第壱幕之伍「璃々栖之裸身ヲ洗フ」
》同日
大きく胸を張る美少女
「んっふっふっ……
性欲など抱く余裕は無い。ズボンの中の皆無の
「何処を見ておるのじゃ?」
「み、見てへん!」
「して、そなたは脱がぬのか?」
「ぬ、脱がんわ!」
「あはっ!
「ヒッ!?」体が勝手に動いて上着を脱ぐ。
「
姿見で見てみれば、華奢な己の背中には、蛇がのたくったような奇妙な痣がある。「物心ついた頃にはもうあってん」
「蛇、葡萄、喇叭、蠍の尾……何だか
「で、
璃々栖の体に刻まれた大小様々な切り傷や打撲傷。中でも一番酷いのは、今も血が滲んでいる右肩――腕を斬り落とされた跡だ。
「と、とにかく清めへんと!」
皆無は璃々栖を浴室へ招き入れ、湯船の湯を桶に
「オロオロするでない」璃々栖が泰然とした
「う、うん――って、うわっ!?」
璃々栖が桶の中に右肩の傷口をばしゃんと突っ込み、じゃぶじゃぶと動かす。たちまち桶の湯が血に染まり、「もう一回じゃ」
云われるがまま湯を用意し、璃々栖がまた、じゃぶじゃぶとやる。
「ま、こんなもんじゃな」
「じゃあ逆を」
「要らぬぞ」
「え?」見てみれば、左肩は傷一つ無い。
「治癒の魔術は使えるかの?」
「使えるけど触媒が無いとヱーテルが足りな――むぐっ!?」
いきなり口付けされた。ドロリとした甘いモノを喉に流し込まれる。
「げほげほ!!」ヱーテル酔いで目に映る光景がグルグルと回り始める。更には頭痛と吐き気。「おぇ……」
「吐くな
璃々栖の唇で口を塞がれ、無理やり
「鬼ぃ、悪魔ぁ」
「あはっ、悪魔じゃからのぅ!」
「【
両手を璃々栖の右肩にかざすと、果たして傷は見る見るうちに塞がった。他の切り傷や打撲傷まで綺麗さっぱり治ってしまう。想像以上な効果のほどに、頬が引きつる皆無。
「
「え……」
「何とか処女は守った。じゃからそんな、憐れむような目で見んでも良い。
「う、うん」璃々栖の腰まである長い髪を苦労して結い上げ、肩から湯を掛ける。手拭いを持ち出そうとすると、
「手で直接洗うのじゃ」にやにや笑いながら、璃々栖。「乙女の柔肌じゃ。大事に扱え」
皆無は卒倒しそうになりながら『花王
「ん、あっ、ふぅぅっ、もうちょっと優しく出来んのか」
「そんなん云われてもッ!」
「いやぁ、心地良い。本当に不快だったのじゃ。台に縛り付けられてじゃな、乳房を揉みしだかれるわ脚を舐め回されるわ……そうそう、そこじゃ。乳の下もちゃんと洗え」
「ひぃっ」
「脚を思いきり開かされ、あやつの粗末なナニを見せられた時にはもう駄目かと思ったものじゃが、あわやと云うところで父上と
皆無は、この気高い姫君がやけに早口で、そして涙を堪えるような表情をしていることに気が付いたが、気付いていない振りをしながら璃々栖の体を洗い続ける。
「父上は……余が逃げる
「!?」璃々栖が核心を話している。この姫君が神戸に現れた理由の核心を。
「湯を掛けて
(
璃々栖の左の肩口がやけに綺麗なのは、生まれつき左腕が無いからなのだ。
「
皆無は今はっきりと、この少女に心酔する。これほどに怖く
「さて、次は髪を洗え」璃々栖が湯船から出てきて、風呂椅子に座る。
「仰せのままに」
†
「コラッ、髪をそう乱暴に梳くでない!」
璃々栖の髪と体を拭き、父が準備良く脱衣室に用意して
「お話、ありがとうございました」父が部屋に入って来た。準備良く洋食――文明開化日本におけるご馳走・カツレツを台車に乗せている。
「千里先の出来事をも見通せる力を持つそなたのことじゃ。盗み聞きなどお手の物じゃろう?」
「ひとまず今日は、この屋敷でお
†
「ふわぁ~、余は寝る」傍若無人にも皆無のベッドを占領せしめた
「ちょっ、僕は何処で寝たらええねん」
「起きておれば良かろう。そなたは先ほどまで眠りこけておったが、余は夜通し起き続けておったのじゃぞ?」
「寝れば良かったやん」
「あのなぁ」布団からずぼっと顔を出した璃々栖が顔を
「寝ぇへんわ!!」
†
結局、夜になるまで自室でヱーテル操作の鍛錬を行った。己のヱーテル総量は一万から一千万に増えていた。実に、日本一と云われる父・正覚の半分近くである。
ふとベッドを見ると、璃々栖が無防備な様子で寝ている。これほどの美女と何度も接吻し、肌を見て、あまつさえ風呂に入れたという事実に対して、皆無は全く実感が湧いてこない。ランプの明かりの中、璃々栖の、ベッドからこぼれている美しい金髪に触れようとして、
ヴウゥゥウウゥゥ……
外から手回しサイレンの音。
「うぉっ、何じゃ何じゃ!?」璃々栖が飛び起き、皆無としっかり目が合って、「夜這いか?」
「
「
「妖魔や。ここんところ毎晩、手
「ふぅん……おや?」璃々栖がドアの方を見ると同時、
コン、コンコン
完全武装の父が部屋に入って来た。「仕事の時間だよ、皆無」
†
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