一人の人物がこの場にやってくる。茶髪で長身でツンツン頭。目つきが悪い外見をしている人物。間違いない、ハイドだ。
「おい、俺様が来てやったぞ!! 早く席を案内しろよ馬鹿ども!!」
「ああ、これはハイド様」
黒服を着た従業員がやってきて、ハイドを案内する。
ハイドは、偉そうな表情をして、ガニ股で歩き従業員の後をついていく。相変わらず偉そうな態度をしているな──。
「ハイド様。エンゲルス様の席です。こちらでよろしいでしょうか」
「へへっ、無能なお前たちにしては分かってるじゃねぇか」
何も言わずにハイドをエンゲルスの席へ。予約でもしていたのだろうか、それとも二人ともいつもここで会話をしていて、店側もそれを理解しているからなのだろうか。
従業員がロックの入ったコップを渡す。ハイドはそれをまるで水であるかのように一気飲み干すと、エンゲルスの肩に手を置き、話しかけた。
「よおエンゲルス。調子はどうだ?」
「大丈夫だよハイド」
ハイドは相手が仮にも国王であるにも関わらず、気安くつるんでいる友人のような態度で接している。
(あの話し方。以前から交流があったというのがわかるわぁ)
(そうね、センドラー)
エンゲルスが持っているワインを飲み干したタイミングで、ハイドがにやりと笑い話しかける。
「んで、センドラーの方。どうなってるんだ。この前クエストに参加したときなんかよぉ。クッソうざかったぞぇ。わけわかんねぇ正義感で変な口出しをしてきやがってよぉ」
うざかったって、あんたが仲間たちに暴力を振ったり、無茶な要求をしてきたのが悪いんじゃん。ライナもため息をついて呆れている。
エンゲルスは、次のワインを従業員から渡され、一口付けた後、言葉を返した。
「あいつは大丈夫だよ。大罪を押し付けて、失脚させている最中だ」
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