第12話 協力者

「          笑           止          」


「あ、なんか言ったか?」



「あなたたち、そんなこと言って、もし私が無罪を証明したらどうするつもりなのかしらぁ?」


 その言葉にハーゲンはギッとこっちをにらみつけてくる。周囲の議員たちも、彼に同調しているのがわかる。早く罪を認めろと──。しかしセンドラーは全く気にも留めない。


「ふざけるな、この期に及んで自分の罪を認めずに開き直るとは」


「聞き捨てならんぞ、どういうことだねセンドラー様」


「王都から来た存在だからって、調子に乗ってるんじゃねぇぞ!」


 彼らににらみを利かせながら言い返す。


「黙りなさい。約束するわぁ。私は、無罪を証明して見せる。そして、あなた達を懺悔させると──」


 一歩も引かないセンドラー。さすがだとしか言えない。

 彼女の毅然とした態度に相手もさすがに黙ってしまう。


 そしてとどめとばかりにこの場全体に届くように叫ぶ。


「私が主張するのは三つ。

 ・一つ目、私はハイド達に貸し付けた金を回収する。


 ・二つ目、私達はあなた達を許さない。陥れようとした目的を、必ず暴いてやるわぁ


 ・三つ目、この事件の真犯人を、絶対に捕らえて見せる。邪魔したら、承知しないわよぉ


 ──以上よ」



 そしてセンドラーはぎろっと議員たちをにらみつけた。

 その恐怖を感じる目つきに周囲の官僚はもちろん私まで身震いしてしまう。


「あとさあ議長さん。議事録に都合のいいことばかり書くのはやめなさい。わかっているのよぉ!」


「──うっ」


 議長はその言葉に黙り込んでしまう。図星だったようだ。どうせ私に対して悪い印象を持つように書いていたのだろう。


 凍り付いたような雰囲気がこの場を包む。そのままセンドラーはくるりと振り向いて扉の方へ。


 そしてセンドラーはこの部屋から出ていく。赤絨毯の道をずかずかと歩くセンドラー。険しい表情。

 私はその早歩きについていきながら話しかけた。


(さすがじゃないセンドラー)


「どういたまして、あのくらいどうってことないわぁ。こういうのは理屈じゃないのぉ。勢いと無理やりにでも押し通そうとする強さが大事なのよぉ」


 確かに、あの場はどう考えても私をつるし上げようとしているのは明白だった。どれだけ理屈を言っても言い返されてしまうと思う。


(でも、これからどうするの?)


「決まってるじゃないのぉ。ハイドの元仲間のところに行くのよぉ」


 元仲間?


(あんな傲慢で自分勝手、仲間でさえ損得勘定で切り捨てるやつに信頼できる仲間なんているはずないわ。あいつが強いやつだから仕方なく組んでるだけ。であれば話を聞きに行けば何かわかるかもしれないわ)


 なるほど。まずはハイドが今どうなっているかを知らないことには何もできない。


(けれど、仲間の情報なんて私、知らないわ)


「大丈夫よぉ。まずは私の職務室へ行きましょう。元仲間の動きを、片っ端から調べる。それと、信用できる部下からもいろいろ聞いてみるわぁ。何か分かるかもしれないし」


 確かに、表向きでは従っていても絶対陰口をたたかれているタイプだ。

 地道な作業になりそうだ。けれど他に案なんて思いつかないし、センドラーの言う通りにしよう。


 センドラーの言葉は本当だった。私の新人の部下に何人か話しかける。

 すると、知り合いにハイドの元仲間がいるという情報が入る。百パーセント信じるというわけにはいかないけれど、それ以外手掛かりはない。





 私達は次の日から早速動き出した。

 議会の直後から今日の分の政務を夜遅くまでかけて終えさせ、今日の午前は自由に使える時間となっている。


 おかげで寝不足気味だけど。


 何とか一人の仲間の家を突き止めた。ギルドに行ってハイドと連絡が途絶えた、困っている人に援助がしたいと申し出たら簡単に教えてくれた。




 彼女なら、協力してくれそうだ。そしてその場所へ。

 私達が向かったのは東地区の場所。





 貧困層の人が暮らしているエリア。


 古びた家屋が立ち並ぶ通り。いかにも貧しそうな人々が行き来している。

 正確な割合こそわからないが、猫耳や毛耳を付けた亜人の人が多い。


 この世界では亜人というのは普通の人間と比べて差別や偏見を受けやすく、貧しい人の割合が一般の人間よりも多いのだ。


 そんなアウトローな道を歩くこと数分。用意していたメモと今歩いている場所を重ね合わせる。


「……ここみたいね」


 私達がたどり着いたのは、一軒の古びた家屋。レンガでできているが、ところどころ傾いたりしていて不揃いに見える。


 私はその建物の玄関へと移動。


「こんにちは──、ライナさんにお尋ねしたいことがあるんですけどよろしいですか?」


「ライナ、誰かわからないけどあんたを呼んでいるわよ」


 出て来たのは妙齢の女の人。恐らくはライナの母親なのだろうか。


「はい。私がライナです──、ってセンドラー様!」


 そう、私が呼びだした人物は、以前クエストで一緒に魔物と戦ったハイドのパーティーの一人、ライナだ。

 小柄でほっそりとした、黒髪でロングヘアの女の子。


「ライナちゃん。久しぶり!」





 ライナは顔をほんのりと赤くし、もじもじとしながら答える。


「ちょっと二人で話したいことがあるんだけど、いいかな」


「わかりました」


 そして私達は家を出て、人気のない広場へ。

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