第18話「本音じゃなからね!?」


「ねぇ秋斗」


「なんですか?」



珍しくエマが公務をしているかと思えば、ものの数分で飽きたのか、俺に声をかけてきた。



「昨日、私変なこと言ってなかった?」


「あぁ・・・まぁ言ってないとは言えないよね」



昨日、というのは、エマの部屋で俺と二人でお酒を飲んだときのことを指す。


どうやら俺は酔いに強いらしく、素面のような立ち振る舞いができた。


だが、エマはそういうわけではないようで、今日の朝起きたときには、昨日の記憶が曖昧になっていたらしい。



「どんな感じのことを言ってたの?」


「うーん、なんか変な言葉を・・・」


「どんな感じに?」


「どんうぉーわーく・・・とか」


「英語かしら」


「英語ですね。英語ならなんとなく意味が理解できるんですけど、他は分からなくて」


「ということは、英語以外も口にしていたということかしら」


「そうですね」


「例えばどんなこと言っていたの?」


「あまりうまく真似はできないですけど、あっしゅんでぃすげぇあぁ、みたいな感じでしたね」


「あまりどころじゃないわね。発音のセンス無さすぎでしょ」


「ほっとけ」


「うーん・・・ん? そ、それもしかして、ech hunn dech gärじゃなかった?」


「あぁ、そんな感じ」


「そ、そう。ふーん・・・そうなんだ。私がそんなこと言ってたんだ」


「どうした?」



明らかに取り乱している様子だが、一体どんな意味なんだろう。



「わ、わかってるわね?」


「なにが?」


「本音じゃないからね!? 勘違いしないでよねっ!?」


「あ、うん。いや、俺にはさっぱりなんだが・・・どんな意味なんだ? 和訳してくれ」


「いやよ。自分でやりなさい」



わかるなら教えてくれたっていいじゃないか・・・と思ったが、まぁいい。ここは自分で調べてみますか。



「おっけーグー○ル、あっしゅんでぃすげぇあぁ」


「そんなんで認識しないでしょ」



案の定、俺のジャパニーズアクセントじゃ、グー○ル先生は理解してくれなかったみたいです。



「何だこのスマホ、使えねぇな」


「最新のスマホなんだけどねぇ」


「せめて何語かだけ、それだけ教えて」


「日本語じゃないわ」


「そんなのわかっとるわい」


「欧州諸国よ」


「先生、選択肢がありすぎて分からないです」


「これが現実です。受け入れなさい」



結局、どこの国の言葉なのかすら分かりませんでした。


エマの発音がネイティブに近いというなら、地中海付近の言葉ではない気がするけど・・・。


なにより、エマが取り乱したのが少し気になるが、まぁ気になって眠れないというほどでもないし、どうでもいいか。


どうせ一晩経てば、こんなこと気にならなくなるだろうし。

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