第3章 (3)
有栖と別れた3人はショッピングモールのスイーツバイキングを楽しんでいた。主に風花と悠が、ではあったが。
「こんなもの食べたことないの!このとろける奴はなんじゃ!」
「それはフォンダンショコラだよ。ここのお店は中のトロトロなチョコレートソースと外身の生地がマリアージュを起こして最高なんだよ!名護屋市で1番、いや日本で1番なんだよ!」
「これはなんじゃ!?イチゴが乗っておるのはわかるがこの白いのは…うお!甘い!」
「ここはいいところの卵と小麦を使ってるからケーキも絶品なんだよ!このショートケーキとかシンプルながらもその辺の高級店よりもおいしいんだよ!」
風花は初めて食べるスイーツに逐一驚き、さらに悠は食レポのようにしゃべり倒していたため、凪は周囲の客に申し訳なさを感じていた。
「ほら、風花さん、悠。あんまり大きな声出すと周りの人に迷惑じゃない?」
「いや、周りに人いないから大丈夫だって。それにこれくらいは大声じゃないよ?女子高生なんかみんな大声でしゃべってるからこれくらいじゃあかき消されちゃうよ?」
凪は小声で2人をたしなめようとしたが、あっけなく反論されてしまい何も言葉を返せなかった。
「次はこの“ちょこけーき”が食べたいぞ!」
「いいよ~。ついでにこっちのタルトも食べようか。お兄ちゃんもいる?」
「ちょっと甘いものはもういいかな…。ちょっとドリンクバーでお茶とってくる。」
そもそも甘いものがそんなに食べられないことを思い出した凪はハイテンションな2人から逃げるためにドリンクバーへと向かった。
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ドリンクバーに着いた凪はコップを取りながら大きくため息をついた。
「はぁ…。甘くないものがアイスティーとコーヒーしかない…。どっちももう飲んだし…」
明らかに浮かない様子で仕方なくアイスティーをコップに注ごうとした時だった。
「あぁ!悠ちゃんのぉ、お兄さぁん。有栖ですぅ。こんなところで会うなんて奇遇ですねぇ。」
凪は先程別れたはずの有栖に話しかけられた。
「え、あ!お疲れ様です。」
突然有栖が現れたことに凪は動揺を隠せなかった。
「そんなぁ、あたかも幽霊を見た?って感じでぇ、言わなくてもいいんですよぉ?」
「い、いや、急に話しかけられてちょっとびっくりしちゃいまして…アハハ。」
「あらぁ、お兄さんって意外にぃ、奥手なんですねぇ。そんなぁ奥手なお兄さんにお願いがぁあるんですけどぉ。一緒にあっちでお話ししませぇん?」
有栖の突然のこの誘いに凪はさらに困惑を深めていった。
「……え?あ!悠を連れてってことですね!?じゃあ今から呼ん…「お兄さんだけぇと、話したぁいなぁ…ってぇ。」
「え?何で?え?」
さらに混迷を極めた凪はついに語彙力まで消失しかけた。
「そもそも、僕は有栖さんのことをよく知りませんよ?初対面ですよ?」
「だからですよぉ?私はぁ、お兄さんのことをもっと知りたいなぁ…って。思いましてぇ。いかがですかぁ?」
そう言いながら、有栖は凪の右腕に自信の左手を絡めさせた。
「え、ちょ…ちょっと、突然どうし「行きましょぉ?悠ちゃんと風花ちゃんはさっき大量のケーキを持って行くのを見ましたからしばらくいなくても気づかれないですしぃ…だめですかぁ?」
さらに、凪の耳元で囁くように言葉を紡ぐ有栖に凪はもう抵抗することができなかった。
「わ、わかりました…。いいですよ。」
「わぁ!お兄さぁん来てくれるぅんですねぇ?私うれしいです!」
「ちょっと!ほんのちょっとですからね!」
「いいですよぉ。ほな、じゃあ行きましょうかぁ?こっちですよぉ?」
有栖は凪の腕をつかむとそのまま自身の席へと連れて行った。
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凪が有栖の席に連れてこられてから10分、最初はガッチガチに緊張していた凪だったが有栖が聞き上手であったことや凪にとっては久しぶりの家族以外の話し相手となったこともあり、今やすっかり2人は打ち解けた様子だった。
「へぇ~。さすがにそれはぁ、運が悪すぎでしたねぇ…。ご愁傷さまです。」
「まぁ、とりあえずお母さんの紹介で最近何とか就職はできたからまあ…とりあえずニートは脱したんだけどね…。」
「それはよかったですねぇ。ニートとなるとぉ、やっぱりちょっと世間体がぁ…悠ちゃんも今年に入ってからお兄さんの話が減りましたからねぇ。」
「え?悠が僕の話をしていたんですか?」
「えぇ。それなりの頻度でぇ、『お兄ちゃんが玄関の段差で思いっきりすっころんだ』とか『アイスを買ってきてくれたけど色しか見てないからバニラとココナッツを間違えて買ってきた』みたいな話はよぉくしてましたよ?なんやかんや仲がよろしぃんだなぁとずっと思ってたんでぇ、急に喋らなくなったときはぁ、ちょっと心配してたんですよぉ。」
「そうなんだ…悠がそんなことを…。」
「えぇ。それはもう楽しそうにぃ、お話ししてくれましたよぉ?」
「あんまり楽しい内容じゃない気もするけど…。」
「まあ、エピソードだけで見たらぁそう思いますけどぉ、やっぱり兄妹だからぁじゃないですかねぇ?」
「そういうものなのかなぁ?」
「そうですよ。なんだかんだ言ってぇ悠ちゃんはお兄さんのぉこと大好きですからぁ。今は風花ちゃんにお熱みたいですけどぉ…。そういえばぁ、『今日は風花ちゃんのお買い物で来た』ってぇ言ってましたけどぉ、そんなに買わないといけなかったんですぅ?」
「僕もあんなにはいらないとは思うんだけど悠が風花さんを着せ替え人形みたいにしていろいろ着せてたから結局全部買いたくなったんじゃないかな?」
「ふぅ~ん。まあ、悠ちゃんって猪突猛進というか顧みずというかぁ、そんなところがありますぅ、からねぇ。」
「大学でもそうなんですね…悠が何か迷惑をかけていたりしません?」
「全然そんなことはないですよぉ?やっぱり見ていてぇ、飽きないなぁとは思ってますけどぉねぇ。例えばぁ、『好きな人への誕じ』…「あ、お兄ちゃんと…有栖ちゃん!?何で一緒にいるの!?というか有栖ちゃんはもう帰ったんじゃないの!?」
「う、うわ!悠!ケーキ食べてたんじゃないの!?」
有栖との話に集中していた凪は後ろから近付いていた悠に気づけなかったため、驚きの声を上げた一方、有栖に動揺などは見られなかった。
「いやぁ、用事が思いのほかぁ早く終わっちゃってねぇ?で、ここで時間つぶそうと思ったらたまたまお兄さんと会っちゃってねぇ?」
「な~んだ。それなら私も誘ってほしかったなぁ。」
「悠ちゃんはぁ、大量のケーキとタルトを風花ちゃぁんとハイテンションに食べていたのでぇ…ちょ~っと話しかけづらくてぇ。」
「え?そんな事気にしなくてよかったのに。有栖ちゃんならいつでもウェルカムだよ!!」
「あとぉ、一回お兄さんとじっくり話してみたくてぇ…悠ちゃんがよく話題に出す『お兄ちゃん』ってどんな人なのかなぁ…って思ってぇ。」
有栖がこう言った瞬間、悠は一瞬顔を赤らめるとそれを振り払うようにこう言った。
「え、そ、そんなことお兄ちゃんの前で言わなくていいの!ほら、お兄ちゃん行くよ!お母さんから連絡来て、もうすぐこっちに来るから!荷物運ぶよ!」
「あ、うん。分かった。有栖さん、今後も悠と仲良くしてやって下さい。」
「そんな事ぉ言わなくても悠ちゃんは大事な親友ですのでぇ。じゃあ、また会いましょ?お兄さん。あ、あの子…風花ちゃんにもぉ…よろしくってお伝えください。」
そう言うと、有栖はその場を去っていった。そして、凪は悠に引っ張られるように陽の車へと引き摺られていった。
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