第2話「ロクな産業じゃないな」


昨日から一晩が経った。簡単に言えば翌日になった・・・いや、今日になった? まぁ細かいことは置いておくとして。



「あの、どこですかここ」



昨日とは違う部屋に案内された。


昨日は馬鹿でかい部屋だったのに対し、今日はそれに比べては小さい部屋。


綺麗な長方形の形をした部屋で、ドアから入って正面に、床から天井までガラス張りの大きな窓があり、それを背中に豪華な机と椅子が配置されている。



「ここは私のデスクワークよ」


「いや、それ使い方間違ってるから」


「あらそう、でも何となく伝わるでしょ?」


「伝わりません」


「もう、めんどくさい子ねぇ」



要約すると、国王もといエマが仕事をする場所ということだろう。


エマの言う通り、俺には何となく理解することが出来た。


でも、本来の使い方ではない・・・と、思う。うん、俺も自信なくなってきた、ダレカタスケテ。



「それで、俺は何をすれば良いんだ?」



昨日聞いた話によれば、俺は国王、つまりエマの側近という話だったが。



「まぁそうね。国の政策のヒントを出してくれればいいわよ」



何だそれ。



「国の政策って、それエマがやることじゃないの?」


「私バカだから」


「なら勉強して下さい」


「それは面倒」



駄目だこの国王。今すぐに退位させろ。


まぁそれは冗談として。



「そもそも、この国の仕組みが分からなのだが」



王国とは聞いたが、そもそも国王主権なのか?


ここまで文明が発達していると、どうしても国民主権というイメージが出てきてしまうが。



「あの、憲法って」


「あるわよ」



そう言って、数枚の紙が渡される。どうやら憲法の全文が印刷されたコピー用紙のようだ。



「主権者は・・・」



まず最初に探すのは、主権者が誰なのか。



「残念、国民主権ではなく国王主権でした。正確には立憲君主制だけどね」



俺が憲法から見つける前に、エマがドヤ顔で答えを言ってしまう。


まぁでも、俺からすれば憲法の中から探す手間もなくなり、エマからすればマウントが取れて満足そうなので、一石二鳥というやつだろう。うん、ムカつくけどもうそれでいい。



「立憲君主制か、この文明レベルで政治だけは昔のやり方なんだな」



現代で立憲君主制の国がないわけではない。だけど、主流でないことは確かだ。もしかしたら、この国が例外的なのかもしれないけど。


ちなみに立憲君主制とは、基本的に独裁国家だけど、例えその独裁者、つまり君主様であろうとも、憲法には逆らえない、というもの。逆に言えば、憲法に逆らっていなければ、好き放題できるわけだ。



「ちなみに、国民の自由はどのくらい認めてるんだ?」


「基本的に周りの民主主義国家と同じよ。ただ選挙権とかは無いけど」



だからこそ、ここまで経済が発展したのか。


今更だが、俺が立っているところから正面にある大きな窓、そこから外を見ると、ニューヨークもびっくりな超高層ビルが群がっている。


一概には言えないが、こういう光景は経済が発展している何よりの証拠だろう。



「んで、今問題になってることってなんだ?」


「そうね。やっぱり、主要都市同士の行き来が不便って声が多いことかしら」


「確か、前橋だっけ」



咲がいる場所だ。


ドイツで言うフランクフルトみたいな都市らしいが、それが本当なら、ベルリンと例えていた・・・いた? いたっけ? まぁいいや。とにかくこの高崎という都市と、モノやヒトの流れは著しいだろう。



「他にもあるわよ、伊勢崎に渋川に水上、あと桐生とか」



見事に群馬県の地名ですね。ここカリホルニウムとか覚えにくい国名やめて、群馬っていう国名でいいんじゃないか?



「それらの都市間移動をする場合、どんな手段があるんだ?」


「そうね、乗合バスが主流かしら」


「鉄道とか飛行機はないのか?」


「ないわよ。国道が一本通ってるだけだもの」


「なんだそりゃ」



貧弱にもほどがあるだろ。



「でもでも、この前骨材を結合剤とかその他諸々で固めた複合材料で舗装したんだよ!」


「コンクリートのことかな? というか、それまで未舗装だったのかよ」


「この工事するのにすごい費用かかったんだから」



知らんがな。とりあえず、この問題は後回しにしよう。話が馬鹿げていて、俺にはどうすることも出来ません。



「他の問題はないのか?」


「そうね、インダストリー(industrie)がディーフィジッツ(defizit)でゼェア(sehr)な状態なのよ」



インダストリーしか理解出来なかった。確か英語で『産業』だっけか。


まぁこの人のことだから、どうせドイツ語とかその辺の言語なんだろうけど。



「すまない、日本語で頼む」


「つまり、産業が赤字で大変なのよ」


「この国って、どんな産業があるんだ?」


「色々あるわよ。エロスなビデオを撮影、販売する産業や、エロスなゲームを製作、販売する産業とか」


「ロクな産業じゃないな」


「なんだと!? 貴様人の三大欲求を忘れたのか?」



机を手でバーンと叩き、俺に訴えかける。


どうせ三大欲求に性欲があるからどうこうと言いたいのだろう。ここは付き合ってやりますか。



「えっと、食欲、睡眠欲、性欲でしたっけ」


「ちがーう! 人の三大欲求と言ったら、性欲、金欲、独占欲でしょ!」


「ただのダメ人間じゃないですか」


「まぁ真面目に答えるなら、一次産業から三次産業まで充実している!」



えっへん、と、自慢気な表情をしてそう言う。


どんな顔をするかは自由だが、とにかく最初からそう言って下さい。



「そこまで充実しているなら、なんで大変な状況なんですか?」


「さっき言ったじゃない」


「はい?」


「我が国、主要都市同士の行き来が不便なのよ」


「あっ・・・」



全てを察すことが出来た。


つまり、都市間の移動が不便過ぎて、モノ、ヒト、カネが都市内で完結してしまい、それが所以で産業が発展しにくい。そういうことか。



「なぁエマ、さっき金欲とか言ってたよな」


「そうよ。金は宝よ」


「んははは、やってやろうじゃないの、金稼ぎを」


「秋斗くん気持ち悪いわよ」


「えぇ!?」



高笑いといえば、人生で一度はやってみたかったことなのに・・・。

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