第3話 白いワンピース

「へへっ、しゃぶれよ」

 嫌だ……

 私は虚しく抵抗する。

「しゃぶれって言ってんだよ!」

 私は男の一人に力の限り殴られて……無理やりに口で奉仕させられた。

「あぁ、気持ちいい」

 どうして…何で……

 私の目から涙が溢れる。

「おい、そろそろ挿れちゃおうぜ」

 私はその言葉に青ざめて我を忘れ……最後の力を振り絞って暴れる。

「いや、いやぁ……」

 必死で手足に力を入れ、男達を振り払おうとする。

 しかし……

「暴れんな! 殺すぞ、てめぇ」

 またしても力の限り殴られて……四人の男に押さえ込まれる。

 そして、男を知らなかった私の体は散々に嬲られ、弄ばれ……蹂躙される。


 嫌だ、嫌だ……

「え、うそ! こいつ、バージンだよ」

「マジで!? 超ラッキー! ごちそうさん」

 やめて、やめて……


「あぁ、気持ちいい。中に出しちまったよ」

「あ、マジ? 鬼畜~こいつ、妊娠しちゃうよ?」

「いいじゃん。どうせ、おもちゃなんだしよ」

「おい、次は俺だぞ。早くヤラせろよ……」

 私は汚く薄暗いトイレの中で……そいつらに代わる代わる、乱暴に犯された。


「あぁ、気持ちよかった」

「姉ちゃん、ありがとよ!」

 トイレの中で、放心状態で仰向けになっている私を置いて、男達は去っていく。

 そして、その中の一人が思い出したようにこちらにケータイ画面を見せた。

「あ、そうそう。お前……絶対にケーサツに言おうなんて思うなよ。そんなことしたら、お前のこの痴態……ネットに拡散しちゃうから」

「ま、言ったりしなくても拡散しちゃうかも知れないけど~」

 そいつらの薄汚れた……鬼畜な笑い声が響き渡った。



 寒いトイレの冷たい床……私はゆっくりと起き上がった。


 何が……起きたの?

 私は虚ろな目で自分の衣服を見た。

 服も、スカートもビリビリ。コートも、無残にボタンが引きちぎられている。


 私……レイプ、されたの?

 何で? どうして?

 その現実があまりに現実味がなくて……私の頭は正常に回らなかった。

 帰らなきゃ。でも……まず、服をどうにかしなきゃ。このままじゃ、帰れない。

 そうだ、ワンピース。トートバッグの中に、白いワンピース……


 着替えている間に……段々と私の頭が正常に回りはじめるにつれて、目から止めどなく涙が溢れ出した。

 どうして……何で?

 今日……家を出たから? あのオヤジから、金を巻き上げたから?

 こんなことになるなら、今日、家を出なければよかった……

 出来るなら、もし出来るなら……昨日に戻りたい。昨日に……


 白いワンピースに着替えてトイレから出た。

 その瞬間、目の前が真っ白になったような気がした。


 粉雪が……舞っている。いつの間に?

 でも、気に止める余力はない。


 向こうから、ピンクのコートの女が私を見ている気がする。

 でも、やはり気に止める余力はない。


 おぼつかぬ足取りで、虚ろにフラフラと歩き続ける。



 気がついたら、マンションの自分の部屋に戻っていた。

 日めくりカレンダーは12月24日を示しているような気がする。

 しかしそれには目もくれず、ベッドに顔を埋めた。


 私……何人にヤラれた?

 何回ヤラれた?

 汚い……怖い。

 彼奴らの、薄ら笑いを浮かべた顔……悪魔のような顔が何度もフラッシュバックして……私をドンドン蝕んでゆく。

 自分の初めてがまさか……あんな奴らに、あんなに汚く乱暴に奪われるなんて……。どんなにオヤジから金をむしり取ろうと、『初めての相手は自分の好きな人』と決めていたのに……。

 私、もう、生きていけない。死のう……。


 私はゆっくりと立ち上がった。



 天井からロープをぶら下げて輪をつくり、自分の首にかけた。

 こんなことになるなんて……

 頭は真っ白。何も考えられない。


 足を乗せた踏み台を倒す。

 ロープが首に食い込む!

 そして、『ギー、ギー』と音を立てる。


 く……苦しい!

 助けて!

 口から涎が溢れる。

 小便が漏れる……


 その時……

「キャー!」

 ドアが開いて照明が点き、悲鳴を上げる『私』と目が合った。


 汚れを知らない『私』は美しく……私は、涙ながらに訴える。

 助けて!

 苦しい……行かないで!


 『私』は凍りついた驚愕の表情を浮かべ、そのまま部屋から出た。


 行かないでぇ!!


 一瞬、目の前が真っ白になった。

 12月25日を示す日めくりカレンダーの置かれた部屋で、私は絶命した。




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白いワンピース いっき @frozen-sea

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