第参幕之伍「己ガ名ハ」
》同日
その言葉が、意味がするりと脳に滑り込み、皆無は今、十三年の時を経てついに、万感の思いを以て己の生まれた意味を知る。
(俺は
背中が、熱い。
肉眼で見ずとも分かる。いつの間にか
「【
当然のことだ。
皆無は起き上がる。周囲に知覚を飛ばしてみれば、母と
思い返せば、思い当たる節は幾つもあった。
何故だか出逢った当初から、璃々栖のヱーテルと抜群に相性が良かった自分。
いくら『日本一の退魔師』たる父の子であるとは云え、璃々栖と出逢う前はヱーテル総量がたったの一万しかなかった己が、たったの一週間で
そして、璃々栖の父・
『神戸へ行け。そこで腕が
その言葉を璃々栖の口から聞いた時、自分は『詩的な表現だな』くらいにしか思っていなかった。が、何のことは無い、その言葉はそのままの意味――『神戸で、腕の
「皆無」父が語り掛けてきた。寂しそうな眼をしている。「悪いがもう、
「分かった。さようなら、パパ」
父が、目を閉じた。そして、次に開いた時には、その目は
「何だ貴様、その体はッ!?」
が、皆無の方が早い。皆無は悪魔の翼で以て軽やかに飛翔し、
「璃々栖ッ!!」
「皆無ッ!!」
愛しい彼女の、己に向けて差し伸べられた左肩の先端に触れた。
†
》同日
皆無の指先が、己の左肩に触れた。
瞬間、皆無の体が一本の腕へと変じ、己の肩にヱーテルの根を張り、神経と結合する。腕は己に不釣り合いなほど筋骨隆々としていて、その長さは己の背丈に等しい。腕は真っ黒な毛で覆われ、指は蠍のような甲殻で覆われ、指先には鋭くも禍々しい長い爪が生えている。そして腕を取り巻く様にして、
その赤い輝きを目にした途端、璃々栖の脳へ、膨大な量の術式とその効果が流れ込んでくる。それらは代々伝わる
「貴様ぁぁあああッ!!」悪鬼の形相をした
だから璃々栖は、防御の為の魔術を使った。
「――【
突き出した左手の平から煌びやかな花が乱れ咲く。
「なっ!? 何だこれは、何故、手が届かぬ!!」
「あはっ!」璃々栖は
「糞ッ」飛び
その隙に、璃々栖は次なる術式を編み上げる。
「この暗闇……ずっと気に入らなかったのじゃ」左手を、高らかに天へと掲げる。「【
璃々栖を中心に、虹色の風が舞い上がる。風は
摩耶山が、つい数分前まで絶望に包まれていたはずの地獄が、
「糞がッ!」
地に伏していた亡者達が起き上がり、璃々栖に、
「あっは! 【亡者どもよ・余の
亡者達が、一斉に璃々栖に向かって
「はぁッ!?」あまりの光景に、
力を失っていた蔦が、再び璃々栖達を拘束せんとして蠢き出す。
璃々栖はくるくると舞いながらその左手で空気を撫で、
「【
見渡す限りの禿山に炎が立ち上がり、炎が蔦だけを正確に燃やし滅ぼす。そばに立つ
「糞ぉッ!」空中に退避した
空一面に炎を纏った無数の蠅が生じ、璃々栖へ
「効かぬ効かぬ! 【
虚空から蠅と同じ数の光り輝く鞭が躍り出て、蠅を、羽虫を打ち払うが如く撃退せしむ。
「他ならぬ
「【
璃々栖は背中に生じさせた蝙蝠のような翼で宙に浮き、
「もういいっ、余の最強の魔術で塵にして
璃々栖の視界が、鉄をも一瞬で溶かし尽くす、純白の炎で埋め尽くされる。
†
》同日
「はぁッ、はぁッ…
【
空を埋め尽くしていた
「
†
》同日
「なっ」
絶句する
「あはっ、【
これで合計四人の璃々栖になる。
「さて、もう仕舞いにしようかのぅ」分体に
黄金に輝く無数の矢が、
「ごはっ! その程度の威力で、余を消滅させられるとでも!?」
「――【
無数、と表現し得る限界を越えた量の矢が、
「ごふっ……貴様、覚えていろ」
「あっは! 【
【
†
天を染め上げた黄金の光が収まるまでに、数分を要した。
後にはただ、皆無の父のヱーテル核だけが、残される。
「パパッ!」無言で璃々栖の腕を務めていた皆無が璃々栖から離れ、人の姿に戻って皆無の父のヱーテル核へと
璃々栖は慌てる。己の
「あぁ、ごめん……」父の死による
狐のような形をしたヱーテル核には、九本の尾が付いていた。
†
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