第18話 楽しい一日
(秋乃。そこにある白い貝。噂には聞いた事があるわぁ。ちょっとなんなのか聞いてみて)
(わかったわ)
センドラーが指をさしている白い貝。手のひらサイズでやたらと分厚い構造になっている。
それを手に持ってみると、店主の人が話しかけてくる。
「おお嬢ちゃん、目の付け所がいいねぇ。それはメモア・ダイヤル。録音機能が付いたダイヤルだ」
おじさんの説明によると、底の横にある白いボタン。最初にそれを押すと録音が始まる。次にボタンを押すまでの音声が記録されるというわけだ
そして次からボタンを押すと、その音が流れ出るらしい。
(やはりねぇ。うわさでは聞いた事があるのよぉ。音を人為的に記録出来る装置があるってぇ)
確かにそんな噂、聞いた事がある気がする。それにこれは何かに使えそうだ。大事な場面で音を記録して言い逃れができないようにしたりとか。
音を録音する機会。あんまり相手をはめたりするのは好きじゃないけれど。この先何が起こるかわからない。
エンゲルスたちが罠を仕掛けてくる可能性だって十二分にある。一応買っておこう。
「このダイヤル、五つほど売ってくれませんか?」
(正解ね。何かに使えそうだし、最低一つは手元に持っておきましょう)
(そうね。役に立ちそうなのは私もわかるわ)
「あいよ。まいどあり」
そして私はこのダイヤルを購入。
その後、店を出る。
再び表通りを歩く。
「とりあえず、いろいろなところを歩いたし休憩しようか」
「そうですね。じゃあ私の任せてください。おいしい飲み物がある店、知っているんですよ」
「そうなの。じゃあそこにしようかな。案内してくれる?」
「了解です。では案内しますね」
そして私はライナに連れられてその店へ向かうこととなった。
繁華街を抜け、ひっそりとした街のはずれにあるエリアへ。
おしゃれな雰囲気のテラスのあるカフェテリアにたどり着いた。
「この店です。いい雰囲気でしょう」
「そうだね。おしゃれでいいかな」
そして席についてメニューを頼む。
おおっ、そっちもおいしそうだね。
ライナが頼んだのはミルク味のシェイクだ。スタンダードだけど、とてもおいしそうに感じる。
まじまじとそのシェイクを見ていると、ライナがそれに気づく。
「センドラー様。ひょっとしてこっちを飲みたくなったんですか?」
「うん。でも私には、こっちがあるし──」
ちょっと困った表情で言葉を返すと、ライナは大胆な行動に出た。
「確かにそうですね。じゃあ、こうすればいいと思います」
するとライナは自分のストローを私のチョコミントシェイクに移したのだ。
「これで、センドラー様の飲み物を半分ずつ飲みます。そして次は私のバニラシェイクにストローを移して半分ずづ飲むんです」
おおっ、ライナちゃん頭いい!! これなら互いに両方の味を楽しめる。
「それいいね、そうしようか」
ということでまずはチョコミントの方を一緒に飲み始める。
「うん。おいしい」
チョコの甘さとチョコミントのすっきりとした味がとってもマッチングしている。王道といった感じだ。
問題はライナの方だ。
センドラーの時もそうだが、この味は万人受けしない。
癖があって人を選ぶから、ライナちゃん気に入ってくれるか心配だな。
ライナは、少し口に入れるとその味に そして口を押え、表情が固まってしまう。
「へぇ、ミントってこんな味なんですか。癖があるけど、とてもおいしいです」
そして私達は一つのシェイクを二つのストローで飲み干した。
飲み干した後、私は気が付いてしまう。
「ねぇライナちゃん。これってある意味間接キスだよね」
「ああっ、確かに(棒)。大変ですねー、センドラー様」
「まあ、私は構わないし、ライナがいいならいいか。女の子同士なんだし、これくらいは別にいいよねっ」
「はい、私も特に問題はないです」
ライナは、どこかうれしそうな表情だ。私もそこまで問題だと思っていないし、別にいいや。
「で、ではセンドラー様。こ、今度はバニラの方を……」
「そ、そうだね……」
そして今度はライナが注文したバニラ味のシェイクにストローを入れる。さっきはなんとも思わなかったが、いざ一緒の飲み物にストローを入れるとなると意識してしまう。
互いにドキドキしながら一緒にストローを入れ、中のシェイクを同じタイミングで味わう。
やはり、一緒の飲み物を口に入れているということが、変な意識を生んでしまい、どこか恥ずかしさを感じる。
味は普通のバニラシェイク、いつもは食べたことがない。けれど口にしてみると香り豊かでおいしかった。
シンプルだけど癖が無くておいしい。たまにはこういう味もいいな。
時間にして数十秒しかたっていない時間。私には何時間にも長く感じた。恐らくライナもだろう。
それから、いろいろなガールズトークをする。日常生活のこととか、互いのことをよく話す。
その後も、いろいろなお店に行った。
「センドラー様、次はあそこに行きたいですぅ」
その店はほかの店よりキラキラした飾りがあって、おしゃれ雰囲気をしている。
何々、ランジェリーショップ?
確か女性向けの下着を売っている店だっけ。
「何々、下着を買いたいの?」
「はい。できれば、センドラー様と一緒に、同じものを買いたいんですぅ」
おそろか、これは面白そうだ。ちょうどブラがきつくなってきたころだし、寄ってみようか。
──が、センドラーの表情が今までになくらい引き攣っているのがわかる。
(秋乃。絶対に絶対に絶対に断りなさい。もっと健全な場所がいっぱいあるでしょ)
警戒しすぎだよ。このくらい友達同士ならいいじゃん。
(大丈夫だって、変なことをするわけじゃないんだから。警戒しすぎだって)
「わかったわ。一緒に入りましょう。いい下着が見つかったらいいわね」
「ありがとうございます。じゃあ行きましょう」
(──もうどうなっても知らないわよぉ秋乃)
センドラーの言葉を無視して私たちは店の中へ。
チリンチリン──。
そして店の中に入り下着を見物。
試着したときの、かわいくてキュートな姿は本当に忘れられない。
ライナはそこまで裕福ではないため、大したものは買えなかったが、いろいろ話したりしているだけで十分楽しかった。
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