第参幕之参「絶望之果テニ」
》同日
「ここも外れか!」璃々栖は洞穴の外へ飛び出す。ヱーテルを纏った脚で
真昼間だというのに、西の空が
(
†
》同日
「糞ッ、糞ぉッ!!」
皆無は母の遺体を背負いながら、村田銃で応戦する。幸いにして、退魔の力が込められた
弾薬の心配は無い。【
(お母さんが……お母さんが死んでしもた。このままやと俺も死ぬッ!)
せめて、母の遺体は打ち捨てて来るべきであった。母はもう死んでいる。しかし、皆無はその決断が出来ないでいた。
背後から三体の亡者が追いすがってくる。皆無は村田銃で応戦する。一発、二発、三発。丸一年の軍属生活で鍛え上げられた射撃は、斯様に心身が乱れた状態でも亡者達の頭部を正確に撃ち抜く。
弾が切れた。皆無は止む無く立ち止まり、【
「糞ぉッ!」皆無は、こちらの首に喰らいつこうとしてくる亡者を手で押しのけようとして、
亡者に、指を、喰い千切られた。
「ぎゃぁああッ!!」
† † †
》同日
「
「――殿下!?」
果たして、岩陰から
「おおっ、その様子じゃと、すっかり快復したようじゃな!」
これこそが本来の
(ふふっ、皆無は馬の姿をしている
「はっ、九割方戻っております。それより殿下、一体どうされたのですか?」
「時間が無い。手短に話すぞ」
†
「転移後すぐに
「覚悟など」
「ふふ、嬉しいことを云って
「ですが」
「ん?」
「返事はなさったのですか?」
「か、
「斯様な時だからです」
「うっ……」
王族にとって結婚と出産は義務。璃々栖の侍従たる
「……この戦いが終わったら、ちゃんと云うのですよ?」
答えを
「云うとも!」璃々栖は真っ赤になりながら叫ぶ。(そうじゃ! この戦いが終わったら、皆無に云う! そなたが好きじゃと! 愛していると!!)
「安心致しました」
「良い、良い。では行くぞ。まず、西の空――ほれ、あの昏くなっている空へと転移せよ。そこで余が皆無の正確な位置を調べ、改めて皆無の目の前へ転移する。良いな?」
「ははっ! では、失礼致します」
視界が切り替わる。
璃々栖と
「【赤き蛇・神の悪意
「行きます!」
また、視界が切り替わる。今度は、地面に立っている。
「……うっ!?」
まず最初に感じたのは、呼吸もままならぬほどの腐臭。
次に聴こえたのが、「オォ……」とか「アァ……」とか云う、人ならざる者どもの呻き声。
そして見えたのが、薄っすらとあたりを照らす【光明】の明かりと、地面を蠢く無数の蔦、そして、地面のある一点に群がり、
そしてその傍らには、
「ご、ご母堂様……?」
血塗れになって転がる、
「そ、そんな――…」
死んでいる。死んでしまった。己が、戦いに参加しても良いと云ったばかりに。
「皆無、皆無は何処じゃ!? 皆無!?」取り乱し、愛する男性の名を叫ぶ。
「ぅ……ぁ……璃…々栖……?」
亡者達が
「【
亡者達の真ん中で。
手を足を耳を鼻を臓物を食い千切られ、
蠢く蔦に血を髄を吸い上げられ、
それでも辛うじて生きている、
皆無が、いた。
「ひっ……」
「璃々、栖――逃、げ、ろ……ッ!!」
「――なんだ、戻って来たのか」
背後で、声。呆然と振り向くと、皆無の父の姿を取った
「おや、お前は
「殿下、逃げ――」
また、視界が切り替わった。
†
》同日
『ごりっ』とも『ぐしゃり』とも云える音とともに、人型の
「おや、力加減を間違えてしまったな」つまらなそうに
(あぁぁ……そんな…
どうすれば。
†
》同日
気が付けば、真っ暗闇の中に立っていた。
つまりここは、未だ
「あぁぁ……皆無……
…………万策が、尽きた。
周囲には相変わらず腐臭が漂い、そこかしこから亡者達の呻き声が聞こえる。
とにかく、動くしかない。ここでじっとしていては、亡者達に喰い殺されてしまう。だが、動いてどうすると云うのだ? 育子大姉は死に、皆無は瀕死で、
どうしようも、無い。
「あぁ…あぁぁぁ……」涙が出てきた。悪魔には、祈るべき神など居ない。だから璃々栖は魔王に祈った。「……父上」
敬愛していた父親。今は亡き
……………………
…………
……
その時、一匹の光り輝く蠅が、目の前を通り過ぎた。
「……え?」
蠅は、父の盟友であった原始の『暴食』の主、
「父上…父上……」
蠅の放つ光は強く、この暗闇の中でも辛うじて足元が見える。
ふらふらと、幽鬼のように璃々栖は歩く。相変わらず亡者達の声が聞こえてくるが、幸いにして襲われることは無かった。
……どのくらい、歩いただろうか。
「っ……」
唐突に、視界が晴れた。
視界の先には、一本の枯れ木が立っていた。
そして、その木の上には。
「随分と追い詰められている様子じゃアないか?」
いつかと同じようにして、
†
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