腕ヲ失クシタ璃々栖（リリス） ～明治悪魔祓ヒ師異譚～

序幕之弐「開幕（登場人物紹介含ム）」

》同日二一三〇（フタヒトサンマル）　神戸北野・異人館街　――皆無（かいな）《

　弾丸は、マ（、）リ（、）ア（、）を（、）名（、）乗（、）る（、）悪（、）霊（、）の頭部を破砕させる。

　埃まみれの床にその体を伏す自称真里亜（マリア）の肉体――濃密度ヱーテルによってほとんど受肉（マテリアライズ）寸前の域に達していたそれは、悪霊（デーモン）の制御下を離れ、はらはらと白い光となって剥がれてゆく。

　最後には、淡く白く輝く、蠅のような塊が残った。

　電（、）灯（、）も（、）付（、）い（、）て（、）い（、）な（、）い（、）、蝋（、）燭（、）の（、）明（、）か（、）り（、）も（、）無（、）い（、）真（、）っ（、）暗（、）な（、）部（、）屋（、）で（、）、悪霊（デーモン）のヱーテル核であるその蠅が、まるで蛍のように宙を漂う。

　皆無の足元では、瘴気を吸って一回り大きくなった御器囓り（ゴキブリ）が、調度品の欠片を蹴り上げながらカ（、）サ（、）カ（、）サ（、）と（、）音（、）を（、）立（、）て（、）て（、）蠢（、）い（、）て（、）い（、）る（、）。

　金切り声にせよポルターガイスト現象にせよ、全ては自分を少女真里亜（マリア）だと思い込んでいたあの悪霊（デーモン）自身が起こしている怪奇現象に過ぎなかったのだ。

　皆無は南部式自動拳銃を腰の銃嚢に収め、静かに黙祷する。

　明治悪魔祓ヒ師異譚（いたん）「腕ヲ失（な）クシタ璃々栖（リリス）」、ココニ開幕ス。

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》登場人物《

◆阿ノ玖多羅（あのくたら）皆無（かいな）

　十三歳の少年。

　身長一四〇サンチ。

　日本政府の対魔機関『帝国陸軍第零師団』所属の少佐。

　輸入品に紛れて侵略してくる西洋妖魔の退治を専門とする悪魔祓い師（ヱクソシスト）。

　天才でありながら、『日本一の退魔師』と誉れ高い父親と比較され続けてきた為、鬱屈・諦観気味。

　ただ今、反抗期の真っ最中。

◇阿ノ玖多羅（あのくたら）正覚（しょうがく）

　皆無の父。

　身長一（、）〇（、）〇（、）サ（、）ン（、）チ（、）。

　日本一の退魔師。

　百年以上の時を生きる、怪物にして傑物にして俗物。

◆璃々栖（リリス）

　十六歳の悪魔（デビル）。

　金髪赤眼で絶世の美少女。

　身長一五五サンチ。

　亡国の姫。

　叛逆（はんぎゃく）者に父を殺され、自身は腕を斬り落とされ、それでも報復と祖国復興を諦めない意志力の塊。

◇聖霊（セアル）

　璃々栖の従者。

　使い手が希少な瞬間移動魔術を操る。変化の術で璃々栖の腕の代わりを務めることも。

◆毘（ベ）比（ヒ）白（モス）

　叛逆者を使い、璃々栖の祖国を奪い取った悪魔（デビル）。

　七つの大罪の『暴食』を司る七大悪魔の六。

◇沙（サ）不（ブ）啼（ナッケ）

　璃々栖の国の元宰相にして叛逆者。

　璃々栖の父を殺し、璃々栖の腕を斬り落とし、璃々栖を辱めた。

◆ＡＩＲＡＭ（アイラム）

『帝国陸軍第零師団』の対西洋妖魔部隊で最も優れた悪魔祓い師（ヱクソシスト）に数えられる『拾参（じゅうさん）聖人』の拾参。然（しか）してその正体は――

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