第4章 (3)
陽の執務室に連れてこられた凪と風花は自身の仕事について陽からの説明を受けていた。
「まあ、こんな感じね。まとめると、凪君と風花様の仕事は『人ならざる者関係の折衝』と『名護屋市内に侵入した『妖魔』への対処』の2つ。とは言っても最近はみんな平和だから折衝することもあんまりないし、『妖魔』が侵入することも少ないから実際に働く時間はあんまりないと思うわ。でも、夜は待機してもらわないといけないから生活リズムがおかしなことになっちゃうけど…ごめんね。」
「夜は美容に悪いからちゃんと寝たいんじゃが…まあ、『妖魔』は日が沈んだ後、少なくとも薄暗くならねばその辺りの小動物程度しか力が出ないから仕方がないの。」
「まあ、僕は結構夜型だから問題はないけど…でも何で夜じゃないといけないんですか?」
「日の光は空気中の『霊力』の使用に大きな制限をかけるのじゃ。大量に使おうとすればするほど…な。細々と使う分にはそう変わらないがな。」
「太陽ってすごいんだね…。」
「そうよ。日の光が届いている限りは昼間に『妖魔』は活動できない。この前提があるからこそ我々は人知れず活動できるのよ。夜の闇は活動を隠すのにはぴったりだから。」
「ちなみにおぬしとの融合にかかる『霊力』は全部妾の体内から引っ張ってきておるから二中でも問題はないのじゃ。」
風花はそう言い終わると、渾身のドヤ顔を凪と陽に披露した。
「で、話を戻しますけど、さっき言った理由から仕事としては夜間の待機がメインになります。待機中はこの施設内にいてくれるなら何をしていただいても構いません。この前いろいろ測定させてもらった多目的室で運動しててもいいし、仮眠室で寝ててもいいです。お休みは週2。で、お給料がこれくらい…。」
そこで陽が見せてきた数字は凪の予想の倍近いものであった。そのことに凪は驚きの声を上げた。
「え?結構あるね…。大卒初任給と比較しても結構…。」
「手当とかいろいろ付くからよ。もちろん、税金とかあるから無駄遣いはしないこと。風花様もお金は計画的な使用をお願いしますね。」
「当たり前じゃ!妾はその辺りしっかり考えて使える狐じゃ。」
「なら問題ないですね。じゃあ、今週と来週は2人で『人ならざる者』のコミュニティに行って顔合わせしてきてください。何かあったときのために名前くらいは知ってもらっておかないといけないですから。」
「のう、その中に狐系の…こ、こむにて?はあるのか?」
「こむにて?ああ、コミュニティがそう聞こえたんですね。共同体とか集団っていう意味ですね。で、ご質問ですが…狐系のコミュニティはこの辺りにはないですね。狐が多いのは京都とか北海道の方で、この辺りはなんて言うんでしょう…水棲系とか不定形とかが多い印象がありますね。」
その答えに風花はほっと胸をなでおろした。
「ああ、それはよかった。同族に合ってもいいことはないからの。」
「じゃあ、凪君、このリストに先方の情報がいろいろ書いてあるから風花様を連れて回ってきて頂戴。車は私の隣に泊まってる赤色の物を使ってね。鍵もこのクリアファイルに入ってるわ。あと、機密の観点から『特生対』からじゃなくて『栄町の方』からって言ってね。」
そう言うと、陽は凪に数枚の書類と車のカギが入ったクリアファイルを渡した。
「じゃあ、行ってらっしゃい。今週は夜の待機ないから今日の分終わったら車を元の場所に戻して帰っていいわよ。」
「よし、凪!行くぞ。仕事はささっと終わらせるに限るぞ!ほら!行くぞ!」
風花は同族がいないことに安心したのか、少し興奮した様子で凪を引っ張った。
「どうしてそんなにテンションが高…腕痛いです!あんまり引っ張らないでください!あ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。晩御飯は肉じゃがよ。」
風花に引っ張られて凪が部屋を出ていくのを陽は笑顔で見送ると、手元のパソコンに目を落とした。そして、とあるファイルを開き、目に入ってきた文字を読むと大きくため息をついてからぼそりと呟いた。
「はぁ…。あの女狐は一体どこから嗅ぎつけてきたのやら。うちの子の邪魔はさせないわ。」
と。
====
『特生対』本部を出発して1時間後。凪と風花は最初の目的地である名護屋市郊外のとある集合住宅に到着した。
「ええと、ここですね…。ふぅ…。何とか到着しましたね。」
「全く、おぬしの運転には冷や冷やさせられたわ。何回『これ死んだわ…』と思ったことか。」
「運転は免許取って以来でしたから…。すいません。」
「妾が何回『右から来ておる!』とか『ここで右に曲がるのじゃ!』とかを言ったか。おぬし…もうちょっと練習せい。」
「はい…反省しております。」
「まあ、次の運転に生かせるなら妾はこれ以上は何も言わぬ。さて、時間も押しとるしそろそろ行かぬか?」
「あ、そうですね。行きましょう。え~と、C棟の412号室は…っと。」
集合住宅の案内板から、リストに書かれた目的地はすぐに見つかった。
「ここですね。すいませ~ん。栄町の方から来ました。」
チャイムを鳴らしながら部屋の中に向かって呼びかけると、すぐにドアが開いた。そこには30歳くらいの若い男が経っていた。
「あ、『栄町』からいらしたんですね。どうぞ、お入りください。」
「「失礼いたします…。」」
そう返すと、凪と風花はその部屋の中へと入っていった。
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5分後。
「本日はご足労いただきありがとうございました。いつも『栄町』の方にはお世話になってまして…局長さんにもよろしくお伝えください。こっち側のお嬢さんがいるなら今後さらに安心できます。」
「いえいえ、我々はそのための仕事ですから。はい、ではまた何かありましたらよろしくお願いします。」
「皆様が今後も快適に暮らせるように努力してまいります。本日はありがとうございました。」
最低限の顔合わせとあいさつの終わった風花と凪は最後に挨拶をすると、部屋を後にした。
車に戻ると、凪が先ほどから疑問に思っていたことを風花に尋ねた。
「風花さんってちゃんとした言葉喋れるんですね。いつもの感じ…エグゥ!」
最後まで言わせないと圧をかけるかのように風花のこぶしが凪の腹部に突き刺さった。
「妾もそれくらいの礼節は備えておるわ!逆におぬしは緊張しすぎで結局後半はほとんど妾が喋っとったではないか!おぬしよくそれで一回就職決まったな!」
「し、就職の時はなんかうまくいったんですよ…。今回は初めての仕事だと思って気負いすぎてしまって…。」
「全く…次からはしっかりせいよ?落ち着けばおぬしはできるんじゃから。まず落ち着け。話はそこからじゃ。まあ、いったん気を取り直せ。次のところに行くぞ。」
凪が反省しており、問題点も把握していることを理解した風花はそれ以上叱ることをやめ、次の行動を促した。
「はい、わかりました。ええっと、あ!でもそれなりに時間ありますね。もう、正午になりますし一回ご飯にしましょうか。」
「そうか。おぬしに任せるぞ。妾は苦手なものとかはあまりないのでな。」
「じゃあ、近くのファミレスにでも入りますか…。」
そう言うと、凪は近くのファミリーレストランへと車を走らせた。
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