クリスマス色のロングコート

宇佐美真里

クリスマス色のロングコート

街はクリスマスのイルミネーション一色。

この季節、一年の中で街が一番に華やかな彩りを魅せる時期だと、

ワタシは思う。

ワタシは服が好き。仕事もそんな関係の仕事に就いている。

街を行き交う人たちがワタシを振り返る。

「わぁ!きれいなコート!」

「私も欲しいなぁ~」などと口々に呟く。

ワタシとしても気分が好い。

新作の服を格好良く着こなしたり、気分によっては可愛く魅せたり。

割りとプロポーションには自信がある。憧れの的のハズ。

そんなことを言うと、

世の女性たちの反感を買ってしまうのかもしれない…。

まぁ、正しい言い方をすれば、ワタシではなく、

ワタシの着ている服が憧れなのだろうけれど…。


今日もワタシは、街を行く人々を眺めていた。

すると、一人の女性がワタシに気付いて立ち止まった。

「いいなぁ…。綺麗だなぁ…。あんな大人なコート…、私も欲しいなぁ」

そんな呟きがワタシの耳に届く。

「あんなの着て、颯爽とヒールなんて鳴らして見たりして…」


ワタシは、彼女を上から下まで、さり気なく眺めてみた。

キャメルのピーコートに、足元はヒールの低い靴。

申し訳ないけれど、控えめに言っても彼女は、

格好の良いタイプ…と謂うワケではなかった。

どちらかと謂えば、可愛いらしいタイプ。

みんなの憧れのタイプと謂うよりも、

"妹"タイプとでも謂った感じだろうか。

彼女は後ろ髪を引かれるように、ワタシの前から立ち去って行った。


彼女には翌日も会った。

やはり一瞬立ち止まり、ワタシの着るロングコートをじっと見つめていた。

昨日は掛けていなかった、赤い細い縁のメガネが、

彼女を初めて見た時よりも、少しだけ大人に見せていた。

そしてまたその次の日も…彼女はワタシの前に姿を現した。

余程、ワタシの着ているロングコートが気に入ってしまったようだ。

ワタシは次第に、このコートを着た彼女の姿を見てみたくなった。

もしかしたら想像以上に似合うかもしれない…。

大人の女性に憧れているようだけれど、

彼女は充分そんな雰囲気を持っているようにも思えてきた。


美しい女性…。


しかし…四日目の夜。

ワタシはそんな彼女のお気に入りのコートを着ることはなくなった…。


そう…。

ワタシは街角に向かうショーウインドウの中のマネキン。

毎日、通りを行き交う人々の足取りをガラスの内側から眺めている。

いつまでも同じ服を着ていることは、

ワタシの…そして街行く人々の望むところではない。

人々の羨望の眼差しを受けるのがワタシの仕事。


そして今日、ワタシは彼女のお気に入りのコートを脱がされた。

ディスプレイを替えられるだけなのか???

いや…今、店を出て行った人の抱えた大きな紙袋の中に、

きっと彼女のお気に入りのロングコートは入っていたのだろう…。

ワタシはまた、新たなコートを着せられて、

街行く人の視線を浴びることになった…。


翌日…。彼女はワタシの前には現れなかった。

今日はクリスマスイブ。明日はクリスマス。

聖なる夜を過ごす恋人たちは、最高のクリスマスを過ごすのだろう。

彼女もまたその一人であるに違いない…。

クリスマスイブ…。

あのロング丈のコートよりも、少しだけ丈の短いコートに身を包み、

再びワタシは、街行く人々の目を魅了し続ける。


人々の羨望の眼差しを一身に受けるのがワタシの仕事…。



クリスマスの日…。

ワタシは、いつもと変わらずショーウインドウに立つ。

街行く人々の表情も、いつも以上に楽しげだ。幸せそうに街を行く。

腕を組み幸せそうに歩いて行く恋人たち…。

その中にワタシは、彼女を見つけた!!

あの赤い細縁のメガネは間違いなく彼女だ。

ワタシは思わず微笑んだ。

何故って???


ヒールの高いブーツの足元が、

些か覚束ない彼女の着ていたコートが、

キャメルのピーコートではなかったからだ!


彼女の着ていたコート…。

それは、つい二日前までワタシが身に纏っていた、あのロングコート!!

そして彼女の隣には、優しげに彼女に微笑みかける彼氏がいた。

そう…。あの日閉店間際のお店から、

大きな紙袋を抱えて出て行った、その人だった…。



-了-

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