第4章 (8)
凪と風花は瑞穂の後について、前の出動の時と同じ車へと乗り込んだ。車の中には、様々な機材とともに紙袋が一つ置いてあった。
「悠ちゃんに作ってもらった服はその紙袋の中に入ってるわ。最低限必要な術式とかも付与してあるから、作戦に大きな問題はないはずよ。ただ、実際に着てみての細かい調整ができていないから100%大丈夫かは断定できないわ。到着までに着替えておいて。」
瑞穂はそう急ぎ足で言うと、車を発進させた。
「凪よ、準備はよいか。」
それを聞いた凪は大きくうなずいた。
「では行くぞ。『術式展開 合一』。」
風花はいつものように術式を展開させると、風花からでた光の粒が凪へと移動していき、その光の粒が収まる頃には、凪と風花が融合した姿の少女が座っていた。
「今回もうまくいったぞ。では…おお!結構格好よくできておるの。早速着てみるか。」
紙袋の中には紺色のワンピースと頭巾が入っていた。ワンピースは体の線を隠しつつも行動に邪魔にならない程度のゆとりがあり、機能性と審美性を兼ね備えたデザインとなっていた。頭巾は頭頂部の耳と長い髪の毛を隠せるサイズでありながらも着脱に苦労しないような工夫がなされていた。
風花はワンピースを着て、頭巾を被らずにフードのように背中に回した。
「よいしょっと。この前の服とかと違ってそのままかぶればよいから、凪でも着れるな。次からは凪がやるとよい。とりあえずここからは任せるぞ。」
そう言うと肉体の主導権が風花から凪へと移った。
「確かに簡単そうですし…いいですけど…。あ、結構かっこいいデザイン。悠ってこっち方面の才能があったんだ。」
凪がこの服装についてまじまじと観察していると。ルームミラー越しに着替え終わったのを確認したのか瑞穂が話しかけてきた。
「あ、着替え終わった?申し訳ないんだけど、対応時の靴はまだできてなくて…今回はスニーカーを用意したからそれ履いてくれる?急いで詰めたから横とかに転がっちゃってるかもしれないけど探してみて?」
「あ、はい!え~と。あ、ありました。」
凪は瑞穂に言われたとおりに探すと、靴は椅子の下に落ちていた。
「サイズはピッタリなはずだから、とりあえずはそれでしのいで頂戴。武器はとりあえず取り回しを重視してナイフを用意したけど…どうかしら?紙袋の中の箱に入れておいたけど、ちゃんと入ってる?」
「箱ですか?え~と…あ、ありました。」
凪が紙袋の中を確認すると、小さな紙箱が入っていた。その箱を開けると、中には柄の部分に魔法陣のような文様のついた果物ナイフが3本入っていた。
「果物ナイフくらいの大きさですね。柄の部分に変な模様が入ってますけど、これは一体?」
「その文様は『破魔』の術式をかけてある証拠よ。最初はサバイバルナイフの方がいいかとも思ったけど最近は規制が厳しいから入手ができなかったわ。本当は鍛冶の段階から術式を練りこんだものの方が効果は高いんだけど、それはまだ依頼したばかりなの。だから、しばらくはそれで我慢して頂戴。」
「いいですよ。これくらいのサイズなら持ちやすいですし。」
「ありがとう。腰回りに吊り下げるところあるから、そこにつけておいて頂戴。あと5分くらいで着くから、少しゆっくりしていていいわ。」
そう言うと、瑞穂は高速の出口に向かう車線に車を入れた。
ふと、凪が外を見ると、今は知っている高速道路の柵の奥に巨大な橋脚が港湾施設の光に照らされていた。
(あれは何じゃ!?あの大きな構造物は初めて見るぞ!?)
視界を共有していた風花は自身の想像を超える大きさの橋脚に驚いた様子だった。
(あれは勢州湾岸道路の橋脚ですよ。なんでも橋の長さとしては日本最大だとか。)
(あれが今の時代の橋か!いや~、大きいの。さすがに木ではできておらぬと思うが、何でできておるんじゃろうな?)
(鉄筋とかコンクリートとかじゃないですか?詳しくはないですけれど。)
(コンクリート?なんじゃそれは。)
(砂利とかをセメントで固めたものですが…三和土みたいなものと言ってわかりますか?)
(ああ、三和土か。昔住んでいた場所の近くで三和土を使う作業があったときにな、固まる前にちょっと跡を残すという遊びをしておったな。)
(風花さん、昔からいたずら好きだったんですね。)
(おお!よく分かったな。今でもいろいろとは考えてはいるのじゃが…おっと、ここからは秘密じゃ。)
(え?何してるんです?変なこと…「凪君、風花ちゃん!もうすぐ着くわよ。降りれるように準備して!」「あ、はい!」
脳内で風花と会話していた会話していた凪だったが、気が付くとすでに車は高速から下道に降りていた。
「目的地に到着したら、通信術式を頭巾に施すからそれが終わったら出てもらうわ。その後はこっちで指定する場所で『妖魔』の上陸まで待機しておいて?」
「はい。ところで、このあたりの地図ありますか?移動の時に必要だと思うんですが…」
「ああ、そうね。車を止めたらスマホに送っておくから、確認して頂戴。スマホはその服の内ポケットに入れておけばいいわ。で、え~っと。ここが指定された指揮所ね。確かに通信に問題はなさそうな場所ね…。さあ、凪君降りて!さっさと作業しちゃうわよ。」
瑞穂は車を止めると、凪と風花に後者を促してから、自らも車を降りた。
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瑞穂は手早く通信術式を頭巾に仕込むと、車に積んであったパソコンを操作して、地図データを凪のスマホに送った。
「はい、完了。これで作戦に支障はないと思うわ。で、術式仕込んでるときに説明した、今回の通信術式の注意点は覚えてるかしら?」
「あ、ありがとうございます。それで、注意点ですか?ええっと…『水中では遅延がひどくて使えない』『瑞穂さんとの1対1通信だから、お母さんの版図は直接会話ができないこと』『フードが破損すると術式が役に立たなくなる可能性が出てくること』でしたっけ?」
「あと、『通信範囲が約2km』というのも覚えておいて。今回はいいと思うけど、戦闘中に離れてしまうと通じなくなる可能性が出てしまうから。」
その瞬間、車内の機材がピコンと電子音を鳴らすと、助手席に置かれたパソコンの画面には『妖魔』の予測進路図が表示されていた。
「あっ、来たわね。ええと…ほぼほぼ予想通りのルートね。上陸までは10分程度…っと。じゃあ、凪君と風花ちゃんは今転送したデータを見て、上陸地点で待機。ここから1.2km地点だから通信も大丈夫よ。忘れ物はない?武器持った?行ってらっしゃい!元気に帰っておいで!」
「はい!大丈夫です!行ってきます!」(準備万端じゃ!行ってくるのじゃ!)
凪と脳内の風花はこう勢いよく答えると、指定されたポイントに向かって一直線に走り出した。
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