第7話 お出かけ
俺たちは、彩葉さんの提案でゲームセンターで遊ぶことになった。
「まさか影くんが女の子の下着を漁って、見つめることが趣味だったとはね」
「誤解だ。それに漁ってはいないぞ」
出かける前に起きた事件から、彩葉さんの様子が変わった。
やってしまった、と思った。これでは完全に彩葉さんの俺に対してのイメージが変態じゃねえか。
「だったら、なんであんなところに私の下着があったのかなー?」
彩葉さんはからかうようにキャッキャッと笑った。
「あそこに置いたのは彩葉さんでしょ」
「人のせいにするんだ?」
「そっくりそのまま返すよ」
確かに俺も、一瞬の好奇心で彩葉さんの下着をガン見したことは申し訳ないと思っている。カラーは意外にも黒だったことも覚えている。
しかし、それだけで俺が百パーセント悪いと言うのは違うと思う。そもそも、あんな場所に彩葉さんが下着を置かなければこんなことにはなっていなかった。これは彩葉さんの不注意が招いた事故なのだ。
「じゃあ、あれ取ったら許してあげるよ」
そう言って彩葉さんが指を指したのは、クレーンゲーム内にある大きな水色の熊のぬいぐるみだった。
「許してあげるもなにも、俺は悪くないんだが」
「証拠の写真は撮ってあるから、学校にばらまいちゃうけど」
「やります。やらせてください」
いつの間にそんなの撮ってんだよ。
これはさすがに俺にとって分が悪いので、仕方なくクレーンゲームをすることにした。
もちろん社会人になってからクレーンゲームなんてしたことないし、ゲームセンター自体にも行っていない。学生時代には良く行っていたし、クレーンゲームも好きだった。
感覚が残っていればいいが。
そんな不安を背負いつつ、百円玉を機械に投入する。すると、大袈裟に機械は光だし、音楽の音量も割とでかい。この演出すらも久々に見たので、懐かしく感じた。
「頑張って!」
隣で彩葉さんが応援してくれている。
彩葉さんの不注意でぬいぐるみを取る羽目になったのに、こう言うところは憎めない。
真剣な眼差しを俺はガラス越しに向ける。一つ目のボタンを押し、アームをお目当ての景品の場所まで持っていく。それから、渾身の力で二つ目のボタンを押し……。
◯
「……もしかして影くん下手?」
「違う、違うんだ」
ぜんっぜん取れねぇ。
最近のクレーンゲームってのは、こんなにも難しいのか。いや、過去に戻っているわけだから、性能は昔と変わらないはずなんだが。
それでも諦めるわけにはいかないので続けて百円玉を投入。失敗。投入。失敗。投入。失敗。
なんだ、このゲーム。
学生時代とはうってかわって、こんなにもスランプと言うものが恐ろしいとは。
もう何回やったかなんて覚えていない。とにかく、今集中すべきことは目の前のぬいぐるみを取ることだけ。
そうすれば、彩葉さんの笑顔が見れる。それ以上に嬉しいことなんて他にないだろう。
気合を入れて、ボタンに触れる。アームはじわりじわりとぬいぐるみに近づいていく。そして、掴み……。
来い。来い。来い。
ガコン。と、下から音が聞こえた。
ついに取れたのだ。
「やったー!」
俺が喜ぶ前に、彩葉さんが叫んだ。
約束通り、俺は彩葉さんにぬいぐるみを渡す。
「ありがとうね! ずっと大切にするから!」
その表情はまさに最高級の笑顔だった。
それを見て満足した俺は、実は一万円も使い、財布にかなりの負担をかけたことは心の底に沈み込ませることにした。
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