第3話「孤高の有識者」
「所得税、法人税、国民税・・・よくこれだけで国家運営出来てるな」
税金に関しての資料を見ながら、目の前にいる君主に向かって呟く。
「結構カツカツよ。だから道路を舗装するだけで精一杯なのよ」
カツカツということは、財政的には黒字という解釈で良いのだろうか。
どんな額を請求しているのかは知らんが、三種類の国税でだけでやっていけてるのは普通に関心できる。というかすごい。
「どんな良い政策が思いついても、予算が無ければ満足に実行も出来ないからな。ここは税の種類を増やすことをお勧めする」
「確かにそうね。どんなにモノが立派でも、女の子を満足させないと意味がないものね!」
「あのー、なんの話ですか」
ということで、急遽有識者会議をすることになった。
「というか、有識者って誰ですか?」
「うーん、私?」
「ここって王国ですよね、あなたが一人で何でも決められるんじゃないの?」
「あっ、そうじゃん。天才かよ秋斗くん」
普通にエマがバカなだけだと思う。
「それで、どんな税金を追加するのよ。場合によっては却下するわよ」
「ちなみに、その場合とは?」
「エロスなモノに課税すること」
「もう無視して良いよな?」
「すみません真面目に考えるから構ってあげて」
「はいはい、最初から真面目にして下さいね」
俺の裾を引っ張るエマの手を払いのけると、彼女はため息をしてから、自分の席に座り「それで、どんなのに課税するの?」と。さっきまでふざけていたのに、一瞬にして真面目な顔で話を始める。
初めて会った日から何となく感じていたが、この人はオンオフの切り替えがすごく上手な人だ。だからこそ、国のトップに立つことが出来るのだろう。
またふざけだすかもしれないし、ここはスイッチが入っているうちに話をまとめよう。
「まぁ色々課税出来るのは多いぞ、例えば酒、タバコに対しての課税。固定資産に対しての課税、他にも鉱産資源、印紙、自動車、貿易商品、付加価値、入湯、不動産収入、相続、贈与・・・」
「よくもまぁ、そんなに国民から搾取しようと思えるわね。心が汚れてるんじゃないの?」
人の三大欲求が性欲、金欲、独占欲とか言ってる奴にだけには、「心が汚れてる」なんて言われたくなかった。
「というか、エマはこの国をどんな国にしたいんだ?」
「どういうことよ」
「質問の仕方が悪かったな。じゃあ例えば、金持ちと貧乏、味方するならどっち?」
「そりゃ金持ちでしょ」
即答である。この人性根から腐りきってやがる。
「金持ちに味方するなら、消費税とかで良いんじゃない?」
「なにそれ」
「消費者が支払う税だな、君が好きなドイツだと、付加価値税みたいな呼ばれ方をしている。モノを買うときに課税される税だぜ」
手っ取り早い方法かつ、安定的に一定金額が歳入してくるので、案としてはなかなかに良いものだと思う。
それに、税率だけを見れば、皆に平等に課税されるので、貧乏人にはこの上ない負担になるだろう。
「それ、景気が落ち込みそうね」
この人が初めて政治家っぽい発言をしたぞ!?
最早そのことに感動である。
「まぁ増税とか税目を追加したりすれば、少なからず景気が落ち込むのは避けられないからな」
「行為をしたあと気まずくなるのと同じか」
だから何の話ですか。それに今のは微妙に分かりにくい。
「だけどその快感が忘れられなくて、何度も何度もやってしまう」
「もう俺が勝手に決めて良いか?」
俺がキレ気味でエマのことを睨み付けると、彼女もさすがに反省したのか。
「すみませんちゃんとやるんで怒らないで下さい」
そう言いつつ、机におでこがつくほど頭を下げて謝られた。
本当に反省しているとは思えんが、この人はこれでも君主様。
君主制の国で下手に君主様に逆らうと、いろんな意味で危なそうなのでここは目を瞑ることにしよう。
「というか、少し思ったことを言っていいかしら」
「なんですか?」
「何も税で資金集めをする必要はないんじゃないの?」
「と、言いますと?」
「分からないの? 稼げば良いのよ」
「うーん・・・」
「なんで難色顔なのよ。いいじゃない、資本主義的な考えで」
もちろんその考えも悪くはない。だが、そんなにうまくいくものだろうか。
国営事業をやる上で、重視しなければいけないのが『公共性』。税金を資本とする以上、それは避けては通れない道だ。
「ちなみにだが、どんな方法で稼ぐんだ?」
「・・・何が良いと思う?」
考えていないのか。てっきり何か案があるものだと・・・。
「どんなものが儲かると思う?」
「自分で考えてください」
「うーん・・・カジノとか?」
「なるほど、カジノの経営ですね」
「いや、そこでひと勝負」
真面目な顔をしていたので、少しはまともな回答を期待していたけど・・・。
「それただの賭博ですよね」
「でもでも、勝てば儲かるわよ?」
「それは勝てばの話です」
というか、この人ってカジノとかの賭け事やるのか?
まぁ国王様ということで、必然的にこの人は貴族のお金持ち、賭博やら何やらと豪遊していてもおかしくは無さそうだが・・・。
「ところで秋斗、カジノってどうやってやるの?」
あぁうん、もうこういうオチなんとなく予想できてた。
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