第8話 突然の告白
一方、佑は寡黙に裏方で振り付けや企画などで久しく踊る事はなくなったが、忙しい毎日を送っていた、今日も大規模なダンスコンテストの打ち合わせ中で、大手広告代理店の本社ビルの会議室に足立と共にいた。
ふとバッグの中で携帯のバイブの音がした。画面には一郎と出ている。
父からは今まで一度すらかかって来た事がない。
佑
足立さん、すみません、ちょっと外します。
足立
あー、大丈夫よー。
そういって会議室の外へ出て、携帯の通話ボタンを押した。
佑
何?
一郎
あー、すまん、仕事だっただろう?
佑
そうだけど、何?
一郎
母さんがな。
おまえに会いたいって。
佑
いや、帰るよ、そのうち。
一郎
そうではないらしい。
すぐに会いたいんだよ。
佑
はあ?
今から?
一郎
そういう事にはなるな。
出来るか?
これだから父とは会話したくなくなる。
佑
夜なら車で行けますが?
良い?
一郎
わかった、母さんに伝えておく。
佑
あのさ、父さん、なんでいるの?
家に。
一郎
仕事辞めた。退職したんだよ。
丸和物産。
佑
え? なんで言わないの?
一郎
おまえに言う必要があるか?
佑
あ、まあ。
じゃ、まあ、夜家で。
そう言うと電話を切り、会議室へと戻った。
一通り会議を終えた佑は、足立と共に事務所へと、タクシーに乗り込み向かった。
タクシーに乗り込むと
足立
何かあったのか?
佑
いや、父からの電話で、たまには帰ってこいと。
足立
そっか、、、、。
でも仕事中にかけて来るか?
佑は足立の感の鋭さを知っていた。
佑
今日、実家行って来ますね。
足立
それが良いよ。
元気な姿見せるといい。
佑
はい、ありがとうございます。
足立
それから、俺から頼みがある。
佑
何ですか?急に。
絶対聞くに決まってるじゃないですか?
足立
言ったな??
佑
はい。だいたいの事なら。
本当にお世話になってるんで。
足立
年末、紅白あるだろ?
佑
あー、誰のですか?
振り付けしますよ。
足立
振り付けではない。
宗祐。
佑
え?!
佑はあの一件以来、慶太とは口を聞いていなかった、正確に言えばお互いに無視、もしくは知らない振り、それ以上のそれ以下でもない存在だった。
聞けば、年末の紅白歌合戦と言う国民的な番組で、慶太、佑、海、ニナをコラボレーションさせたい大人達がいると言う話しだった。
それを足立はストレートに佑に話した。
佑にとっては、いろいろと飲み込まなくては行けない場面でもある。
海とニナは承諾済み、スケジュールも調整済みだと思う、とも話した。
無論、慶太は快諾したとも。
佑は答えは決まっていたが、あえて少し時間をくださいとだけ答え、事務所を後にした。
東北新幹線に乗り込むと、イヤフォンをして
携帯で久しぶりに宗祐の曲を検索してみた。
〜ヤングソング〜
やけにダサいタイトルだ。
これで、紅白?
再生を押す。
アコースティックギターが流れる。
続いてストリングス。
ヤング、そう、悩んでないでそうやって笑って
アコースティックギターがアッパーで、切ないコード進行で続く。
悩んでないでそうやって並んで
アコースティック、ベース、ストリングス
ふざけてないで隣座って
バスドラ
佑は鳥肌が立つほどの入りだった。
そして歌詞も圧巻だった。
聴き終わるとすぐに足立にメールをした。
出演します。諸々有難うございます、よろしくお願い申し上げます。
もう一度聴く。
何度も何度も、こみ上げるように学生初期の思い出や、ロスでの暮らし、ニナの成長、海の笑顔、練習姿、全てが走馬灯のように、徐々にグレーの作られたビルのカラーから、自然の織りなすグリーンへと変わって行く車窓と織り混ざっていく。
佑には振り付けが自然に降りて来る何年かに一度出会うような曲だった。
思いに引き込まれているうちに、次は風見西
、降り口は右側です。
アナウンスが流れ、父が迎えに来ているはずだった駅前がスピードを落とす車窓から見えてきた。広々とした新幹線のホームから在来線と交錯する改札へと歩みを進める。
降りる人もまばらな平日、いつも週末なら観光客で混雑している駅だが、父の国産セダンがぽつんとロータリーに止まっているのが見えた。
佑は助手席に乗り込み、迎えを申し訳ないと父に言った。
一郎
佑、母さんはガンだ。
佑は息を飲んだ。父はいつも唐突で正面から問題に取り組む性分なのは分かっているが、
それはあまりにも衝撃的な一言目だ。
父は続ける。病院からの電話が父にあった。あえて忙しいおまえには連絡しなかった。多分母さんもそうしたと思う。
だから許せ。と。
悪性リンパ腫が甲状腺に見つかった。
体調が悪く風邪だとたかをくくっていたが
そうではなかった。すでにステージ3だ。
転移もしている可能性は高い。
しばらくの沈黙。
父は実家に戻れないか?
即答した、年末の仕事が終わったら帰る。
父は続けた。
母さんは病状を知らない。伝えていない。母さんの性格は知っている、多分希望をなくす、自分が仕事一筋だったおかげで母さんは1人、自分を育てあげた。
父は少しだけ沈黙する。大きく鼻を息で吸うと堰を切ったように方を震わせ、ハンドルを強く何度も握り直している。
父は精一杯母さんに時間をかけて寄り添うと話した。
そして、家で出来る仕事だと、嘘をついて帰って来て欲しいと。
余計な心配や周りに配慮してしまう母にも迷惑をかけないためにもそれは父の意見に同意する。
年末まで持つのか、、。
それが心配だった。
プリステラ 櫻井和ノ助 @markun0526
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