Ⅶ
哲道が、「それは――」と、なにかしらの理由をこしらえて、説明しようとした瞬間、甘い香りが鼻をくすぐった――かと思うと、追って唇に、温かくて柔らかい、なにかが触れた。
「ごめんね……好きでもないひとから、こういうことをされたら、嫌だよね。なんだか、中沢くんを前にして、当時のことを思い出していたら、そうしたくなっちゃって。変だよね……ごめんね」
それだけ言うと、霞は、哲道に背を向けて、タッタッタッと、その場から去ってしまった。
窓がらす越しに見える、廊下を走り去る霞の姿を見ていると、この一連のできごとは、十数年の時を経ての失恋かのように、哲道には思えた。過去と現在が、一瞬のうちに交差して、その速度に、めまいがしそうだった。
もうすぐ冬がくる――哲道は、そんな当たり前のことに、突然、気づいた。
雪が降っては、青空が
――――――
[付記――蛇足かもしれないが]
M・I: 《わたしから、わたしたちへ、そしてわたしとあなたへ。接続と断絶の絶え間のない運動――それを受けいれる強さがないのなら、わたしたちはタイムマシンを発明するしかないでしょうね。断絶しそうになったら、接続状態へ戻ればいいというのは、あまりにも不自然なんだけれどねえ。それに、わたしたちから、わたしたちへ、そしてまた、わたしたちへ……という、断絶の先送りは、現状維持ではなく、無限後退でしかないんですよ。ぼくたちは、断絶するときに、たしかに進歩できるのですから》
わたし: 《孤独を受けいれる強さを身につける、ということ?》
M・I: 《違う。ぼくの言ったことは、そんなことじゃない。ぼくたちは、接続と断絶を、絶え間なく経験しているという、当たり前の事実を言っているんですよ。そして、そこにしか、ぼくたちの進歩の可能性はない……まあ、かりに断絶したとしても、次も、前と似たようなわたしたちにばかり接続するということも、事実なんですがね。しっくりくるし、気持ちがよいですから》
――――――
M・I。きみは死ぬ必要が、まったくなかった。わたしは、また、きみが、接続しにきてくれるのを待っていた。しかし、きみと断絶したあと、わたしは、きみの言葉の意味が、ようやくわかった。……
あの時とは違い、今はふたりきりで 紫鳥コウ @Smilitary
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