第8話 転校生

 休日が終わり、今日からいつも通りの学校がある日常が始まる。


 ただ、一つだけ普段とは変わったイベントが起こる。ぼっちな俺でも、クラスのざわつきようで察しがつく学生ならば誰もが興奮するイベント、らしい。

 男子三人グループの会話にて。


「なぁ、聞いたか。今日からこのクラスに転校生が来るらしいぜ」

「知ってる。しかも女子だろ? マジ最高ー! 可愛い子だったらいいなー」

「実はさっき俺、偶然職員室で見ちゃったんだけど小柄でめっちゃ可愛かったぜ。見るからに美少女って感じがしてた!」

「マジで! 最高じゃん!」


 そう、転校生が来るのだ。

 と言っても、正直俺はさほど興味がない。


 転校生が来たとしても、俺と関わることなんてほぼ零に近いし、美少女と噂されているなら他の男子生徒に狙われるのがオチだ。よって、クラスに一人増えたくらいでは別に何も思わない。

 だが、他の生徒は違う。皆、目を光らせて、転校生が来るのを待ちわびている。


 あまり初対面の人間に過度な期待を持つのも、どうかと思うが。そんなことを内心思ったとしても、こんな冷めたことを考えているのは俺くらいだろう。

 ちなみに彩葉さんはどうだろうと、ちらりと隣を見る。


「転校生だって! すごく楽しみだね!」


 やっぱり。すごい興奮してた。


「そうだね」


 それに対して、軽く俺は返した。


 時が経つと、ガラガラと教室の前の扉が開く音が聞こえて、中に担任の三浦が入ってきた。

 三浦先生は女性の教師で、しかも元ヤンだ。雰囲気もガサツだ。だが、根は優しくいい人で、生徒からは慕われといる。


「お前ら喜べ。今日は転校生が来る。それもかなりの美少女だ。野郎どもよかったな」


 と、教室中に響くくらいに大きな声で三浦先生は言った。

 その台詞の後、もう一人の小柄な女子がさっき三浦先生が入ってきた同じ場所から入ってきた。

 ゆっくりと歩き、三浦先生の隣に立つ。


 俺は彼女に見覚えがあった。むしろ、俺をこの世界に送り込んだ人物なのだから忘れるはずがない。


「自己紹介を頼む」

「はい」


 彼女はゆっくり息を吸う。


「初めまして。私は冬野雪乃と言います。好きなものはブラックコーヒー、苦手なものは甘いものと横暴な人です。よろしくお願いします」


 そう言って、雪乃はお辞儀をした。

 冬野雪乃。それが最初に俺にブラックコーヒーを渡し、過去に行かせた人物の名前だった。

 中学生じゃなくて、同い年だったのか。


「じゃあ、村田の隣の席がちょうど空いてるからそこに座れ」

「はい」


 三浦先生の言葉に返事をして、雪乃はしてされた俺の斜め前の席に座った。


「俺は村田風磨ってんだ。よろしくな」


 明るい声で風磨は自己紹介をした。


「こちらこそ。よろしくお願いします」


 と、雪乃は丁寧に返した。


 風磨は明るい性格でクラスからも人気がある。迷いなく誰とでも関わるので、席が近いと言うだけで俺もよく絡まれる。


 本人からすれば、仲良くしたいのだろうが、人と話すことが苦手な俺からすればあまりいい気分ではない。

 が、特に嫌なことはせず悪い奴ではないのは確かなので、俺も最低限の反応はするようにはしている。


 不意に雪乃は後ろを向き、俺に話しかけた。


「今日から同じクラスですね。よろしくお願いします。黒丸様」

「なんでお前がいるんだ。あと、なんだその呼び方」


 それに、こいつに自分の名前なんて教えたか?


 周りから見てもあまりに不自然なやりとりに、彩葉さんは食いついた。


「何々、この二人もしかして知り合い?」

「そんなんじゃねえよ」

「はい。この世で最も私の大切な人です」


 この人何言ってんの?

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ブラックコーヒーは苦いけど、俺は昔好きだった女子に告白したい 夢野ヤマ @yumenoyama

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