第参幕之肆「璃々栖之戦」
》同日
「悪かったねぇ、小悪魔チャンの父親じゃアなくて」木の上で、
彼女が何故、ここにいるのか。璃々栖は理解が追い付かない。が、
「助けが、必要かな?」
助け。助けと
「――頼むッ!!」ほとんど絶叫だった。「お願いじゃ! どうか
「いいとも。ただし、条件がある」
「呑む!
「
「誓う」その言葉は、あっさりと滑り出てきた。「誓えるとも。それこそが余の望みであり、願いなのだから」自分が壮絶な笑顔を浮かべていることに、璃々栖は気付かない。
「あっはははっ、良い目、良い殺意だ。やはり小悪魔チャンは可愛いねぇ! ――あの腕にはね、先王の記憶が眠っているンだ」
「先王の、記憶?」
「そう。小悪魔チャンが腕を使いこなす為の、先王からの覚え書き。教科書さね。本来は小悪魔チャンがあの腕を身に着けた時に、先王の記憶が小悪魔チャンに流れ込むはずだったんだ。だけど、腕は憎き
「――…」
「
己が履いている革靴の爪先は、ヒヒイロカネを練り込んだ鋼鉄によって
「だが、どうやって腕にヱーテルを供給する? 余は
「小悪魔チャン、利き足は?」
「え? 右、じゃが」
「よし。じゃあ右足をお上げ」
云われるがまま、右足を
「……えっ!?」
文字通り、突っ込んだのだ。服を通り抜けて。
「なァにを驚くことがあるさね。アタシゃ『拾参聖人』の一人だよ? 悟りの境地にくらい、
光り輝いていたヱーテル塊は、やがて光を失い、靴の表面と同化した。
「この爪先で以て先王の腕――手の甲を蹴りつけるンだ。気付け薬を直接口にぶち込むわけさ。さ、お行き」
「ありがとうございます……あの」
「ん?」
「
†
再び、来た道を戻る。
【
「ォァアアァ……」
耳元で亡者の声と腐臭を感じ、
「ヒッ……」振り向くと、目の前にはぐずぐずに崩れた顔を体を持った鎧武者の姿。慌てて飛び
「はぁっ、はぁっ」ぼろぼろと崩れ落ちる亡者をよそに、激しく肩で息をする。恐怖で震える、不甲斐ない我が身だ。
それは、
が、
(……怖い……)碌な魔術は使えず、腕も無く、亡者の一体を倒すのも命懸けで、ヱーテルも残り少ない。
思えば叛逆の憂き目に遭い、腕を失ってからと云うもの、己は
それでも仕方が無い、と思っていた。
(違うであろう!?)璃々栖は己を奮い立たせる。(腕が無い? 攻撃手段が無い? それが何だと云うのじゃ! そも、これは余の
「アァァァ……」「オォォォ……」
正面から、亡者達の集団。数十体はいるだろうか。
(戦え、抗え……ッ!!)璃々栖は最も層の薄い一帯を見定め、
†
》同日
「いい加減に諦めて、余の物になれ」仰向けに転がり、何体もの亡者達に全身のあちこちを食い千切られている皆無を、
「【
正直云って皆無は、どうすべきか決めあぐねていた。ここでこいつに従う振りをして魔術を解かせ、
「またそれか。余の物になるからには、隷属の首輪で縛らせてもらうと、先ほど云ったであろう」こちらの心を読むことが出来る
生きながらに喰われていて、正気など保てるものか。どうすればいい。どうすれば。
(やっぱり…もう、死ぬしか……)
頭に浮かんでくるのは璃々栖の笑顔だ。璃々栖と一緒に生きたかった。璃々栖とともに、やりたいことが沢山あった。なのに。
この先、璃々栖の道が何処に続いているのかは分からない。覇道を進み、王へと至れるかは分からない。だが少なくとも己は、璃々栖の道を遮る邪魔者にはなりたくない。
(…………死のう、か)
覚悟を、決めた。
(【イスカリオテのジュダの領域・永久凍土の監獄】……)せめて、己の命を燃やす秘術で以て
輪廻転生があるのなら。
いつかどこかで、璃々栖と再会したいと思った。
(――【
……皆無の、命懸けの願いは、
発動、しなかった。
「は、はは……」一縷の望みも絶たれた。だが、考えても見れば己は今、強制的に人の身に戻されてしまっているのだ。地獄の秘術が扱えなくなっているのも当然であろう。「【
虚空から、南部式自動拳銃を取り出す。自決の為である。渾身の力を振り絞って右腕を振るい、纏わりつく亡者達を振りほどく。銃口を咥えてから、引き金を引く為の人差し指が欠けていることに気付く。
(左手…は……?)小指が欠けていたが、他の指は無事であった。また、渾身の力で以て左腕を振るい、亡者を払い、拳銃を握る。(璃々栖……)
目を閉じようとした、その時。
空から、璃々栖が降ってきた。
最愛の女性が、璃々栖が、美しい金髪を棚引かせて!
†
》同日
己にとっての勝利条件は、
【
音も無く
「【
……が、その爪先は、
「わざわざ囚われに戻って来たのか、姫君?」
「くっ……」璃々栖は飛び
「あぁ、そこに転がっているぞ」
指差された方を見れば、頭部を失った
(そんな――…)璃々栖は絶望する。が、一秒で立て直した。(弔い合戦じゃぁあッ!!)
己を奮い立たせ、
†
》同日
璃々栖と
自決は取り止めだ。璃々栖の目的は分からない。
援護すべく立ち上がろうとするも、足の腱が、筋肉が食い散らされてしまっており、全く動きそうにもない。
璃々栖は猫のように俊敏に動き、時に木の幹を、枝の上を足場に使いながら、
……そして。
「いい加減、終わりで良いだろう」璃々栖の右足首を、
(あぁ、璃々栖……)何か、援護は出来ないか。何か無いか――
――ある。
南部式自動拳銃が、一年以上の時をともに戦ってきた愛銃が、今まさに、己の手の中にあるではないか!
大型の南部式自動拳銃の
皆無は血塗れ傷塗れの震える左腕で以て
狙いを定めた途端、驚嘆すべき集中力が体の震えを抑え、立て続けに引き絞られた引き金が、射出された弾丸が、吸い込まれるように
一発、二発、三発……皆無は走馬灯でも見ているが如き引き延ばされた時間の中で、弾丸が命中しつつも敵の手首に傷一つ負わせることが出来ずにいると見抜く。
だから、六発目からは目標を変えた。
果たして弾丸は、
†
》同日
(皆無、よくやって
これで
「ははっ、残念だったな!」残った顔の下半分。その口から
璃々栖は掴まれていない方の足で、
ここまで来て。瀕死の皆無がせっかく援護をして
その時、急に視界が切り替わった。
(――えっ!?)気が付けば、己は
いや、今は
「はははっ! 目が見えず、音が消されていても、気配でわかるぞ、姫君」
気配。それこそが、先ほどの失敗の原因だ。だが、気配隠蔽の魔術を使うだけのヱーテルが残っていないのだ。
「【
その時、璃々栖が渇望していた、己の気配を覆い隠す魔術の霧が、璃々栖の周りに展開した。
(ご母堂様の声!?)
璃々栖は駆ける。駆け、皆無が、
その右足で、
すぐさま、
「……は?」今や頭部を完全に回復せしめた
璃々栖は答えない。答える義理が無い。だが璃々栖は成功を確信していた。それが証拠に、己が蹴り上げた手の甲と、己の右の爪先が、白く輝くヱーテルの糸で繋がっているのだ。
糸がその輝きを増し、靴の表面に擬態していた
「な、何だこれは!? お前、この腕に何をした!?」
「うがぁぁあぁぁああッ!?」
(ヱーテルが…腕の記憶が、流れ込んでいる……?)
数秒ほどで、光は収まった。
気が付けば、亡者どもも蔦も、その動きを止めている。
そして。
「思い出した……ッ!!」
「
†
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