第4章 (6)
それから5日間、凪と風花は各所にある人ならざる者のコミュニティのあいさつ回りを行っていった。
「あら~!わざわざ『栄町』からいらしていただいたの~!どうです?うちの娘とかいかがですか?」
「あ、いえ…今は仕事中ですので…」
「あら~!もしかして隣の狐の方と…あらあら~!陽さんの息子さんも風上に置けないですね~!」
「そ、そういう関係ではなく…」
娘を紹介されそうになった上に風花との関係を勘違いされたり。
「ここをこうすると…電話が掛けられるんだよ。」
「おお!教えてくれてありがとう!これで連絡ができるようになったぞ!」
「ははは。あの狐の方ってもしかしてしばらく山にこもってたりしたんですか?」
「そ、そうですね。それなりに長い間こもっていたらしいので。」
「ほう!こうするとひらがなが打てるのじゃな?」
風花が現地の子供にスマホの使い方を教えてもらっていたり。
「おう!瑞穂さんところから来たのか!瑞穂さんは元気でやってるか!?昔上水道を引こうと思ったときにいろいろと働きかけてくれてなぁ?あの仕事と書類の量は俺たちだったら間違いなくパンクしてお役所を襲撃してたよ!」
「はは、そうですか…。」
「本当に感謝してるよ!ほら、酒でも飲んでいかないか?ちょっと前にいい酒をちょっともらってな!『ナントカキドクシュ』とかそういう名前の奴。」
「え?それってもしかして…凪よ!妾は飲むぞ!」
「いや!お嬢ちゃんはダメだろ…。青服さんに見つかったら怒られちゃうぞ。」
「そうですよ…間違いなくお母さんと瑞穂さんに怒られますよ。あ、僕は車の運転がありますので…」
「そうだな!瑞穂さんが怒ると怖いぞお!うちの弟が粗相して瑞穂さんを怒らせたときは…ここで話すことではなかったな。じゃあ、瑞穂さんによろしくな。」
「お酒…お酒…妾は年齢的には…」
見た目のせいでどこかで聞いたことのあるお酒が飲めなかったり。
「お兄ちゃん、、お姉ちゃんいらっしゃい!今から村長さんのところに「いや、あなたが村長ですよね?この男はともかく私の目は騙されませんよ?」ばれてたか~。」
「え?この子が!?」
「ちぇ~。陽さんみたいに騙されたフリとかするよりかは直接言ってくれたからまだいいけど~。陽さんの時は逆にこっちが騙されてあんなことに…。ああ、どうしてあの人はあんなにチンチロが強かったんだ…?」
騙されそうになりつつ陽の意外な特技を知ったりした。
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「じゃあ、局長さんと瑞穂さんに私たちは元気だとお伝えください。もうだいぶ暗くなっているのでお帰りの際はお気をつけて下さい。このあたりの山道は本当に真っ暗になりますから。」
「こちらこそ、お忙しい中ありがとうございます。ご忠告のとおり、十分注意して運転いたします。」
「ありがとうございました。何かありましたら『特生対』の方にいつでもご連絡ください。」
凪と風花はその日最後のコミュニティを後にして、街灯も何もない山道に車を走らせていた。
「6日間いろいろと周ってみて思ったのじゃが、本当に陽と瑞穂は人ならざるものと真摯に向き合っておるのじゃな。どこへ行っても悪い話は一切出ぬ。まあ、多少はお世辞も入ってはいるのじゃろうが、それでもあそこまでいい顔をしながら話をされるのがそれを証明しておる。」
「そうですね。お母さんと瑞穂さんは本当に向き合っているんですね。僕も襟を正してこの仕事を頑張ってみようと思いました。」
「そうじゃな。おぬしも口下手が多少は治ったようじゃしの。まだ少しまごついておる部分はあるが、問題になるほどではなかろう。頑張ったの。帰ったら頭でも撫でてやろうか?」
風花のその提案に凪は一瞬喜びを見せるも、すぐに顔を赤らめた。
「い、いえ。さすがにそれは遠慮しておきます。」
「なんじゃ。恥ずかしがっておるのか?まあ、おぬしも半人前とはいえ男じゃしの。おぬしの自尊心を傷つけるのは本意ではないからの。話は変わるが、明日から夜に待機しなければいけないんじゃったか?」
「お母さんはそう言ってましたね。だから、あいさつ回りも名護屋市内の近場だけで午後からになりますから移動は楽になりますよ。」
「この車は快適ではあるのじゃが、やはりずっと座っていると肩や腰がこるからの。短くなるのは…おっと。」
その瞬間、凪の携帯に着信が入った。その画面には陽の名前が表示されていた。電話の操作方法を一通り教えてもらっていた風花は凪の代わりに電話を受けた。
「代わりに出るぞ。はい、もしもし。お、陽か。どうし…ふん。ふんふん。なるほど。ちょっと待て?凪よ!あとどのくらいで本部に戻れる?」
陽からの電話の内容を聞いた風花は少し急かすように凪に問いかけた。
「え?ここからインターまであと20分くらいで…そこから1時間ちょっとだから…あと1時間40分くらいですかね?」
「あと1時間40分じゃそうだ。ああ。わかった。伝えておく。では。」
風花は手短にそう伝えると、すぐに電話を切った。
「何かあったんですか?結構急ぎの要件みたいでしたけど…」
「最初の日に海月が長老をやってるの集落に言ったじゃろ?」
「クラゲ…ああ。海野さんのことですね。どうかされたんですか?」
「どうやら、『特生対』の本部に急に電話がかかってきて、『名護屋港が危ない』とか言っておったそうな。細かい説明は直接した方がよいということで急いであちらも向かっているらしい。」
「『妖魔』関連ですかね?」
「おそらくな。とりあえず妾も少し調べてみるぞ。電話は少し貸してもらうぞ。」
「別にいいですけど…ここ電波大丈夫ですか?」
「あろ?いつもの練習の時と違ってなんか白い画面が表示されておるぞ?」
「多分この辺りは電波が届くか微妙な場所なんでしょうね。もうちょっと市街地に近づいたらつながると思いますよ。」
「あ~。そういえばそうじゃったな。そんなことを悠の奴が何か言っておったな。ならば妾は少し仮眠をとることにする。そうすれば、今日融合することになっても妾は眠くないからの。一応電波が安定するところになったら起こしてくれ。」
風花はそれだけ言うと、風花は目を閉じ、体をドアに預けるように傾けた。
「ああ!風花さんが寝ると…ってあれ?うるさくない…。」
これまでのように大きな寝息を覚悟した凪であったが、その予想に反して風花は注意深く聞かないと聞こえない程度の寝息しか立てていなかった。
「あれ?何で静かなんだ…?まあ、静かならいいか。とりあえず、できるだけ急いで帰らないと。」
そのことを一瞬疑問に思った凪だったが、急いだほうがよさそうであるという現状を思い出したため。それ以上は考えずに車を走らせていった。
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