第11話 この場は、私に任せなさぁ~い

 エンゲルスはそれが正論であるかのように 堂々とふるまっている。

 その姿を見たのか、センドラーは何かひらめいたらしい。




(わかったわ。初めっからこのつもりだったのよ)


 いくら自分に権力を集中したいといっても、むやみに気に食わないやつを追い出したり、強権を乱発したりすれば周囲から反発を食らい、警戒されてしまう。


(だから対抗馬たちを陥れに来たのね。ライバルをつぶして、周囲が自分を選んでもらえるように仕向けてるのよねぇ)


(なるほどね、私達を陥れて、自分以外この国を任せられる存在がいない状態にして、支持基盤を盤石にしようとしているのね)


(ええそうよぉ。そのためにエンゲルスは奇策に出たのぉ。対抗馬は魔王軍とつながりがあったり、自分の都合で評判の悪いやつを無理やり国と契約をした人物とさせて評判を地の底に陥れたのよぉ)


 なるほど──、自分以外のライバルは全てつぶそうという魂胆なのね。そして自分はその中で権力を握ると。

 まんまとはめられたってことか。



 あの野郎、最初こそ協力的だったがこんなことをしてきたとは。


 陰湿で卑怯極まりないやり方、絶対に許せない。

 しかし今そんなことを考えていてもしょうがない。取りあえず、この状況を乗り切らなくちゃ。


「この後、センドラー様には我が政府の財務担当 その後裁判という形になりそうです。覚悟の方をお願いします」


 宮殿を一回へと下り、赤絨毯の道を行く。そしてその道に先に両開きで議会のホールへと続く扉。


(とりあえず、入りましょう。行かなかったら弁解も出来ない。逃げたとみなされて有罪判決確定よ)


 そうね。行かなきゃ何も始まらない。


 キィィィィィィ──。


 私はドアを開ける。


「どうも、私がセンドラーよ」


 静まり返った無言の雰囲気。



 中には議員の人たちがたくさんいる。年配や大人のスーツを着た人たち。

 私がドアを開けた瞬間、彼らの視線が私に吸い寄せられる。


「よく来たなセンドラー、じゃあお前への尋問を始めるぞ」



 まず口を開いたのは財務担当のハーゲン。

 中央の席にいる。隣にいるのは、エンゲルスだ。隣には書記らしき人。おそらく彼らが発言などをするのだろう。


 私が社交辞令的に挨拶をすると、二人とも、むっとしたような表情になり言葉を返して来る。


「そうか、私がエンゲルス様の下、財務の担当をしているハーゲンだ」


「私がヴィスリー、貴様たちの貸し付けや融資が正しいかの審査の担当だ、よろしく。あと、お前の席は、あそこにあるぞ」


 感情の無い、事務的な淡々としたしゃべり方。


 そして私にちらりと視線を向けると、机にある書類に目を戻す。

 恐らく、私のことなどさほど興味がないのだろう。


 この議会を取り仕切る議長の人も、どこか淡々としている。


 シーンと物静かで緊迫した雰囲気。

 その雰囲気から私も、おそらくだけどセンドラーも理解できた。


 そして彼が刺した指先。


 それは議会の檀上の隣にある席。私は知っている。議員全員と相対するような作りになっている場所。


 疑惑を持たれた人間が、追及を受ける場所だ。



 つまりこの場は、決して真実を証明するために、議論する場ではない。


 つまり初めからこの私をすでに罪を犯したものだと判断し、その人物を裁き、つるし上げをする場なのだと。


 私を犯人に仕立て上げて、裁くという結果ありきの聞き取り調査。どれだけ釈明しても、聞く耳を持っていないのだと。


他の議員の人たちからも、刺されるような鋭い視線を送られる。

そんな沈黙がしばしの間続くと、老年の議長の人がドンドンと小型の木槌、ガベルを鳴らす。


ドンドン──。


「では、議会を始めましょう。まずはハーゲン様、ご質問をどうぞ」



するとハーゲンは机に脚をのっけはじめ、いかにも横暴な態度で話し始める。



「センドラー殿、あなたは先日、この街のBランク冒険者ハイド達に独断で、誰の承認もなしに融資をしたそうですね」


「そんなことしていないわ。ハイドにこの国公認の契約をして、彼に金を貸したのはエンゲルス様よ」


 私は彼の言葉をきっぱりと否定する。当然だ、私はそんなことしてないのだから。


 しかし二人はその言葉を聞くなり、露骨に不機嫌な表情になる。議会全体がざわざわとし始めた。ハーゲンに至っては舌打ちをしたほどだ。


「まだそんなこと言って、罪を擦り付けようとしているのか。そんな証拠はどこにもないぞ、いい加減言い逃れをしようとするのはやめたまえ!」



「ハーゲンの言う通りだ。あなたの勝手な勇み足のせいで、大量の損失が出ているんですよ」


 ヴィスリーも、怒鳴ったりはしないものの、ネチネチと嫌味ったらしく追い詰めてくる。

 議会は、少しづつどよめき始めてきた。


「全くねぇ、そんなことをやっているからあなたはリムランドから追い出されたんだよ」


「それは今関係ないでしょ。本当にやっていないわ。証拠だってないはずでしょ!」


「証拠ならあるぞ。これはが書いた貸し付けの契約書だ。もちろんお前のサインもここにある。これを見せたら、宮殿の奴らはみんなお前が書いたサインだって証言している」


 そして私のサイン。

(おそらく偽造したのよぉ。裏金でも掴ませたんでしょうねぇ。ズル賢い連中だわぁ)


 するとハーゲンが高圧的な態度を取り始めた。

 そしてこっちに近づくや否や鼻毛をむしり始め──。


 フッ!


「この嘘つき野郎!」


 私に向かって息を吹く。手に持っていた鼻毛は私の服にまとわりつく結果に。

 クズ野郎だなこいつは──。


「あなたのそのような行いが、王国やエンゲルス様の品位を落としてるって気づいたらどうですか?」


 ヴィスリーも、その様子に動じることなく私を追い詰めてくる。


 しかしどう切り返せばいいかわからん。どう見ても私がやったことになっている。

 どうすればいいか頭がいっぱいで言葉の返しようがない。



「いい加減白状しろよ。この詐欺師!」


「お前なんか追放されてしまえ!」


「早く自分の罪を認めろ!」


「やめちまえやめちまえやめちまえ」


 他の議員たちも、私に向かってやじと飛ばしてくる。このままいったら私は間違いなく無実の罪を着せられる。

 ほ、本当にどうしよう──。

 途方に暮れる私。すると誰かが私の肩に触れてくる。


(秋乃。ちょっと変わりなさい。こういう腐りきったやつの対処法は、私の方が得意だわぁ)


 センドラーだ。そうだね、ここは私より彼女の方に変わった方がよさそうだ。


 私はセンドラーと交代。

 センドラーは交代した直後に相手をにらみつける。

 そしてバンと机をたたきつけた。その瞬間、他の議員のヤジがストップする。


 まるでゴミを見るような、軽蔑が混じった表情。そんな表情のままこの場にいる議員たちを見回す。


 見回し終えると強気な物言いで言い放った。


「  笑  止  」


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