第14話 恐ろしきセンドラーの睨み


 あからさまに不機嫌な声が中から聞こえてくる。そしてそのままドアが開く。


「ディールスさぁん。ハイドさんのことについてお聞きしたいのですが大丈夫ですかぁ?」


「あ、追放された元令嬢の小役人が何の用ですか? 恨みつらみとかですか?」


 スーツ姿の男ディールス。

 整った髪型や服装をしているが、どこか卑屈で印象がある。


 ディールス、ハイドのパーティーにいた槍使いの奴だ。

 こいつ、ダンジョンで探検していた時も、ハイドの腰巾着という感じで周囲にでかい態度をとったり、暴言を吐いたりで嫌な奴この上なかった。



 現に今も私の質問に、まともに答えようとせず、嫌味で返す始末。そしてセンドラーが話しかけてきた。


(秋乃ぉ、私に代わりなさい。やっぱり私がやった方がいいわぁ)


(はいはい、じゃああとはよろしくね)


 そして私はセンドラーとバトンタッチ。私は後ろから二人のやり取りを眺める形になる。


「あなたに質問に質問で返す権限なんてないの。聞こえが悪かったならもう一度質問するわぁ。あなたはハイドのことについて、私に話す義務があるのぉ、答えなさい!」


 センドラーがディールスを強くにらみつける。ディールスはその目つきにひるんでしまうものの、声を震わせながら言葉を返す。


「な、何だよお前……。だから知らねぇっつってんだろ! いい加減にしろよ。フッ、どうせ証拠なんてないから無理やり脅そうとしているんだろ。そんな手には乗らねぇよ、落ちこぼれの負け犬が!」


 ディールスの挑発するような物言い。それでもセンドラーは全く動じない。


「果たしてそうかしら?」


「い、いい加減にしろよ。本当に知らねえんだよ」


「手紙とかもとっていないの? じゃあこの街の郵便局に行ってあんたへの手紙の記録をすべて調べても構わないわね。どこの国に送っているのか、しっかりと記録はついているのよ」


 その言葉にディールスの顔が青ざめてしまう。


「確かに今の私は権力闘争に敗れたただの事務方の役人かもしれない。だからその強みを生かしてこの街の手紙の動きや人の動きを探っているのよ。そしてこのことが明るみになれば間違いなくあんたは有罪確定。実刑判決間違いなしだわ」


 ディールスは口をポカンと開け、絶句してしまう。さあ、こいつをどう追い詰めるか──。

 すると後ろでセンドラーが話しかけてくる。


(わかりやすいわねこいつ。後はダメ押しするだけ)


 確かに、このまま押し切れば行けそうだわ。頑張れ、センドラー。


「あんたが捕まったら、どんな刑罰が下るでしょうねぇ~~。いいのよ、早く死にたいと思うくらいの刑事罰が下る可能性があるわ。

 例えばねぇ、ここからずっと北に向かった場所にシベリナっていう土地があるの。冬は湖が凍って、ほとんど人が住めない極寒で険しい地よぉ。

 そこでシベリナで木を数える仕事(極寒の地で死ぬまで強制労働)とか、いいんじゃない。とてもぴったりだと思うわぁ」



 センドラーは強気に腕を組みながらディールスに言い放つ。

 そして彼に急接近し、グッとその胸ぐらをつかんでにらみを利かせる。



「さあ吐きなさい。あんたの罪が掘り起こされてドンドン刑罰が重くなる前にねぇ!!」


 圧倒的な威圧感を持ったセンドラーの態度。ディールスはびくびくと体を震わせながら言葉を返していく。


「あんたは悪党ですらないわぁ。ただ人並み外れて卑しい。欲にしがみつく猿よ」


「ま、待ってくれ。ハイドとは、行方をくらましてから、会ってもないしどこにいるかもわからないんだ」


「いいこと教えてあげるわぁ。本当はねぇ、昨日知っちゃったのよ。郵便であんたが何度か他国とやり取りをしているってねぇ。まだどことやり取りをしているかは聞いていないけどぉ~~」


 その言葉にディールスは顔が真っ青になる。


「他の冒険者たちがいきなり仕事を奪われた中、あんた一人が隠し事をしているって思ったら、こんなたいそうな家に住んでいるって知ったら、彼らはどう考えるかしら。このまま嘘を隠し続けるって言うなら、仲間たちにこのことをばらすわ。下手をすればフクロ叩きにされるでしょうねぇ。袋叩きにされて秘密をしゃべるか、今秘密をしゃべるか、答えなさい!」



「わ、わかった。喋る。恐らくだけど、ハイドが隠れているのは、ここから山を越えたところにあるアルブレ村の別荘だ」


「証拠は? 口から出まかせを言っている可能性があるわぁ」



「ちょ、ちょっと待ってろ。今書類を持ってくる。奥の部屋にあるんだ」


 その言葉にセンドラーは掴んでいた胸ぐらを話した。

 逃げないようにセンドラーと私達はディールスの後を追う。


 ディールスは奥の部屋にある書斎から数枚の資料を俺たちに見せてきた。


「これだ。ハイドが、アルブレ村のはずれにある別荘を買った時の領収書だ。これでいいだろ。もう帰ってくれよ」


 ディールスが渡してきたのはその通り別荘を購入したときの領収書。それとその場所を書き記した地図。領収書には隣国、トラルスカイ王国のサインが入っているので偽物ではないというのは理解できる。


 流石にセンドラーもため息をつく。


「まあ、信じてやるわぁ。もしこれが嘘だってわかったら、あんたの顔を原型がとどめないくらいボッコボコにしてやるんだからねぇ!」


 そしてセンドラーは追及をやめる。

 それから私達はその領収書を没収。さらに場所を記録した後、何か手掛かりがつかめないか、他の記録などをじっくりと調べる。



 そして一通り調べものが終わった後、この場を去っていく。




 ひとまずハイドの居場所はつかめたので、最低限の目的は達したことになる。



 しっかし問い詰めているときの気迫。あれはやられた側にとっては恐怖そのものだ。彼女ににらまれた挙句に胸ぐらをつかまれることを想像しただけで足が震えてしまう。

 絶対に敵に回したくない。


「は~~あ、久しぶりにスカッとしたわぁ。ハイドの居場所もなんとかつかめそうだし、良かったわね」


 センドラーは、機嫌が良さそうに背伸びをしながら来た道を帰っていく。


「はい。アルブレ村ですね。私もぜひ力になりたいです」


「じゃあお言葉に甘えて協力させてもらうわねぇ。次はよろしくねぇ、ライナちゃん」


 ライナも協力してくれるようだ。とっても心強い。

 なにはともあれ次の目的地は決まった。何が待っているかわからないけど、全力を尽くして頑張っていこう。



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