第29話「この子にどんな弱みを握られたんだ?」
「それで、行ったの?」
エマがほとんど無表情で質問してくるのは、昨日の出来事。
昨日と言うのは、アーヘンとデート(擬き)をした日だ。
そして、夜になって「ホテルでも行きますか?」と言ってきたことに対して、エマが「行ったのか?」と質問しているわけだ。
まぁもちろん。
「行くわけないじゃないですか!?」
俺にそんな根性ありません。
それに、そういうのは不純だと思う人なんで。
「この意気地なしが」
「俺は至って普通の反応をしたと思いますよ?」
「ダメね。まず、女の子の誘いを断ることがダメ」
「いやいや、いくら可愛い女の子のお願いでも、無理なものは無理なんですよ」
「ん? いま私、女の子 としか言ってないけど・・・なんで 可愛い が追加されたわけ?」
「え、いやそれは」
「あー! さてはアーヘンで発情したな!?」
「そんな大声で言わないでください。んなわけないじゃないですか!?」
「このケダモノ、性欲オバケ。私にはそんなこと思わないくせに」
「思うわけないでしょ!?」
「やっぱ胸か? 胸なんだな? 私は小さくて、アーヘンは豊かで程よい大きさだから良いんだな!?」
「違いますよ」
「秋斗は胸しか見てない変態だ!」
「ひどい言われようだ」
純度100パーセントの風評被害。
もしこんなやり取りを誰かに聞かれてたら・・・。
そう思った瞬間、ドア越しに人の気配を感じた。
冷静になって、ドアをそっと開けると・・・。
「ふぇっ!?」
案の定、そこにはアーヘンが・・・じゃないぞ 誰だこいつ。
「す、すみません。何も聞いてないです」
そう言う女の子、身長もアーヘンと同じぐらいだし、髪も色から長さまでアーヘンそっくりだ。
違いといえば、アーヘンみたいな堂々さはないと言ったところだろうか。
これってもしかして・・・姉妹!?
「あら、来ていたのね。入って良いわよ」
そうエマが言うと、ぺこりと頭を下げて、エマの机に持っていた書類を提出する。
「では、私はこれで」
渡すものも渡したので、退室しようと歩を進めた瞬間。
「聞いてたでしょ?」
エマのその一言で、彼女は硬直する。
「さすがに聞こえてたわよね?」
「き、聞いてないです。私、アーヘンさんに発情してるとか、聞いてないです」
そう言い、全力で走り去ろうとした・・・が、俺が足を引っ掛けたことにより、転んで、逃げるのを阻止。
「痛い・・・」
「すみません、お怪我ないですか?」
そう言い、手を差し出す。
俺が転ばせておいて図々しいとは思うが、せめてもの罪償いだ。
「いえ・・・えっと、エマ様の側近様ですよね」
「そうですね。桜沢秋斗と言います」
「秋斗様、お手をありがとうございます」
そう言うと、彼女の柔らかい手が俺の手に触れ、そのまま彼女がゆっくりと立ち上がる。
「秋斗、取り押さえるのよ」
「ふぇっ!?」
とりあえずエマの言われた通り、彼女の手首を後ろで拘束して取り押さえました。
「酷いですエマ様」
「仕方ないでしょ。私だって、可愛い娘(むすめ)をこんなことにはしたくないわ」
「はいちょっと待ったー」
「なによ、今良いとこじゃない」
「いやいや、そう言う問題じゃなくてさ。お前いま娘って言ったよな?」
「そうよ。私の可愛い娘よ?」
「それ、本気で言ってるのか?」
「え? そうよ?」
「・・・」
とりあえずお茶をすすりました。
「あのな、エマって確か19歳だったよな?」
「そうよ?」
「いつ産んだんだ?」
見たところ、この子はどう考えても子供には見えない。
25歳と言っていた、アーヘンと同じぐらいと伺える。
「あ、あの・・・勘違いしてます」
エマが口ごもりした瞬間、エマの子供(?)が割って入ってくる。
「えっと、何ですか?」
「私、養子としてエマ様が親になってくれてるんです」
「養子?」
「はい。身寄りがなく、貴族でもない私に対して、エマ様は手を差し伸べてくれたんです」
なるほど、養子だったのか。
んでも、貴族ではない・・・つまり、お金持ちではない。
「エマ、この子にどんな弱みを握られたんだ?」
「秋斗の中の私ってどんな感じなのよ!?」
「あ、あの・・・秋斗様」
「大丈夫です。必ずこの邪悪な悪魔(エマ)からあなたを救ってみせるから」
「いえ、そうじゃなくてですね」
「はい?」
「弱みとか、そういうのじゃありません。本当に、善意で引き取ってくれたんです」
「エマが? 信じられない」
「おい秋斗、貴様あとでお話な?」
「はぁ・・・わかった。信じるよ」
「あ、ありがとうございます」
なぜか、エマの子供(?)にお礼されました。
「そういえば、あなたの名前は?」
「あ、私ですね。私はパルマ・カリホルニウムです。17歳ですよ」
「同い年じゃないですか」
「あ、そうなんですか? 奇遇ですね」
まさか、こんな大人っぽい人が俺と同い年とは。
人は見かけじゃないって、本当なんだな。
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