箸休めの日常(その1)

第13話「まぁいいんじゃない? 私の国なんだし」


「大変よ。利根川が氾濫したわ」



バーンと音を立ててドアを開けると、そこには慌てふためく国土省のメルンの姿があった。



「大変じゃないですか。んでも、利根川って、あの利根川?」


「そうね。ドイツで言うところのライン川よ」



エマがそう解説するが、普通にわっかんねぇよ。



「エマ様、それだと水源が他国ということになってしまします」


「そうか、ライン川はスイスが水源だったわね」


「ここはマイン川と呼ぶべきでしょうか」


「そうね!」



訳の分からん会話が済んだところで、本題に突入する。



「それで、氾濫って大変じゃないの?」


「あぁそれね。別に大丈夫よ」


「なして?」


「メルン、あとは頼んだ」



やはり他力本願なのか。



「えーっとですね。まぁあれですよ。大丈夫なんです」


「それで納得する人はいないと思うが」


「ヴェネツィアってご存知ですか?」


「イタリアの都市だっけか?」



水の都とか言われてるところだよな。


写真見れば「あぁ〜ここね」ってなるぐらいには有名な観光スポットだ。



「氾濫したところがあんな感じの都市なんで、ちょっと水浸しになる程度なんて、毎年のことですよ」



それはそれでどうなのかと思うが・・・。



「というか、そんなところあるんだな」


「ありますよ川原ってとこです」



群馬県にもそんな地名あったような・・・。


そう、川原温泉だ。八ッ場ダムの完成により沈んでしまった温泉街なんだけっか。何年か前にニュース番組で取り上げていたのを覚えている。


追記として言っておくと、その沈んでしまった温泉街は、移設して現在も現役とのこと。



「川原か・・・んでも、川原近くに利根川なんてあったのか?」



まぁここはカリホルニウム王国であって、群馬県ではないのだが、現実では川原温泉付近に利根川は流れていない。



「利根川・・・あっ、違いました。吾妻川でした」



やはり違っていたか。というか、なんでそれを国王であるエマが気づかないんだよ。



「ワターシナンノコトダカワカンナイ」


「まだ何も言ってませんけどね?」


「しまった!?」



呆れてため息しか出ない。



「でも、水の都か、いつか行ってみたいものだな」


「私は行ったことあるわよ」


「そうなんだ」


「もちろん税金でね」


「公私混同、ダメ、絶対」



まぁこの国 立憲君主制だし、違反ではないんだろうけどさ。



「んで、メルンは何しに来たの?」



気を取り直したかと思えば、エマがまた変なことを言い出す。



「え、吾妻川が氾濫したってことを言いに来たのでは・・・」


「あ、いえ・・・それは毎年のことですから、わざわざ報告なんてしにきませんよ」



それはそれでどうなのかと・・・。



「えっとですね。今回の鉄道建設事業に関して、ほとんどが私たち国土省が進行していますので、ここはひとつ、国土交通省に名前を変えたいと思いまして」



まぁ確かに、理由は知らんが、日本でも国土省ではなく、国土交通省という名称だな。



「その理由は?」



理由は言ってただろ、鉄道建設の進行が国土省だからだって・・・とツッコミたくなるが・・・。



「国土交通省の方がかっこいいからです!」


「採用!」



こっちの方がツッコミたくなる。



「そんなことで決めていいんですか?」


「まぁいいんじゃない? 私の国なんだし」



これだから、世の中の国々は革命が起きて、民主化していったんだろうな。

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