第参幕「反攻セシ二人」
第参幕之壱「魔王、顕現ス」
》同日
支え、切れなかった。頭部を失った皆無の体が崩れ落ちる。
璃々栖は右足――霊的に強化された革靴の爪先にヱーテルを集め、皆無の父の姿を取る魔王を蹴り殺さんと脚を振り上げ、
「【この瞬間よ止まれ・汝は如何にも美しい】」
――る前に、全身が金縛りのようになって動けなくなった。
「
(皆無は生きているッ!)
皆無の体内を流れる己のヱーテルが、皆無の息吹を伝えて
「従僕が心配か、姫君? なぁに、死ぬことは無い。それは貴女も分かっているのだろう? ――が、戻って来るまでにどのくらいの時間が掛かるかは分からない。数日か、数週間か、数ヵ月か……そして記憶が戻る保証も無い」
「【寝て喰うだけが取り柄なら・獣と同じその一生――
光の腸を
「
『こいつ』と云いながら、その頭部を指先でこつ、こつ、こつ、と叩く。
つまり、この
(しかし、何故)
「何故、という顔をしているな?」
何故、
「それは勿論、
(では何故、こやつは【神戸港結界】を通り抜けることが出来た?)
「通り抜けてなどいないさ」こちらの思考を読んだのか、
(何故、ダディ殿はそのことに気付かなかった?)
「余がこいつの記憶を喰っているからだ。大変だったのだよ? 憑りついたは良いが、己を維持する為には魔力が必要だ。が、堂々とこいつの肉体を喰らっては当然、気付かれてしまう。だからこいつの
腕の在り処を聞き出そうとする時だけ、皆無の父の様子がいつもと違っていたのも納得であった。
「余は、こいつの一挙手一投足を監視することが出来るが、こいつの意識を乗っ取れる時間はそう長くない。それに、こいつが弱っている時にしか、長時間表に出ることは出来ない。だからその貴重な時間を、たった二つのことだけに集中させることにした。一つ目は」右腕を持ち上げて見せ、「この、腕だ」
――そう。
「疑問か? 教えて差し上げよう。腕は、余が不和侯爵
それは、知っている。昨日、
「そして余は
そう、愚かにも自分は、そのことを知らなかった。知らないまま神戸港に【
「
だから
(そして実際に、
拾月大将はいけ好かない奴だが、無能ではない……璃々栖はそう評価している。実際、摩耶山頂での戦いでは待ち伏せに気付くことも出来なかったし、彼の結界術で弱体化した己と皆無は死に掛けたのだから。
「そう、強力な槍が必要だった。【神戸港結界】を破るに足る、強力な魔力触媒が」
(ッ!)
「そう、この腕だ」
皆無の父からは、『
「大変だったよ、遠く大阪の海にまで腕を回収しに行かなければならなかった。そして、その時の記憶は喰った。こいつが自分の腕に付いているこの右腕について疑問を感じた時も、その思考を喰った」
何ということだろう。
奪われたと思っていた己の腕は、こんなにも身近な所に在ったのだ!
「そして、二つ目」云いながら
「うん? 七大魔王の
己の右腕のみならず、この
絶望的な状況。
(じゃが…………ッ!!)
その只中にあってなお、璃々栖は諦めていない。どころか、一筋の光明を見出していた。
(ダディ殿が弱っているからこそ、こやつはこうして表に出ることが出来ておる。つまり何らかの方法でダディ殿へ大量のヱーテルを供給することが出来れば、
「ほぅ? この状況下においてなお、絶望しない、か」
それにしても、良く喋る……と、図らずも思ってしまった。皆無が目覚める、第零師団が異常を察知して援軍に来て
「ははっ!」
(欲しい?)
「あぁ、余が良く喋る理由であったな。探偵小説にせよ冒険小説にせよ、物語の佳境で、黒幕はことの真相を明かすものだろう?」佳境。璃々栖にとっては絶望以外の何物でもないこの状況をして佳境と云わしめる。嫌味でもなく、実に自然な笑顔を以て。「余は貴女の歓心を買いたいのだ。貴女と、貴女の可愛い使い魔を、余の物にしたいのだ。その為に、貴女の余に対する印象を少しでも良くしておきたい。だからこうして、貴重な情報を開示して差し上げているのだよ」
「そう嫌わないで貰いたいな。貴女の使い魔は頭部を破壊された。ヱーテル体を得て間もない
――『敵』が、己が父を母を兄弟を一族を殺し、腕を斬り落とし、今こうして最愛の男性の頭を握り潰した『敵』が、どれだけ憎んでも憎み切れないこの『敵』が、こうして今、己に対してにこやかに微笑み掛けてきている。
これだけの仕打ちをしてなお、己が
(
ゆらりと、皆無の体が立ち上がった。
†
↓超美麗イラスト付きキャラ紹介・超豪華PV(CV山下大輝・伊藤静)はこちら
https://kakuyomu.jp/users/sub_sub/news/16817330650038669598
↓直リンク
https://sneakerbunko.jp/series/lilith/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます