第4章 (10)
『凪君、風花ちゃん。聞こえてたら返事して頂戴。』
その情報が瑞穂を介して凪と風花に届けられたのは、『妖魔』の予測上陸地点に着く直前であった。
「はい、こちら凪。瑞穂さん、何がありました?」
『灯さんからの緊急連絡が今届いたわ。作戦会議では『妖魔』の大きさが直径約15mとされていたけれど、現在は直径約12mほどになったらしいの。』
「え、それじゃ…」
もっと楽にできる。喜びを隠せない様子でそう続けようとした凪は次の瑞穂から発せられた言葉にかき消された。
『一方、ほぼ球体とみられていたその体が異常に延長しているみたいで、100mくらいに伸びているわ。体積にして約3倍といったところよ。』
「え?すごい大きくなってないですか?」
『ええ。全体の形を正確に測ったのは約2時間前。それだけの時間でここまで大きくなったということはそれだけ力を得ている証拠でもあるわ。』
「ど、どうするんですか!?そんな相手にどうやって…」
急に『妖魔』が強くなっていることにうろたえる凪に、瑞穂は静かに作戦を告げた。
『この速度で大きくなっているということは、『妖魔』の肉体は海底の泥である確率が高くなるから…。そうね方法自体は思いついたけれど…一つ条件があるわ。でも…凪君には…。』
「条件って何ですか!?やれることは何でもやりますから…教えてください!」
『そう。じゃあ伝えるわ。凪君、泳げる?』
「ふぇ?」
その瑞穂の予想外の発言に凪は素っ頓狂な声を出した。
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瑞穂の作戦を聞いた凪は、決意した表情で岸壁に立っていた。
(の、のう。おぬし大丈夫か?先ほどから肉体がすごい震えておるが。)
その一方、その肉体は異常に震えていた。
「大丈夫ですよ。ただちょっと…武者震いというか…」
(無理ならば代わるぞ?流石に見てられないしの…。)
その異常な震え方に風花は役目を替わることを提案した。
「い、いいえ!何でもやるって言ったんですから僕がやりますよ!泳げないこともないですしぃ…。」
しかし、凪は自身がやることにこだわり、その申し出を拒否したが、その肉体はいまだに震えていた。
『本当に大丈夫ね?流石に海の中に入ったら主導権を譲り渡す時間はないわよ?』
そんな異常な様子を察したのか、瑞穂も凪に主導権を風花に移すことを提案した。
「泳げますから!や、やります!」
その提案も凪は断ると、震えながらも水中に入るために岸壁に座り込んだ。
『最後にもう一度確認するわよ?この『妖魔』の肉体は、成長速度からしてほとんどが海底の砂を術式で固めることで構成していると考えられるわ。だから、その術式を実行している場所を切り取ってしまえば無力化できるはず。でも、その場所は隠蔽されているせいで灯さんでもわからない。そこで、灯さんの索敵が十分に生かせる海中に『妖魔』がいるうちに、凪君に『妖魔』の肉体を構成している砂の体積を削ってもらう。探査が無理やり通せるようになるまで削ることができれば、次に灯さんに探査を打ってもらって実行している場所を特定してもらうわ。特定できたらあとは速やかにその部分を攻撃するだけよ。で、本当に泳げるのね?陽さんからは凪君は泳がせないって聞いてるから…本当に大丈夫ね?』
「何回聞かれても一緒ですよ。僕は泳げないのではなく、泳がないだけなので大丈夫です!」
(本当かのぅ。まあ、気の弱い凪にしてはやけに強気じゃし…それだけ自信があるのかの。)
凪の返答に風花は訝しんだが、凪がやる気であれば邪魔することはないと考えたため、これ以上は何も言わないことにした。
「そこまで強気で行けるならやっぱり本当に大丈夫そうね。陽さんから聞いた話も10年以上前のことだったし…。今は問題ないのかしらね。」
通信術式の先の瑞穂も、凪の強気な様子から凪を信用してみることにした。
「じゃあ、作戦開始よ!上陸まであと5分程度しかないから迅速にね!」
そして、作戦開始の号令とともに凪は足から水中に落ちるとそのまま沈んで…潜っていった。
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