地方行政のアセット

第20話「ごめん、誰だっけ」


「あぁーだるい」


「いやいや、大事な会議ですよ?」



重々しくも煌びやかな衣装に身を包み、会議室へ向かうエマさん。


だがその表情は、目も当てられないほどにたるんでいた。



「大体なんで私が出席しなきゃいけないのよ」


「あなたがいないと話が一切進まないからですよ」


「だるい。帰りたい」



そんなエマの願いも届かぬまま、通常通り会議がスタートする。


会議室には、国王のエマと、その隣に俺が座り、一段下がった真ん前に、俺たちに背中を向ける形で財務大臣のアーヘンがいる。そのまた下段には、お役所のお方と思われる人たちが数人座っている。


恐らく、エマとアーヘンに、プラスしてこの数人がこっちサイドの人間ということだろう。


そして、数メートル離れ、顔を向かいあわせる形で座るのが、前橋の領主貴族、ウルスラ・フランクフルトだ。


横には側近と思われるスーツ姿の男性もいる。



「秋斗、進行は任せた」


「え、俺!?」


「側近なんだから、当然でしょう?」


「あ、はい・・・えっと、とりあえず、ウルスラさんから」



進行の仕方なんてわかるはずがない。


とはいえ、この会議室にいる人間の中で、俺はエマの次に高い身分だ。


適当にやっても、まぁいっか。



「お久しぶりですね。国王様」


「ごめん、誰だっけ」


「ウルスラですよ!? 忘れないでください」


「ごめん・・・本気で思い出せない」


「前橋の領主です」


「白い髪に、女性の領主貴族か・・・あっ!」


「思い出しましたか?」


「胸が大きいクソビ○チだ!」



ひどい思い出しようだ。



「えぇ・・・」



ウルスラも軽くショックを受けているようだ。


まぁだが、胸が大きいのは否定しない。そして、スーツにメガネをかけているところもなかなかにポイントが高いですな。



「ゴホン。気を取り直して、今日は交付金に関しての議題になります。早速なんですけど・・・」



長かったので割愛。


要約すると、「もっと金よこせ」ということになった。



「えっと、うっすらだっけ?」


「ウルスラです」


「まぁなんでもいい。でもさぁ、お金なんてみんな欲しいに決まってるじゃん」


「そうですけど、このままじゃ財政破綻しちゃいますよ」


「んなこと言われてもねぇ」



前橋って、フランクフルト並みの都市と聞いていたが、行政はそんなに逼迫した状況なのだろうか。



「あの、具体的にはどのくらい赤字なんですか?」



エマだと話が平行線になるのは目に見えている。なので、ここは俺が首を突っ込んでみることにした。



「そうですね。歳出(出費)は年に2兆円弱です。具体的には、昨年度が1兆9877億円ですね。そして歳入(収入)ですが、年に1.5兆円。昨年度は1兆4980億円でした」


「つまり、年に5000億円程度が赤字になってるということか?」


「そうですね。足りない分は市債を発行して賄っています」



年間5000億円も膨れる市債か・・・。確かに、これは放っておけない案件だ。


「なぁエマ、市税ってどんなものがあるんだ?」


「それ私に聞くとか正気なの?」



そうだった、この人はIQがサボテン以下なんだった。



「アーヘンさーん」



財務大臣さんに助けてもらいました。


聞くところによると、市民税と固定資産税があるらしい。


逆に言えば、それだけということになる。


それだけで1.5兆円の歳入があるとか恐ろしいな。



「ですが、行政が運営する団体が利益を出した場合、それを行政資金として使うことができます」


「あー、そういうのあるんだ」


「私からは以上です」


「ありがと、アーヘンさん」


「いえ」



ちなみに国からの交付金は、国王の気分次第でたまーに出るらしい。


なんだよ気分次第って。



「俺は国王の側近という身ですけど、交付金に頼るより、何か新しい事業を始めるとか、新しい税目を設けるとかした方が良いと思いますよ」


「は、はい・・・とはいえ、簡単な話でもなくてですね」



ですよね。


結局会議は平行線に終わってしまった。


今日学んだことは、地方行政と政府で温度差があるということだ。


交流が少ないが故かもしれない。


とはいえ、どんなに政府がしっかりしていても、結局地域に密着できる地方行政との温度差があっては、お互いに不利益を生むことになりかねない。



「エマさんや」


「どうした。すっげぇ爺さん臭い話し方だけど」


「まぁあれだ。明日から地方交付税に関してのこと話し合うぞ」


「えぇ・・・面倒くさい」


「公務ですので、観念してください」

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