第3章 (4)

凪、悠、風花の3人がショッピングモールの駐車場に行くと、そこにはすでに陽の車が止まっていた。乗っていた陽は凪たち3人を見つけると、車を降りて出迎えた。

「お買い物お疲れ様。電車で来たって聞いたけど大丈夫だった?」

「風花さんが通過する特急に驚いて狐に戻ったときはどうしようかと思ったけど誰も見ていなかったのとすぐにもう一回人間に化けてくれたおかげで何とかなったよ。」

「あんな大きな四角い鉄の塊があんなに速く動くとは思っても見なかったぞ。いやはや、妾の寝ている間にあんなものができていたとは思ってもいなかったぞ。」

「電車の中でもね、風花さん窓にかぶりついて外見てたんだけどね、特急列車とすれ違ったときの音にびっくりしてそのままひっくりか…ウグゥ!」

凪が最後まで言い切る前に、風花のこぶしが凪の腹部に突き刺さり、凪はその場にうずくまってしまった。


「その話は恥ずかしいからするなといったじゃろう!」

流石に心配になったのか陽は心配そうにうずくまった凪に駆け寄った。

一方、悠はトランクに荷物を入れながらその様子を見て、呆れたようにこう言った。

「お兄ちゃんったら…もう、うずくまってないで早くトランクに荷物積むの手伝って。」

「ウゲェ…。これ内臓破裂とかしてないよね…。すごい…痛いんだけど…。」

「大丈夫じゃ。痛みを感じる神経の感度を上げる術式を追加したからそうなっているだけで内臓にはほとんど影響しない強さのはずじゃぞ。」

その言葉に陽は安心したようで、ほっと息を漏らした。

「流石に内臓破裂なんてしたら『特生対』の設備でも救命できるか怪しかったから安心したわ。ほら、凪君は痛いの落ち着いたら車に乗っちゃって。悠ちゃんはこの後大学だっけ?」

陽は、荷物を積み終えた悠にそう尋ねた。

「そうだよ~。この前の代講が今日の午後に入っちゃったから行かないといけなくなっちゃったんだよねぇ…。そうじゃなければ“この後”もついていくのに…。」

「まあ、“この後”は私と瑞穂さんに任せて大学行ってらっしゃい。単位ちゃんと取らないとね…。」

その言葉に悠は少しばつの悪そうな顔をした。

「あはは、今学期は大丈夫だよ。去年はまあ・・・ちょっとやばかったけど。」

「そう、私は悠ちゃんのこと信頼してるから何も言わないけど…頑張ってね。」

「はーい。じゃあ、お兄ちゃん。時間分かったら連絡するから間に合いそうなら迎えに来てね~。いってきま~す。」

そう言うと、悠は近くの地下鉄の駅に向かって歩き出した。


悠を見送った陽は痛みが和らいできた凪とまだ少し怒っている様子の風花を車に乗せた。

「じゃあ、凪君、風花様。行きますか。途中で瑞穂さん拾うからちょっと待っててね。」

「え?家に帰るんじゃないの?『特生対』に行くの?」

「あれ?悠ちゃんから何も聞いてないの?今日は風花様の服と“融合しているときの凪君の服”を買いに行くって。」

「え!?そんなこと聞いてないよ!?風花さんもそうでしょ!?」

「おろ?妾は電車の中でそのようなことを言っておったのを聞いたぞ?おぬしも一応返事していたと思うのじゃが…。」

「え?そんな…。」

「ほら、電車に乗ったすぐ後に…。」

「電車に乗ったすぐ後…?」

凪は困惑しながらも電車の中での会話を順番に思い出していった。


====

『今日はかわいい服を買いに行くよ!』

『どんなのがあるんじゃ?この前みたいな背中が思いっきり空いている奴か?』

『それだけじゃないよ~。パジャマにちょっとおしゃれな余所行きに…秋物はさすがにちょっと早いかなぁ…?ほら、この雑誌見てみて?』

『ほぉ。ほぉほぉほぉ。いろんな洋服が並んでおるのう。』

『そうでしょそうでしょ。かわいいやつとかボーイッシュとかマニッシュとかいろいろと着せてみたいし…。お兄ちゃんも見ておいたら?いい勉強になると思うよ?。』

『え?僕はいいよ。別に服にはそこまで興味ないし。』

『もう、いろいろと知っておいた方が今後いいと思うけどね…?まあ、お兄ちゃんのことだから知ったところでセンス微妙な気はするけど。まあいいや、お兄ちゃんは置いておいて風花ちゃん?』

『おお!景色がすごい勢いで動いておるぞ!』

………

====

「え?どこにその要素が…?」

「女児向けの服が乗っておる本をおぬしに見せて『勉強しろ』とは言わないじゃろ。」

「そこ!?もっとストレートに言ってよ!」

「妾に言われてもなぁ…。ところで、陽よ。瑞穂はどこにいるんじゃ?結構時間かかるのか?」

「いえ、すぐですよ?名護屋駅でちょっと偉い人のお見送りをしてもらってるだけなので、15分くらいで着きますかね。道が混んでいたらもう少しかかるかもしれないですけれど。」

「まあ、それくらいならばよかろう。妾は少し疲れたから瑞穂を回収するまで少し寝るぞ。」

そう言うと、風花は目を閉じた。どうやら、本当に眠ってしまったようだ。

「凪君、後部座席のポケットにファッション雑誌入れておいたから目を通しておくといいわ。何もわからないのに服だけあってもあまり意味はないだろうから勉強しておきなさい。」

「あ、うん。」

陽にそう言われ、凪はシートポケットに入っていた女児向けファッション雑誌を手に取り、読み始めた。


====

(へぇ~。女の子って色々と大変なんだなぁ。お化粧の仕方に髪の毛のお手入れ…多分まだ10歳くらいなのにこんなことしてるんだ…)

凪が雑誌の内容に感心していると、車が少し揺れ、隣で寝ていた風花が凪の方に頭を預けるようにもたれかかってきた。

(ぐっすり寝てるみたいだ…。あれだけ着せ替え人形みたいににされてからテンション高めに甘いもの食べてたらそりゃ眠くなるよなぁ…)


凪がそう思いながら髪の毛をなでていると、ふと風花が寝言を小声で言っていることに気が付いた。

「う~、お母様…どうして…?」

(お母さんの夢を見ているのかな?そういえば風花さんの家族について聞いたことがなかったなぁ。お母さんは何か知っているようだったけど…聞いては見たいけど、流石に気軽には聞けないからなぁ…)

「凪君、どう?なんとなくイメージできた?」

このように凪が物思いにふけっていると、いつの間にか瑞穂との待ち合わせ場所に着いたようで、先ほどまで運転していた陽が話しかけてきた。

「え?あ、うん。なんとなくは…」

「そう。まあ、わたしはあんまりそっちには詳しくないから何も言えないけど瑞穂さんはそういうの好き見たいだからいろいろと参考になるんじゃないかしら?今から行くのも瑞穂さんに提案されたお店だし。さっき連絡が来て、もうすぐ瑞穂さん来るみたいだからちょっと目印代わりに車の前で立ってて頂戴。」

「は~い。」

陽のお願いに凪はそう返事をすると、凪は車を降りて瑞穂の到着を待った。

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