第壱幕之肆「事情聴取」
》同日
「あら~皆無チャン!」『パパ』呼びが出たことに狂喜乱舞する父に対し、
「
「いやぁ、昨日の――お前の心臓を貫いてくれた憎き
「二千万超えなんやろ!?」
「だって相手は
「けど治癒系の神術使える人は
「そうか、お前は知らないんだったな」
「うん?」
「実は――」
皆無は昨夜のあらましと、【神戸港結界】が破られてしまったことを聞かされる。
「そ、そんな……」
「そんなわけで、神戸中の術師が大わらわさ。私の治療の為に割けるヱーテルなんて一滴たりとてありゃしない。お陰で私は、とりあえず術式義腕を付けて、定着するのをこうして待っているわけさ。さて」父が少女へ、西洋風の礼を取る。「レディ、お話を聞かせて頂いても?」
「ふむ」ベッドに腰かけている少女と、身長一〇〇サンチの父の視線がかち合う。「時にそなた、幾つなのじゃ?」
「百を過ぎてからは覚えておりません」
「百ぅ!?」少女が、その泰然とした
「お褒めに預かり恐悦至極に存じますが……貴女ほどではありませんよ、ヱーテル総量五億の魔王様」
「王?
「まだ、とは?」
「力を取り戻し、憎き叛逆者どもを八つ裂きにし、我が土地と民を奪った七大魔王が六・
「「
「ご事情を、詳しくお聞かせ願えますかな?」
「参ったのぅ。余はそなたの息子・皆無が欲しい。余の旅路に連れて行きたいのじゃが……話せば、それを許してもらえるかの?」
「質問に質問で返すご無礼をお許しください。何も息子を使い魔とせずとも、この部屋に潜んでいる
「ほぅ?
「常人よりも、少々敏感でして」
「【赤き蛇・神の悪意
「さすがの私でも、未来予知は出来ませんよ」
「ふむ……まぁ良い、可愛い使い魔の親族なのじゃ、教えてやろう。
「あの馬も七十二柱なん!?」皆無は、思わず会話に割って入ってしまう。
「さて、レディ。最初に、これが一番大事なことなのですが……貴女には、この国に住むの人間に対する害意はありますか?」
「無い」美しき悪魔が大きく胸を張って断言する。「我が眷属には
皆無と父は黙り込む。この悪魔の話には、筋が通っているように思える。
「なるほど、それは本当に何よりです」頷きながら、父が懐から手帳と鉛筆を取り出す。「では次に、お名前をお聞かせ願えますか?」
少女が頷き、その、威厳と可憐さを兼ね備えた魅惑的な声で、名乗る。
「我が名はリリス。リリス・ド・ラ・アスモデウス。偉大なる七大魔王が七・
皆無は、その声に聞き惚れる。(って、
「
「
「へ?」父が慌てて懐から『毎朝見ロ手帳』――父の為に皆無が昔作った『これだけは最低限覚えておけ』ということを書いたノートを取り出し、パラパラと繰ってから、「さすがの私もそれは忘れてないよ?」いけ
「七大悪魔と個人的に縁なんてあって
「ご、ごほん。では話を続けましょうか。お名前の当て字はこちらで決めさせて頂いても?」
「当て字とは何じゃ?」
「この国の古めかしいしきたりでして。外来語に漢字を当てるのです」手帳に『
「何とけったいな……まぁ良い。そなたが決めよ」
「それでは」父が手帳に、
『璃々栖』
と書いた。
少女リリスが手帳を覗き込み、「璃、とは?」
「宝石。
「栖、は?」
「ただの当て字ですが、ルイス・キャロル著の『不思議之国之
「あはっ、気に入った! 余は、この国では
両腕の無い少女の悪魔・
†
「レディ・璃々栖」父による事情聴取は続く。「貴女が神戸港に現れた時、【神戸港結界】は健在でした。つまり貴女は、結界の内側に突如として現れた」
「そこまで分かっているなら、仕方がないかのぅ……ご明察の通り、【
「何処から来られたのですか?」
「
「貴女の魔術ではありませんね?」
「何故、そう思う?」璃々栖の声の温度が下がる。
「それだけの距離を渡れる秘術など、それこそ
「あはっ、正解じゃぁ! 余の侍従たる
「囚われて……あぁ、なるほどそれで。レディ・璃々栖、大変なご無礼を承知の上で申し上げますが、貴女は今、ご自身の
(
だが、短所もある。それが、
「
「囚われていた時に――」父の言葉に、
「
璃々栖が、初めて怒気を
璃々栖はすぐに落ち着きを取り戻し、「逃げる時に、失くしてしまっただけじゃ」
「失礼致しました」父が頭を下げる。「では次に、貴女が他ならぬここ、神戸港に現れた理由についてです」
「秘密じゃぁ」少女の小悪魔的な微笑。
父もまたにっこりと微笑み、「駄目です」
「駄目、とは?」
「何が何でも話して頂きます」父が虚空から南部式自動拳銃を引っ張り出す。
「分かっておらんようじゃが……余はそなたの息子の心臓を握っておるのじゃぞ? 息子の命が惜しくないのか」
「状況をご理解なさっておられないのは貴女の方ですよ、レディ。私は軍人です。軍人とは、命令とあらば部下や己の命を差し出すものです」その銃口が、あろうことか皆無へ向けられる。「皆無を失っては、貴女は自衛する
「だ、ダディ――」
「お前は黙っていろ」
父と璃々栖が睨み合う。一分ほども経ってから、
「こやつとは抜群に相性が良い」璃々栖が肩を
「利害の一致を見たようですね?」父が南部式の銃口を下ろす。
「……はッ、はぁああッ!!」無は思わずその場に崩れ落ちる。心の臓が早鐘を打っている――璃々栖から受け取った第二の生命維持装置が。
「じゃが、話す前に一つ条件がある」璃々栖が微笑む。「湯浴みじゃ」
†
皆無は璃々栖を連れて、『
「それで、こっちが休憩室や。あ、休憩室です」
「良い良い。砕けた話し方の方が、弟が出来たみたいで心地良い」
弟扱いされたことを、何故だか少し残念に感じる皆無。とは云え皆無はこの美少女に対し、どのような感情を抱くべきなのか判断出来かねている。
そして何より、心。もしも自分が叛逆の憂き目に遭い、親を殺され、腕を斬り落とされ、自分を敵と
休憩室に入ると、
「おやおや皆無、随分と可愛い彼女を連れているじゃアないか!」
ビリヤード台の上で胡坐をかき、蒸留酒を
ビリヤード台の上には酒瓶が沢山転がっており、酒の肴が乗っていたらしき皿も散乱している。部屋にはこの、頭のおかしなシスターしかいない。
「
「……
「キミが噂の小悪魔チャンかい?」ビリヤード台から飛び降りた
そう、随分と年若いように見えるこの女性は、
「アタシゃ可愛い子が大好きだからねぇ!
†
「僕は外におるから」
「何を云っておる」脱衣所で璃々栖が胸を張る。「そなたも一緒に入るに決まっておろう?」
「は?」
「誰が余の服を脱がすというのじゃ。この通り腕が無い」
「はぁッ!?」
「誰が余の体を洗うというのじゃ」
「いやいやいや!!
「
「じゃ、じゃあ
「あやつは
「……ほ、本気で云っとるん?」
「余はさっさと、さっぱりしたいのじゃ。ほれ、
†
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