第8話 あいつ、すげえ嫌な奴なんだけど!

「ああん? なんだよこの没落令嬢。俺たちに指図するってのかよ」


 その言葉に背後のセンドラーが眉をピクリとさせたのはわかる。気持ちはわかるが今は抑えてくれ。


「そうだそうだ。なんてこんなザコたちに分け前を与えなきゃいけないんだよ」


 ハイドだけでなく側近の奴らからも非難の声が上がる。

 それでも私は抗議をやめない。


 声のでかいやつらの言葉ばかりが通り、弱き者たちがないがしろにされるなんてあってはならない。



 他の冒険者たちはどこか震えながら私を見ている。それを見て私はセンドラーと一度アイコンタクトをする。


 どうやら考えていたことは一緒みたいだ。



 私が彼らの代弁者にならなかったら、ハイドたちの要求がすべて通ってしまい、彼らは 宝をほとんどもらえなくなってしまう。


 だから私はハイドたちに異議を唱えた。


「駄目よ。ちゃんと他の冒険者達にも分け前を与えなさい。いいハイド。あなた達だけでフェンリルを倒したわけでは決してないでしょ。周囲の冒険者がサポートをしたり、周囲の敵を倒したりしてくれたからこそ、あなた達はフェンリルとの戦いに専念できた。わかるでしょ」


「そんなの無くたって俺たちはフェンリルに勝ってた。余計なお世話だったんだよ」


 その割にはずいぶん意気が上がってたじゃない。私がピンチを救わなかったら奇襲を受けてピンチだったわ。


 全く、少しは自分を客観視しなさいよ。


「とにかく、独り占め目なんて許さない。あなた達だって、いつも成果を独り占めする奴なんて悪評が付くのはイヤでしょ!」


 そう、集団行動が基本の冒険者にとって、周囲からはぶられるのは死に等しい行為。

 いくら強いといっても組んでくれる人がいなくなるというのは、それだけでクエストの難易度が上がってしまう。


 そしてとうとう観念したのか、ハイドは一回舌打ちをして、いかにもイラついたような様子で言葉を返してきた。


「チッ、しょうがねえな──。本当にわがままな野郎だぜ。しょうがねえな。お前たちにも分けてやるよ。全く俺は心の底から優しいやつだぜ」


 そしてようやく周囲にも分け前を与えることを伝えたのだ。


(ふぅ──、どっちがよ)


 センドラーがあきれながらツッコミを入れる。私も同意だ。

 そして私達は約束通り宝を分け合った。


 みんな、自分たちの分け前を持つことができてほっとしているよう。よかったよかった。

 それからギルドへと帰還。


 そして成果を報告。そして各自分け前を受け取り帰路に就いたのだった。







 そしてクエストが終わり、宮殿への帰り道。沈みゆく夕陽を背景に私たちは今日のことについて話し合う。


「あいつ、実力はあるかもしれないけど、素行が悪すぎるように感じるよね」


 ロンメルの言葉通り、仲間を自分のための消耗品としか思っていない。


「なんにせよ、とても契約を結べるやつではないな。契約の話無かったことにするのが一番ね」


(それは私も異論がないわぁ。というかこんなやつを国の顔にする意見があったこと自体笑い物よぉ)


 センドラーもそれは感じている。仕方がないわ。エンゲルスには、不適格者だったと伝えよう。


 不本意な結果ではあったけど、仕方がない。冒険者だって彼以外にもいる。もっと人格者で、正義感がある人物を推薦した方が、エンゲルス様も喜ぶよね。


 仲間に引き入れるのは、そんな人物を見つけてからでも遅くはないはずよ。


 しかし私は予想もしなかった。この後、私達に思いもよらない展開になることなど

 ──。


 そして、私達が追放のピンチを迎えるなど──。








 夜、私たちはエンゲルスのところへと向かう。


(とりあえず書類は完成したわ。ハイドたちがどんな人物かというのを書き記した資料よ)



「ということで、ハイドを雇うのは絶対にやめたほうがいいわ」


「姉さん。僕も賛成だ。よく理解したよ。時間は守らないし、周囲への配慮、仲間たちへの思いやり、どれも全てがかけている。とてもラストピアの看板を背負える人物じゃない」


 ロンメルも強くそのことを押す。


 その言葉にエンゲルスはしばし考えこんでしまう。

 そしてしばしの時間がたち、困った表情をしながら言葉を返す。


「しかし、今は力が欲しい。それでも私は彼らを仲間に引き入れようと思う」


 それほど急いでいるのか? けれどいくらなんでも彼らはやめた方がいい。多少実力があっても、別の冒険者たちを仲間にした方がいい。


(私も反対だわぁ。集団行動ができないやつを仲間にしたって、足を引っ張るだけよぉ)


 センドラーも反対している。それでもエンゲルスは譲らない。


「事情があって時間がないんだ。何かあったら責任は俺がとる」


「資金に困っているって言ってたわよぉ」


「貸してあげろ。金は俺たちが出す。責任は全て私がとる」


 ここまで強く押してくるのは完全に計算外だ。

 どうすればいいか考えたが、そこまで言うなら仕方がない。責任を取るというならいいか。


「その言葉、信じます。エンゲルス様がそこまで強く推すなら私達は従います」


「そうだね姉さん。僕からも、特に言うことはないよ」


「ありがとう、二人とも。礼を言うよ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る