第6話 朝食
夢を見た。
俺が彩葉さんと付き合っている夢。
とても幸せな夢。
しかし、幸福な時間というのはほんの一瞬で目はすぐに覚めてしまった。とは言え、時計を見ると午前八時を過ぎていたので、十時間以上は寝てしまっていたのだから不思議なものだ。
これはあくまで俺の睡眠時間で、彩葉さんはもっと早く起きていた。目を覚ましても、隣には誰もいなかった。
ベッドから起き上がると、一階のキッチンの方からいい匂いがしたので向かった。
「あ、おはよ」
向かった先には、白いエプロン姿でフライパンを持った彩葉さんがいた。
「おはよう」
目を擦りながら、俺は返す。
フライパンの上には、二個目玉焼きが焼かれていた。
「もうすぐ出来るからちょっと待ってて」
そう言って一つのプレートに、今焼いた目玉焼きとソーセージ、バターが乗ったトーストを盛り付けた。
それから、すぐ近くの机にプレートを二つ移動させる。
「持つよ」
「ありがとう!」
出来上がった料理を代わりに俺が運び、その間に彩葉さんはエプロンを脱いでいた。そしてすぐこっちに来て、二人で両手を合わせていただきますと言って食べた。
「んー! おいしー!」
我ながら美味いと言わんばかりに、彩葉さんは感激していた。
「美味いな」
無論、味に文句はない。
昔から何故か彩葉さんは俺の好みを熟知している人だった。
黄身は半熟、ソーセージの塩気もちょうど良い。まさに俺好み。
どこでそんな俺の情報を知ったのか聞くと、彼女いわく君みたいな地味な人の料理の好みなんて大体同じらしい。それはさすがに偏見すぎないか?
朝食を食べ終え、俺たちは食器を洗った後、今日は出かける日なので身支度をすることにした。
「じゃあ俺、彩葉さんが着替えるまで奥で待ってるから」
「本当は私の着替えてるところ見たいんでしょ?」
いつもいつも彩葉さんは俺をからかってくる。本当に勘弁してほしい。
まぁ、見たいか見たくないかと聞かれれば、見たいの方が勝ってるんだが。おっと、駄目だ。ここは欲望を抑えて。
「見たくない」
と、言うことにした。
「嘘ー! 本当に?」
「本当」
「ふーん。じゃあ、すぐ着替えるから私の部屋で待っててね」
「うん」
そのまま俺は階段を上がり、二階にある彩葉さんの部屋に行った。
入ると、とても甘い匂いがした。
さっきは寝起きだった為あまり気にしなかったが、女子の部屋に入るってのはすごく緊張するものだ。それも好きな人の部屋なら特別に。
勉強机には綺麗に整った教科書が置いてあり、本棚には有名な漫画が置いてある。ベッドの上には可愛いピンク色の熊のぬいぐるみが置かれていて、まさに女の子の部屋って感じだ。
数分の間、彩葉さんの部屋を堪能することにした。堪能と言っても、別にいやらしいことなんてしない。本当だ。
そのまま何事もなく時間が過ぎ去っていけば良いものの、俺は、いや俺以外の人間でも、全男子高校生が絶対に見てはいけないものを見てしまった。下着だ。
なんで床に下着なんて置いてんだよ。危機感なさすぎだろ……。
「お待たせー! ……何見てんの?」
「ちょっ、これは違くて!」
「……うわー」
引いた? 今、引いたよね?
俺は本当に運が悪い。
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