第3章 (1)
『妖魔』との初戦から2日後、初の実戦ということで非常に細かく行われた検査もすべて終わり、凪はようやく自宅へと帰ることができた。
「あ~!2日ぶりの家だ~!まだ午前中だけどとりあえずお風呂に入りたい!」
「そうじゃのう…ここ2日間はやれ筒に入れだの、血を取らせろだの、物がちゃんと見えるかだのばかりじゃったからなぁ。妾も少しはのびのびとしたいぞ。」
凪と風花は家に入るとすぐにリビングのソファに横になってくつろぎ始めた。すると、そこに悠がやってきた。
「あ、お兄ちゃんと風花ちゃん!お帰りなさい。今お風呂入れてるからあと10分くらいで入れるよ。ところで、そのまま入るの?」
「そのままってどういうことじゃ?さすがに服くらい脱ぐぞ?それくらいは妾も把握しておる。」
悠からの問いに風花は少しふくれっ面をしながら返した。
「いや、そうじゃなくて…いつまで融合してるのかな…って。」
「「あっ。」」
2人は融合しているのを完全に忘れていたようで、同時に間の抜けた声を出した。
「た、確かにすっかり忘れておったわ。『術式展開 全解除』。」
風花は顔を赤く染めながら凪との融合を解除した。心なしかいつもよりも赤い光の粒がその肉体から流れ出していき、凪の肉体を元に戻しながらその隣に風花の肉体を構築していった。
2人の肉体が完全に分離してからも、顔は赤く染まったままであった。そして、恥ずかしさをごまかすように風花は風呂場へと向かった。
====
風花が脱衣所に入ったときはまだ給湯器からのアナウンスは行われていなかったが、バスタブには人ひとり入れる程度のお湯はたまっていた。
「はぁ、3日間も融合しっぱなしじゃったからな。完全に馴染んでおったわ。慣れとは恐ろしいのぅ。」
風花は顔を赤らめながらそう呟いた。
「長らく封印されておったからか、我ながらだいぶ丸くなっておるのぅ。これならおと「ふ~う~か、ちゃん!一緒には~いろ!」
「うおぉあ!!急に入ってくるな!そして、妾の体に抱きつくでない!」
風花は着ていた服を脱ぎながらさらに呟いていた。すると、突然に悠が脱衣所に勢いよく入って風花に抱き着き、驚いた風花は素っ頓狂な大声を出してしまった。
「突然何なのじゃ一体!おぬしは別に入らんでもいいじゃろ!」
「え~、だってまだ風花ちゃんとゆっくり入ったことないし…それにいろいろと話したいこともあるし…」
「いやだから…それなら後でもいいじゃろ!?じゃから…「それに風花ちゃんのご家族の話とか?したいし。」」
風花は何とかして断ろうとしたが、悠の発した『家族』という単語を聞くと黙り込んでしまった。
数秒間の沈黙の後、風花は恐る恐る口を開いた。
「おぬし…何を知っておる?」
その口調からは悠の次の発言を警戒している様が見て取れた。
「そんなに警戒しなくても…。私はただ風花ちゃんについてはお母さんから説明されてないし…いろいろ知りたいたけだよ?」
それに対して悠は急に警戒しだしたことに驚きつつも、先ほどまでと同様に話を続けた。その様子を見た風花は安心したようにため息をついた。
「なんじゃ…、それだけか。まあ、衣食住のすべてで厄介になっておるのじゃ。一緒に入ってやってもかまわないぞ。」
最終的に、警戒を解いた風花は悠と一緒に入浴することにした。
「やったー!!風花ちゃんとおっ風呂~!初めっての、おっ風呂ぉ~!」
その返答がよほどうれしかったのか、悠は即興で作ったリズムに風花と一緒にお風呂に入れる喜びを表現した歌詞を乗せながら歌い始めた。
「一緒に~入れっるよ!マジっかよ!」
「あぁ。その歌?は何なのじゃ!変な歌を歌うでない!あ、ちょ、抱き着くなって言っておる!あ、コラ!妾を持ち上げるな!ああ!もう!離せぇ~!」
そして、悠は風花を抱きかかえるとそのままちょうど沸いたばかりの風呂場へと突進したのであった。
====
悠と風花が脱衣所で仲睦まじくしているころ、リビングでは凪が一人取り残されていた。
(この4日間はいろいろなことがあったなぁ…。急に仕事を手伝わされたかと思えば化け物に襲われて…。それで気づいたら耳としっぽの生えた女の子と融合してて…。それでお母さんの仕事先に就職して…。フリフリの多い服着させられそうになって…。『妖魔』と戦って…。何とか勝てたけど背中がすごいことになって…。悠に久しぶりに兄らしいことをして…。)
凪がソファの上でこの4日間の出来事を反芻していると、まだ父親に何も連絡を取っていないことを思い出した。
(お母さんの話だと『特生対』で一番偉いみたいだし、流石に知ってそうだけど…一応連絡しておくか。)
そう思い、カバンの中に入っている携帯電話に手を伸ばした瞬間、風呂場から悠が飛び出してきて、こう捲し立てた。
「お兄ちゃん!今から風花ちゃんの服買いに行くから!準備して!!」
こう言いたいことだけ言うと、風呂場から出てきた時の勢いのまま2階の自室へと全速力で戻っていった。
「え?何だったの…。買い物って言った…「凪ぃ~、妾はもうお嫁にはいけぬぅ…。どうしたらいいのじゃぁ…。」ふ、風花さん!?どうしたんですか!?」
そして、その後には、脱衣所にて半泣きで助けを求める風花とどうしてよいかわからず慌てふためく凪が残されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます