第16話 発見。そしてデートへ



 昼はライナに見張りを任せ、私は睡眠。そして夕方になると起きて夜にライナのところへ。

 そんなことを三日ほど繰り返す。


「ライナちゃん。交代の時間だよ、どうだった?」


「は、はい。こちらは特に何もありませんでした。それでは頑張ってください、センドラー様。──ふぅ」


 流石に昼夜逆転の生活を三日も続けているのはつらい。見張りの最大の敵は眠気だ。

 ライナも、出口が見えない中での見張りに疲れを見せているのがわかる。


 そろそろ証拠をつかみたいものだ。


「じゃあ、後は任せて。後、無理はしちゃだめだよ。体調が悪くなったら、すぐに相談してね」


「ありがとうございます。けれど大丈夫ですよ。私、頑張りますから」


 気のせいか、どこか強がっているように感じる。

 そしてとぼとぼとライナは宿へと帰っていく。これからは私の一人旅だ。



 眠気と戦い、時折目をこすりながら集中を切らさずに見張りを続ける。


 次の瞬間、その時は訪れた。




 ガサゴソ──。


 な、何だろう今の音。

 誰かがこっちへ来たような物音がしだして私は思わず目が覚める。


(大発見よ。あれ、ハーゲンじゃない)


 そして私はセンドラーの言葉、私は


 つい先日、私にネチネチと尋問をしていた人物。

 税務担当の人ね。

 そしてもう一人は何とハイドだ。



(何であの人がこんなところに来ているのよ。王国の人でしょう)


 するとセンドラーがため息交じりに私の疑問に答える。


(世の中、本当に信頼しあっている人なんて本当にごくわずかよぉ。手を組んだといたって、大半は同じ利益を共有しているだけか、共通の敵がいるだけ。だから利益があるとわかったら簡単に寝返るわぁ)


 詳しい理由はまだわからないけれど、彼とハイドにつながりがあることは事実ね。

 流石にイラっと来た。


 今からでもディールスの前に現れて、とっ捕まえてやろうかと思ってしまうが──。



(わかってると思うけれど、手は出さないようにね)


 今とっ捕まえてものらりくらりと逃げられてしまう可能性の方が高い。

 それならば今は我慢して泳がせておき、逃れようがない証拠をつかんで突き付けた方がよっぽどいい。


 ここは我慢。



 耳を澄ませ、話を聞こうと思ったが、流石に建物の中。二人も盗み聞きされる心配はしているのか、よく聞こえない。

 現に明かりもつけず、窓から見えるのは薄暗いランプの光だけだ。


(まあ、仕方がないわねぇ。まずはバレないことを優先しましょう)


 そして数時間ほどすると二人は建物を出ていく。

 ハーゲンがヘコヘコと頭を下げて、この場を去っていく。ハイドは、そのまま別荘の中へ戻っていった。



 取りあえず、私達も宿に戻ろうか。やっぱり夜通し神経を張り詰めて見張るのって疲れる。

 早く寝たい。帰るのは、休んでからでもいよね。



 そして宿へと戻る。

 ドアをノックすると、ライナが目をこすりながらドアを開けてきた。


 そんなライナに、ハイド達を見かけたことを告げる。


「よかったですね。流石にずっと張り込みをするのは疲れますし、運が良かったと思います」


「そ、そうだねライナちゃん」


 こうして私達の張り込みは終了。

 私達はハイドに気付かれないようにこの村から去っていく。


 確かにハイドとラストピアの役人に何らかのつながりがあることは分かった。けれどこれだけで証拠にはならない。



 もっと決定的な証拠を見つけないといけない。

 これからも、大変な事が起こるかもしれない。けれど、センドラーと一緒に乗り越えて、頑張っていこう。







 私達がラストピアに帰還して数日後──。

 今日はライナとのデートの日だ。


 朝起きて、朝食を食べる。鏡を見て、身づくろい。

 いつにもまして気合が入る。グロスを塗り、他におかしい所は──大丈夫。


 いつもとは違うおめかしした服。淡い青色のワンピースにミニスカート。

 かわいらしい服装で宮殿を出発。


 その服装を見た兵士の人はみんな驚いていた。やはり「鋼鉄の令嬢」の私にかわいらしい服装は似合わないのだろうか……。


 そして人通りの多い繁華街を抜け、噴水のある広場にたどり着く。

 ライナは、まだ来ていない。


 なのでベンチに腰掛けてライナを待つ。


「初めてのデート、うまくいくといいな──」


 なんとなく独り言をつぶやいていると、センドラーがため息をついて言葉を返してきた。


(デートなんかじゃないわよぉ。くれぐれも友達同士として一緒にお出かけして遊ぶだけ。変な光をしたホテルに入ったりしたら承知しないわよぉ秋乃)


 センドラーの目がいつもより怖い。


(大丈夫よ。ライナはそんな奴なんかじゃないって。ただの友達同士なんだから)


(まあ、今日くらいは楽しく過ごしてちょうだい)


 そんなやり取りをしていると、ライナが小走りでやってくる。


「も、申し訳ありませんセンドラー様。私からのお願いだったのに待たせてしまって──」


「大丈夫だって、私も今から来たばかりだから」


「は、はい……。分かりました」


「じゃあ行こうか。行きたいところとかある?」


「あ、あります。私が案内しますので、ついてきてくれますか?」


 ライナの表情がぱっと明るくなる。やっぱりライナは笑顔がとっても似合う。

 それから私はライナに連れられ、商店街の中を歩く。


 途中何も話さないのも気まずいので、ライナにいろいろと話しかける。


「そういえば引っ越しの準備は、大丈夫?」


「はい、着替えや生活物資は全部まとめました。楽しみです」


 ライナは明日から私と一緒に生活することになっているのだ。

 にぎやかな商店街で、世間話をしていると、ライナがすっと手を出してきた。


「あの──。手、つないでもいいですか?」


「手? いいよ」


 するとライナは私の手をぎゅっと握ってきた。

 それもただつなぐだけではなく、互いに指の間に相手の指を絡めあうつなぎ方、恋人つなぎだ。




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